第22話 城での出会い
というわけで、俺は今ライラと一緒に、かなりの上空から王城を眺めている。竜の姿で。
あの後、領主の弟を自白させひっとらえて、領主にしっかり調べてもらうようにアレン達に頼んできた。そして、そのまま町外れで竜になり、下からはそうそう見えないほどの上空を飛んで、マップを見つつ王城まで来たのだ。
「どうするルカ、このままお城には降りられないよね?」
「そうだな、突然竜が来たとなったらものすごい騒ぎになるだろうし、なんなら攻撃されるかもな。とりあえず人間になって屋根の上にでも降りるか」
「うん、あ、あの高い塔の上は?」
「良いんじゃないかな、あのへんは外に出てる人間も見えないし」
「じゃあ行くね〜」
ライラの黒い竜体が、ゆらりと靄に包まれたように揺らめき、サイズが小さくなり、人間の少女に変化した。
俺も若者魔王モデルに変更する。
ほとんど自由落下、屋根が壊れないように少しだけ浮遊魔法で補助して、塔に降り立つ。
「さて、城の中をいろいろ見て回りたいけど、どうしたら良いかな?」
「普通に歩いて見て回っても良いのかな?」
「一般人が普段からうろつくような感じじゃないだろうからな……でも、意外と、堂々と歩いてれば大丈夫かも知れないけどな。どうなんだろう?」
「それか、またあのスライムになって天井裏に行く?私はスライムに……なれるかなぁ……竜のままサイズを小さくする方がマシかも……」
「え、そんなことできるのか?」
「やったことないけど、この人間の体になってる時、余ってる分の体積エネルギーは魔力として余分に持ってる感じみたいだから。同じように魔力に変換すれば小さくなれるかも。形を作るのは気を使うから、スライムみたいに変な形は結構難しそうだけど」
「へー、なるほど、小さくなれると便利かもな。うーんどうしようかな、まずは王の様子を見に行くかな?どこにいるんだろうな王様って。ちょっと探してみる」
マップを開いて城の詳細を見ていく。
そういえば、この城はゲーム中には壊れた状態でしか出でこなかったけど、今マップを見ているときちんと今の壊れていない状態で、しかも部屋の名前も出てくる。そしてそこに人がいると点として表示される。便利だ。だけど本当にこれは何なんだろう、度々思っているが。
そうして、城の各部屋の詳細を確認していると。
「ほんとにいた!あの、あの、あなたたちりゅうですか!」
「うわっ?!」
ビックリした、別位置のマップに集中していて気づかなかった。
屋根のすぐ下の窓から、小さな男の子が身を乗り出してこちらを見ている。
「あの、すこしおはなし、しませんか、りゅうのかたがた!」
「フェリクス様!本当に誰かいたのですか?!おやめください、お下がりください!」
後ろから女性の声もするな。
男の子はまだ……4、5歳だろうか?金髪にオレンジの目で、可愛らしい感じだ。一目で上質とわかる服を着て、城にいる子供。誰だろう?
