魔力検査をしよう
ライラの母竜を探している話をギルドマスターに伝え、近いうちにその噂を知る冒険者と連絡を取ってくれることを約束してもらった。
他言して欲しくない話は終わったので、ギルドスタッフを部屋に戻してもらう。
先ほど部屋にいた、ギルドマスターの秘書っぽい女性と、何人かのスタッフが戻ってきた。
「じゃあ、これで冒険者登録することは問題ないかな?」
一応、改めて確認しておく。
「はい、問題ありません。ただ、王子……しかも王太子が冒険者登録をした前例はありません。特別待遇をしようにも、どうしたらいいのかもわからないのですが、どうしましょうか?」
「ああ、もちろん特別待遇なんて期待してないよ。普通でいいから、いつも通りの登録作業をしてくれればいいよ。王子だってことは何が何でも隠すってわけでもないけど、言いふらして回る気もないし」
「そう……ですか?それはこちらとしては助かりますが、不便では……」
「それにほら、冒険者を普通にやってみるっていうのも、社会見学として役立つんじゃないか?」
俺が王様になるなんてことがあるのかどうかはわからないが。この世界に興味があるのは本当だ。
「シャカイケンガク……ですか?まあ、そういっていただけるのであれば……、先ほどは登録書類の作成途中でしたね」
「マスター、こちらに書類を預かってきています」
「おお、ありがとう。見せてくれ」
秘書っぽい女性が、さっき受付でお姉さんが書いていた書きかけ書類を持ってきてくれたらしい。ギルドマスターに渡している。
「魔法使い……ですか。そちらのお嬢さんも魔法使いなんですね。護衛の方ですか?」
「いや、大切な友人だ」
「ご友人ですか。お二人とも魔法使いですし、魔力検査を受けていただいてからランクを設定した方が良さそうですね」
「あ、それさっきも受付で聞いたな。受けるのはいいけど、何するんだ?その魔力検査って」
「魔力検査は、特殊な石を使って行います。魔力を通すと色の変わる石があるんで、それに魔力を流してもらって、色で魔力量を判定します。もちろん誤差はありますし、瀕死になると魔力が上がるなんて特殊な奴もいますが、検査しやすくて危険性はないんでこの方法が多いですね」
「魔力を流すってどうやるんだ?」
「両手で触ると、勝手にその両手の間を魔力が通るんで、特殊な能力は必要ありません。せっかくだから、今やっちゃいましょうか。おい、魔力検査石持ってきてくれ」
「はい」
秘書さんが石を持ってきてくれた。
テーブルの上にカラフルな布が敷かれ、その上に石が置かれた。拳大の黒い石だ。
「これに両手で触れると、石の色が変わります。試しにやってみてくれ」
「はい……私は魔力量はあまり多くないのですが……」
秘書さんが石に両手で触れ、しばらく待っているとジワジワと石の色が変わってきた。
真っ黒だった石が、黒っぽい緑になった。特に手の間をつなぐように変色している。
「こんな風に変わるんです。しばらく待って、色の変化がなくなって安定したら、もっとも明るい色の部分で判定します。下に敷いてある布と見比べて……この色だとこれですね、魔力はCランクです。本当はもっと細かく区分できるんですが、冒険者ギルドではわかりやすいように、冒険者ランクと同じF〜Aランクで分けています。魔法使いでトップ冒険者の仲間入りするには、まぁ最低Bランクは必要でしょうね。鍛えれば魔力量は変わるんで、定期的に魔力測定の機会を設けたりしてます」
「へえー面白いな」
「私も試しにやってみますね」
ギルドマスターが石に手を当てる。
と、さっきの秘書さんより早く、色が変わっていく。しばらくすると、綺麗な朱色っぽい色になった。
「私はまぁまぁ魔力があるんで、Bランクってとこですね。ランクは明るさで判定しますが、色で相性のいい魔法なんかもわかりますよ。私は赤っぽいんで攻撃系、炎系が相性いい、って感じです。さっきの彼女は、明るさはCランクで、緑なんで回復や補助魔法なんかが相性いいですね」
「へえ、そんなことまでわかるんだな!」
「では、どうぞやってみてください、触るだけなんで簡単ですから」
す、と俺の方に石を近づけてくる。
触ろうとしてふと心配になった。
俺の魔力、カンストさせちゃってるけど大丈夫かな?
「……一応、念のため聞くけど、この石って壊れたりしないよな?」
「壊れる?何故ですか」
「えーと例えば、ものすごい魔力量のやつがこの石を触ったらどうなる?」
「ええと……少なくとも冒険者ギルドに所属しているこれまでの全ての冒険者、魔法使いがこれを使って壊したって話は聞いたことがありません。最高に反応した場合でも、石が真っ赤になったり黄色になったりするだけで、割れたり壊れたりはしないはずです」
ちょっと困った子を見るような目で見られて、この王子、どんだけ心配性なんだ?またはものすごい自信過剰なのか?という心の声が聞こえる……!恥ずかしい!聞かなきゃよかった!
