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第12話 城へ帰る途中で、襲撃にあう

 弓使いキースが城への報告に旅立ってから、丸2日経ち、今俺は赤子状態で乳母に抱っこされながら、馬車に揺られている。


 彼らと出会って宿に来た日、夜にこちらの体の寝る用意を終えて布団に入ったあと、ライラの元にいる体と視点切り替えして、ライラには現状報告してある。そのあと昨日もたまにライラのところに戻っては、向こうの身体でも食事したり、ちょっと体を動かしたりしている。

 とりあえずしばらくはこちらとあちらを切り替えて過ごすつもりだ。


 昨日、つまりキースが出発した翌日には、確認と報告のための連絡係が宿に着き、アレン達と情報を確認しあい、俺の存在を確認し、また戻っていった。そして今日、馬車2台と乳母1名、侍女2名、護衛15名がやってきた。護衛は基本馬に乗っていたが、各馬車に2名ずつ同乗している。俺は大人しく赤子のふりをして運ばれているところだ。


 一応昨日までに彼ら……アレン、ヴィクター、サミュエルと話した結果、とりあえず城について落ち着くまでは俺は普通の赤子のふりをしておくことになった。どうも赤子がこんなに魔法をガンガン使うのは異様らしいし(まあそれはそうか……)、懸念である赤子の世話(オムツ替えとか……!)については、乳母にだけは相談しておいて、タイミング良くトイレ……というかそこら辺の茂みだったりするのだが……に連れていってもらったりすることにした。

 そのため、この俺を抱っこしている乳母にだけは、新たに意思疎通の魔法をかけて俺と会話できるようにしてある。


 ちなみにこの乳母は本当に授乳をするための乳母で、俺の実母である王妃が体が弱かったため、生まれる前から乳母が雇われていた。半年前に子供を産んだ23歳の女性で、どうやら母方の遠縁の親戚で元は下級貴族の令嬢だったが裕福な平民と結婚して今は平民らしい。2人目の子供を半年前に産み、乳の出も良いということで、俺もお世話になったらしい……が。今となっては授乳には激しく抵抗がある。というか、意思疎通の魔法で会話してしまった後で、ほぼ初対面の子育て中の若奥さんに授乳されるとか、無理だから。人によっては役得って感じかもしれないが!アレンやヴィクター、サミュエルも見守る中、ふつーに授乳された後彼らと普通に会話するとか無理なんだけど!俺にはできない!


 ……という旨、乳母に伝えてみたところ、わかってくれた。名前はニーナ・ヒル。背は低め、ややポチャっとした体型で、優しげな顔をしている。明るい茶色の髪と目で、なんというか、言い方は悪いのだがとても好感の持てる普通の村人って感じだ。好感は持てるのだが強烈な個性はないというか……でも、いい人そうではある。

 自分の子供もまだ小さいのに、俺の世話をするため駆けつけてくれたのだ、ありがたい。


「なぁニーナ、後どれくらいで着く?あ、俺の声はニーナとあの3人以外にはバブバブって感じにしか聞こえないから、誤魔化しつつ喋ってくれ」

「はっ、はいっ!あ、えーと、あの、殿下がお疲れになる前に着くと良いのですけど、あとどれくらいかかるのでしょうか?」


 慌てたニーナは、なんとか誤魔化しつつ、同乗する護衛に確認している。


「この谷を越えたら、今夜の宿がある街につきます。殿下の体調を考えて出来る限りゆとりある進行となっておりますから……、ですがもし殿下に何か不調があれば、途中の休憩を増やしますから、その時はすぐに報告してください」


