ヴィヴィアンの願い
「あっ!昨日の、謎の新人、ルカくんとライラちゃん!ワタシの話を聞きたいのってあなたたちだったのぉ?!それならそう言ってくれれば、いくらでもお話ししたのに!」
冒険者ギルドに来て、奥の応接間らしきところに通され、竜の噂を知る人物としてギルドマスターに紹介されたのは、昨日出会った、やたら根掘り葉掘り個人情報を知ろうとする人物。
「ゴホン。えー、彼女が、数年前に、人と共に竜がいたという話をしていた人物だ。名前はヴィヴィアン・フィッチ。一応冒険者ギルドのメンバーだが、あまり依頼は受けていない。冒険者たちや依頼に関する情報を手に入れて新聞を作ったり、情報を売ったりしている……そうだな?」
「だって、ワタシにハードな依頼はこなせないから!でもみんなの必要な情報を提供しているわけだから、役立ってるでしょ!」
はぁ。
ついため息をついてしまった。
まさか彼女が情報減だとは。
「その、竜の目撃情報だけど。数年前って話だけどどれくらい確実なものなんだ?」
「待って!これは情報屋のお仕事ですからね、キッチリ報酬の話をしてからじゃないと話せないなぁ〜」
「わかった、いくらだ?」
「えっ、わかったの?お金じゃないわよ!確かに普段はお金で情報を売ることもあるけど、今回は情報の交換で手を打つわ!」
「情報の交換?」
「そう、私が竜の情報を話すかわりに、あなたとライラちゃんの独占インタビューさせてちょうだい!今すごくホットな2人だから、新聞に載せたいの、超話題になること間違いなし!」
「……金で情報を買いたいんだけど」
「それなら、ものすごい額にするからね!」
「……」
ものすごい額でも、アイテムも所持金もすぐマックス状態にできるから払えるだろうけど。
しかしデバッグモードで生み出した金を大量に市場に流通させたらこの世界の貨幣価値が変わるんじゃないだろうか……または俺の手を離れてしばらくしたら消えたりして。実はその辺は実験中で、いくらかの金貨を出して城の自室や、サミュエル、アレンに預かってもらったりしている。今のところ消えてはいないが、今後どうなるか不明だ。
「……インタビューの内容による。あと出す前に問題ないかチェックさせてもらう」
「えーっ、そんな変なこと書かないから大丈夫!」
「ヴィヴィアン……流石に不敬すぎるから、やめろ……」
「え?不敬ってなに?この人達偉い人なの?」
「……隠してはいないとおっしゃっていましたが、伝えても良いでしょうか?流石にこの調子で話していてはどんなことになるか……」
「えぇ?なになに?」
「……まぁ、話しても信じられないかもしれないけど。俺は、この国の王太子のルカだ。本当は1歳過ぎなんだが、特殊な魔法で姿を変えている。……本体はこれだ」
本来の幼児の姿に戻る。
もうデバッグモードをいちいち操作しなくても、一瞬で姿を切り替えられるようになった。
「……!!!?!!?!」
流石に驚いたのか、大口を開けてプルプルしながら俺を指差し、ギルドマスターを見て、また俺を見る。
幼児のまま話してみる。
「そういうわけで、王太子の情報をホイホイ渡すわけにはいかないし、変なことを書かれても困るからな。俺や、俺の友達であるライラのことを書く時には検閲させてもらう。それができないなら、記事にはしないで欲しい。もし勝手に変なことを記事にしたら、それなりの対応をさせてもらうからな」
まだ混乱しているらしいヴィヴィアンは、何か言いたそうだがうまく言葉にならないようだ。
「ルカ、ルカ、こっちにおいでよ」
幼児の俺をみて、ソファに座っているライラが膝に乗せようと手を伸ばしてくる。いや、ここで俺がライラの膝の上に乗って話すのはどうかと思うな……
ライラも気が散って話し合いにならなそうなので、若者魔王モデルに戻る。
すると、キッ、と何か思いつめたような表情をして、ヴィヴィアンがこちらを見た。
「あなたが王子だというなら、どうかお願いします!私の弟を助けてください!」
がばり、と全力で頭を下げるヴィヴィアンに驚く。
「弟?」
「私のたった1人の家族で、年の離れた弟で……1年前から行方不明なんです……」
「1年前……」
「まだ5歳だったんです、父母が亡くなって、私が面倒を見ていたのに、少し目を離した隙に居なくなってしまって……どこを探しても……いなくて……弟は幼いながらに魔力が強くて、攫われてしまったのかもしれないんです、それで私、情報が欲しくて、情報屋専門になって、捜しているんですけど、私の力じゃ、もう……」
ヴィヴィアンは、ぼたぼたと大粒の涙を流し始めた。こ、困ったな……
「ヴィヴィアン、俺は確かに王子だけど、なぜ俺が弟を探せると思ったんだ?可能性のあるところはもう探したんだろう?俺じゃないと探せないようなところがあるのか?」
「私が……情報を集めているうちに、聞いた話があって。王弟殿下が、魔力を持つものを集めていると……」
「王弟?今はまだ罪が確定していないが、罪に問われて拘留されている、あの?」
「はい、そうです……王弟殿下は、より強い魔力を得るために、研究をしていると……そのために、魔力を多く持つものを集めていると聞きました、ですが私のような一般人が近づく手立てもなく……弟は今、どうしているのか……」
泣きながらも懸命に話すヴィヴィアン。
「……確かに、彼女の弟は突然行方不明になった。幼いながらも、魔力検査ではかなり高い水準に石を輝かせ、将来を期待していたところだった。……彼女はそれまでは、情報屋もやってはいたが、メインは普通の冒険者だったんだが……弟が行方不明になってからのここ一年は、情報屋として活動していたな。弟の情報を求めてのこととは思っていたが、こちらも有力な情報もなく……見守ることしかできなかった、すまない」
ギルドマスターがそっと、彼女の肩を叩いた。
そうか、あの昨日からの彼女のやや面倒な付きまといは、弟のためだったんだろうか。さっきからちょっと口調も違うし。無理していたのかもしれないな。
それにーー王弟に関わることなら、片付けておいた方が良いだろう。
今は王の殺人未遂ーー俺がいなければ完遂できるところだっまがーーの罪に問われているが、余罪があるなら明らかにすべきだ。
それに、タイミング的に、俺が生まれたのと同じ頃に消えている。もしかすると何か関係があるのかもしれない。
「わかった、調べてみよう」
「あ、ありがとうございます……!!」
「もう少し詳しい話を聞かせてほしい、出来るだけのことはやってみる」
「う、ううっ、ありがとうございます……ひぐ」
ボロボロと泣き続けるヴィヴィアン。
とりあえずハンカチを渡してみる。
王子としての身だしなみなのか、必ず持たされるんだよな、侍女のニーナに。
「あっ、ありが……とう……ござ……ふうう〜!!」
しばらく彼女が落ち着くのを待ち、話を再開したのだった。