「ならいいんだ、じゃあやってみる」
なんだか恥ずかしくなり、ささっと両手で触れる。
「え?」
触れた、と思った石がない。
え、石が消えた?
「石が無くなったんだけど……」
「私も見てたよー、無くなったね」
「……ど、どういうことだ?私も見ていましたが、突然なくなりましたね」
「どこかに落としたのかな?」
テーブル周りを探してみるが、見つからない。
「どういうことだ?」
「……あのう、もう一つ持ってきましょうか?」
「……そうだな、石はまた後で探そう、家具の隙間に入ってしまったのかもしれない……まずは検査を進めよう」
秘書さんがもう一つ持ってきてくれた。
「この石は沢山あるのか?」
「いえ、それなりに稀少なものですから、ウチには大小合わせて10個です」
「そっか……」
「どうかしましたか?」
ギルドマスターが首を傾げている。
俺はちょっと嫌な予感がしている。
「あのさ……もしかしたら、俺が触ると無くなるのかもしれないんだけど、この石」
「……はあ……どういう意味ですか?」
「えーと……この石、何かに固定できないかな?絶対飛んで行ったりしないように」
「固定……ですか?よくわかりませんが……では、紐で縛ってみましょうか」
いまいち納得はしていない様子で、ギルドマスターは石を縛り、さらにその紐を近くの家具にくくりつけた。
「これでどこかに飛んでいくということはないと思いますが……」
「うん、ありがとう。えーと、もし、この石が無くなっても、一応あと8個はあるんだよな?」
「ありますが……」
こいつ何言ってるんだ?という視線を受けつつ確認する。だってなぁ。さっき触った時、一瞬、シュッと無くなったような感触がしたんだよな……
「じゃあ、もう一度やってみる。えー、念のため、みんなよく見てて」
「はい」
「いいよールカ!」
再び、石に触れてみる。
まずは片手を触れる。消えない。大丈夫だ。
もう片方の手を触れてみるーー消えた……
「!?」
「あ、ルカが触ったら消えたね」
「ああ……消えたな……」
中身の抜けた紐だけがその場に残っている。
「ど、どういう事ですか?!ルカ様、これは一体何をしたんです?!」
「いや、俺にもよくわからないんだけど……」
でも、もしかすると、カンストしている魔力のせいなんじゃないだろうか。
だとすると、俺だけじゃなくてライラが触れても消えるだろうな……
「別に俺が何かしたわけじゃないけど……」
あ、しまった、触る前に石の詳細を見ておけば良かった。
見ようと思うとありとあらゆる人や物にポップアップ表示が出て鬱陶しいので、表示を切っていて忘れていた。
「えーと、もう触らないから、その石もう一つ見せてくれないかな?」
「は、はい、一応もう一つこちらにありますが……」
秘書さんが机に置いてくれた石のポップアップ表示から詳細を確認する。
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魔力検査石
生物の体内にある魔力循環器と似た構造を持つ石。
生物が体の2点で触れる事によって魔力が通り、その魔力量によって色が変化し発光する。
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うーん。なるほど。
身体の中の魔力循環器と似てる石なんだ。
「えーと、誰か教えて欲しいんだけど、もしも、例えばごくごく小さい弱いモンスターに、強力な魔法使いが、全力で魔力を通したらどうなる?」
「……え?ええ、そうですね、弱いモンスターは魔力の耐久値が低いと言われていますから、死ぬんじゃないですかね?」
ギルドマスターのが首を傾げながら答えてくれる。
「それが何か関係が……?」
「うん、つまり、魔力の耐久値ってものの問題かな……この石にも、魔力の耐久値があって、それを超えてしまったんじゃないかと思うんだけど……」
しかも多分大幅に。
「は……はあ?!そんなこと有り得ますか?これまで、最高の魔法使いでも壊れる兆しはなかったんですよ?それが……跡形もなくなるくらい壊れる魔力量だというんですか?」
「……うーん、自分で言うのも微妙だけど、多分そうだと思う。あと、ライラも俺と同じくらいの魔力量だから、ライラが触ってもその石は無くなるんじゃないかな……?」
「な、そんなことが……!」
自分で自分凄いですって言ってるみたいで気まずいなぁ。しかし、おそらくそういうことだろう。
「納得できないなら、もう少し試してみても良いけど……石がなくなるから勿体ないかなと思って」
「そ、そ、それは……確かに……」
しばらく絶句するギルドマスター。
「……どうしようか?」
「うむむ……いえ、何かの間違いかもしれません、もう一度試してみましょう!」
「……石、無くなっても大丈夫か……?」
「ぐ、くふっ、しかしこのままでは原因がわかりません……!」
俺の魔力量のせいだとは納得できないらしいギルドマスターの判断で、この後、ライラが一つ、俺がもう一つ石を消したところで、ギルドマスターはやっと納得したようだった。
仕事できる系いい顔のオッサンなのに若干涙目になっていた。だから言ったのに……