「は、はいっ、わかりました…!殿下、谷を越えたらひとまず今日の移動は終わりですから、後少しですね」

「うん、ありがとうニーナ」

「とんでもございません、あっ、いえ、なんでも……あはは、は……」


 シーン。やや不審なものを見る視線を同乗している護衛と侍女の1人からうけるニーナ。なんかごめん。


 ちなみに同乗している護衛役2人のうち1人はサミュエルなので、気の毒そうな顔でニーナを見ているがうまいフォローは出来ないようだ。


 彼ら……アレン・ヴィクター・サミュエルの3人には、俺への協力を快諾してもらった。

 一昨日の話し合いの時。

「俺はまだ死にたくない。だけど残念ながらまだ赤ちゃんだし、出来ることはあまり多くない。

 王子という立場の赤ちゃんがウロウロ話聞いて回ってたら異様だしな、いろいろ。だから、俺の代わりに情報を集めたり、俺に報告したりしてくれると助かるなーと思って。もちろん、何か手がかりが掴めたら普通に上司に報告してくれればいいんだけど、ついでに俺にも教えるってくらいでもいいよ」

 そんな感じのことを告げた俺に、戸惑いつつも了承してくれた彼ら。その後も良くしてくれている。城に戻って、王か宰相か、人事権のあるやつにお願いして俺付きの近衛騎士にしてもらおうかな、なんて考えているが、できるかな。そもそも王も宰相も俺的には会ったことないし赤子が大人みたいに話すことを受け入れてくれるかは未知数だけどな!


 とりあえず、連絡を取りやすくしたいんだけど、いい方法が無いものか……パーティーに入れるのは4人までだから、すでに3人枠を使っている今1人だけ入れるのも変な感じだしな。

 このゲームもだけど、あんまり自由に連絡取り合えるツールって無いよな。スマホとは言わないけど、簡単なケータイ機能でもあればなぁ。

 何か出来ないか考えてみよう……


 などと思っていたら、いつの間にか谷にさしかかっていたらしく。

 そして、予定外に馬車が止まった。なんだ?


「この先に倒木があり道をふさいでいます。退けるため少し停車します」


 先に進んでいた騎馬の護衛が馬車の窓越しに報告してくる。倒木ねえ。ふうん?


「サミュエル、ちょっと俺を抱っこしてくれ」

「はっ……、ニーナ殿、儂がしばし代わりましょう」

「はいっ、わかりました、どうぞサミュエル様」


 やや唐突感があるが、俺はニーナ抱っこからサミュエル抱っこに移動した。


 メニューからマップを見てみる。

 やや広域表示にすると、俺たちの一団とは離れた位置に複数の点が動いている。20……30くらいか?


「サミュエル、道を外れた谷の上あたりから30人くらい誰かが近づいてきてる。もしかして、俺が城に帰ると都合が悪いから途中で始末しようとしてる奴らじゃないかな?」

「それは誠ですか!谷の上にはそのような大人数が通る道などございません。もし本当に30人もの人がいるのであれば……此方を狙ってきている可能性が高いですな」

「証拠は見せられないけど、それくらいの人数がいることは確かだから。みんなが不用意に近づかないようにした方がいいな。谷の上から弓とか魔法とかで狙われると不利だろ」

「わかりました、お待ちください……おおい!その谷間にはまだ入るな!先に行っているものも呼びかけて一旦戻れ!」


 俺とヒソヒソ話していたサミュエルは、話を聞くと馬車から外へ身を乗り出して大声で呼びかけた。


 馬車のすぐ横を騎馬で進んでいたアレン、ヴィクターにも話しておこう。


「アレン!ヴィクター!谷の上に30人くらい、多分こっちを狙ってる奴らがいる!気をつけろ!」

「はっ!わかりました!」

「まじかよ!了解っす!」


「それからニーナは馬車の中で待機、侍女さんたちも。一応防御力アップとか魔法抵抗アップとか補助魔法かけとくから、安全確保できるまで待機な!」


 彼女たちだけでなく、確認できるこちらの人員全員に補助魔法をかける。

「あっ、この魔法かけてるのは全部サミュエルって事でよろしく!」

「はあっ?!儂はそのような……ゴホン、いや、なんでもない、皆に補助魔法をかけたゆえ、安心してここで待つように……」


 俺に向かって大声で喋りかけて、周りからえっ?て感じで見られたサミュエルは慌てて訂正していた。魔法使いだから魔法使って補助するのは普通、いやむしろやらなきゃならないことだよな!

 なんというナイスアイデア!