「なんかこの子、ルカに少しだけ似てるね、魔力の質も少しだけ似てるよ。もちろんルカの方が黄金に輝いてて綺麗だけど、なんだろ、金色とオレンジくらいには似てる」
「微妙な表現だな……でもそう言われてみたら、たしかにちょっと似てるかもな、姿形が。赤ちゃんの方に」
この体は黒髪だけど、本当は金髪だし。
並べたら兄弟みたいかもしれない。
もしかして王の隠し子か?いや、それなら城の中を堂々と歩き回ってるわけないか。
でも血縁を感じるな。
「やあ、こんにちは、もしかして、俺たちが空から降りてくるところ見てたのかな?」
「はい!あの、そらのうえをみてたら、りゅうのすがたがみえて、そのあとにんげんになって、ここにおりてきたのをみて、みにきたんだ!」
「そっか、見つかったならしょうがないな、少しお話ししようか。俺たちは人間の友達に頼まれて、王様の様子を見にきた竜なんだよ」
という事にしてみよう。
「にんげんのともだち?にんげんにともだちがいるの?」
「そうだよ、この国の王子様、まだ赤ちゃんだけど、友達になったんだ」
「あっ!それ、ぼくのイトコだよ!いいな、ずるい!ぼくもともだちになりたいよ!」
「イトコ?もしかして、王様の……弟の、子供?」
「そうだよ、おうさまは、おとうさまのおにいさまだよ」
へー、王弟に子供がいたのか。
「フェリクス様!だ、誰とも知れぬ者とお話されてはなりません、離れてくださいませ!」
「わあ!」
引っ張られた男の子は窓から見えなくなり、代わりに侍女らしき女性が窓からこちらをのぞいてきた。きっ、とこちらを睨みながら言い放つ、
「そちらの貴方、竜だかなんだか知りませんけれど、畏れ多くも王族であられるフェリクス様にそのような口の聞き方、失礼ですよ!」
「なに、人間、あなたの方が失礼だよ、初めて会った相手に怒鳴って!しかもルカに対して!」
「ライラ、いいから、彼女はそういう仕事なんだよ」
「……怒鳴る仕事なの?」
「うーん……」
「もう、サーシャ、だいじょうぶだよ!ぼくほんとうにみたんだ!このひとたちが、りゅうからにんげんになるところ!」
「……たとえ、竜だったとしても、安全とは限りません!」
「まぁたしかにその通りだけど。俺たちは王子の友達だから、王子と仲良くしてくれるなら、俺たちは何もしないよ」
「えっと、ホラ、見てて」
ライラがパッと黒竜に変化し、また人間に戻った。
「………!!!!!!!」
「うわあ!りゅうだ!ほらやっぱり、りゅうだったでしょ!」
「これで、竜だってわかった?」
「ライラはサイズ的に部屋に収まるけど、俺が竜になると部屋に入りきらなくて壊すと思うから、ここでは無理だな……」
「り、竜、近くで初めて見ました……」
「ぼくも!すごいね、かっこいいね!」
「で、ですがフェリクス様に何かあってはなりません!だいたい竜だからといってなぜ城の屋根にいるのですか!警備の者に知らせて捕まえてもらいましょう!」
「だめだよサーシャ!そんなことしたら、おはなしできなくなっちゃうよ!」
「フェリクス様!」
「うーん、捕まるのは困るな。捕まるなら抵抗するから、城が壊れちゃうかもな?屋根が落ちてきても壁が崩れてもいいかな?」
「な……脅しですか!」
「違う違う、単に、事実を言ってるだけだよ。ここで楽しくお喋りするのなら、君たちや建物に危害を加えるつもりはないよ」
「サーシャ!すこしおはなししようよ!ぼく、やっと、へやのそとにでられたんだよ!あそびたいよ!」
「そ、それは……」
なんか気になるセリフがあったな。
「部屋から出られなかったのか?どうして?」
ゆっくり話そうかと、屋根の上から窓へ向かい、室内に入った。ライラも後からついてくる。
どうもここは遠見のための塔なのか、室内は殺風景だ。物置のようでもある。
「ちょっと、せきがでるから、ねてなきゃだめだったの」
「ちょっとではありません、静かにしていないと大変なのですよ!呼吸ができなくなりかけていたのですからね!」
「そっか、大変だったな、もう治ったのか?」
「うん!」
「……完治という訳ではありませんが、症状が良くなりましたので、今はお散歩に出ることは許可されています」
「なぁ、回復魔法では治らないのか?」
「なんども、まほうかけてもらったよ。でも、そのときはよくなるんだけど、またわるくなるんだ」
「回復魔法は、本人の今の身体にとって最もベストな状態に近づけるものだと聞いております。もともと持つ身体の機能不全に由来する持病は治せないとか……」
「まぁ、加齢とかは止められないんだろうしな、そんな感じなのかな?そういうのって治す方法ないのか」
「そんなものがあれば、すでに試みられているはずです。フェリクス様の父君であられる王弟殿下は、フェリクス様をとても大切に思っておられますから」
「へぇ、そうなんだ。王弟殿下ってどんな感じなんだ?」
「おとうさまはね、やさしいよ!あんまりたくさんはあえないし、かおはこわいけど」
顔はこわいのか。でも子供には優しいのかな。
「ぼくのこと、ぜったいなおしてくれるっていってるし!だからぼく、ぜったいなおってげんきになるんだ!そしたら、いろんなぼうけんにいくんだよ!」
「冒険か、いいな!」
子供の病を絶対直してやる、か。