 サミュエルに抱えられた状態なら、いくら魔法を使ってもサミュエルが使ったと言い張っていればおかしくないのだ!


 サミュエルにお願いして馬車から乗り出して外が見える位置に移動してもらう。出入り口を開けて身を乗り出す感じだ。


 素早さアップ、力アップ、とりあえずステータスアップ系は一通りかけておこう。残念ながら絶対防御とか絶対魔法反射とかはないんだよなーゲーム中の魔法には。近いものはあるが、100%成功ではなくて何割かダメージをくらってしまうのだ。

 毎回ダメージゼロだとゲームにならないからな。ある程度ダメージを受けるように調整したのだ……あれっ。

 もしかして調整すればいいんじゃないか?その数値を。できるかわからないけど、これまでもそんな感じで結構色々できたもんな。

 よし!開け調整メニュー!!

 ゲーム開発ではいろんな数値を、例えば表計算ソフトだったりテキストだったりオリジナルのツールだったりで設定することになる。

 このゲームでは基本的にオリジナルツールで最終調整をしていた。ツールで数値を変更すると即ゲーム中に反映されて試しながら調整しやすいのだ。

 つまり……きた!

 デバッグモードのごとく、メニュー画面に重なるように新たなウインドウが開いた。調整画面だ。

 ここで様々な数値を変更できる。

 とりいそぎ、補助魔法の効果数値をマックスにしてみた。これで変わるだろうか?


「アレン、ちょっと力強くする魔法かけるから、かかったらそこらへんの木の枝でも切ってみて」

「わかりました!」


 アレンにマックス値の力アップ魔法をかけてみる。


「ハッ!」

 ズバアァァァァァァァン!


 ちょっぴり試しに木の枝を切ってみたとは思えない豪快な音が聞こえたな……


「な、な、な、なんですかこれは、王子殿下何をなさったので………?」

「……成功だな!ちょっと魔法の効果を上げてみたんだ!よく切れるようになっただろ!」

「そ、そういうレベルではないように見えますが?!私は剣で木の幹を切り倒したことなんてありませんよ!」

「び、びびったーメチャ綺麗に切れてるじゃんこの木!しかも剣の方も傷んでないみたいだし!どうやったんだよスゲーな!あのう殿下、俺にもかけてみてもらえませんかその魔法!」

「うん、試してみよう、ほい」


 ヴィクターにも力アップ魔法をかけてみた。

「おお!なんか力が湧いてきた気がするぜ!よっしゃー!オリャアァーーァァァァァァ?!」


 勢いよく木を切りつけたヴィクターが、あまりにも簡単に木がスパッと切れたせいで、勢い余って近くの木を何本か余計に切ってしまい、倒れてくる木に慌てている。試しに枝切ったアレンが幹切ってるんだから予測しようぜヴィクター!でもその全力なノリノリ感は嫌いじゃない。


「わあああぁぁあ、ああ、ビックリした……でもとっさに倒れてきた木を叩き返せた自分の力にちょっと引くなこれ!殿下マジで何ですかこの魔法!」

「まさか殿下これを儂がかけた事にしろと仰るのですかな?このような異常な魔法儂はかけられませんぞ!」

「えっ、いや全部サミュエルがやってるって事にしたいんだけどダメかな?」

「明らかに人知を超えた魔法を儂が突然使い始めたというのは無理がありますぞ!」

「大丈夫だよ、これからこれくらい使えるようになるって!」

「そんな無茶な!」


 俺たちが馬車の近くでわちゃわちゃやっているうちに、前方から戻ってきた護衛が1人……怪我をしている!肩を矢がかすったのか、赤く血が出ている。


 負傷した彼に回復魔法をかける。

「何があったか聞いてくれ!」

「何があった?!」

「回復ありがとうございますっ!前方にて8人の護衛で倒木を避けていたところに、上から襲撃され、私は遠くにいた為、報告に戻りました!かなりの人数がいました、抑え切れず間もなくこちらに来ます!」


 ……来たか!

家族がインフルエンザにかかって、やや不定期更新になっております……

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