第11話 自分のことは自分でできると主張してみる
おお、町だー!!
初めての町を見た俺は平静を装いつつも内心ウキウキだった。
魔の森から離れ、町が近づくにつれて、畑などが見えはじめ、ポツポツと小屋が点在し、そして、町が現れた。
町としてはそんなに大きくは無いが、辺境にしては栄えている方だろう。ゲーム中の時間軸だと、魔の森に最も近い拠点となる町だ。
魔の森に最も近いため、町の周りには壁があった名残りがある。大昔は壁で囲っていたが、ここ数百年間不可侵を貫き平和なため、崩れた壁を再建せずにじわじわ町が拡張されていった。
そのため中心地には初期からあった家や敷地が残り、外周には何重にも後から作られた新しい家がある、ダーツの的のような構造になっている。
そんな成り立ちのため、重要施設や領主の館は町の中央に集まっている。
……って感じだったはずだ。
でもここはゲームそのものでは無いし、生きた人間が住んでいる町だ!どうなっているんだろう!俺、ワクワクするぜ!
そんな俺の気持ちを知らない彼ら……ソトリア4人組は、町に近づくと俺を毛布で包み、外からあまり見えないようにしてしまった。
な、何だとー!
いや、気持ちはわかるよ。この見た目、目立つもんね?本物の金かなって感じに輝く髪だけでも怪しいし、こんな赤子な王子がこんな辺境に突然いるとかおかしいしね。バレない方がいいよね、うん。わかるけどさ。
コレじゃ俺は何も見られないじゃないか!!
このワクワクをどうしてくれるんだ!
俺の心の叫びにも気付かず、彼らはサクサク移動して、まずは宿を決めたようだった。毛布に包まれてあまり見えなかったが、町の中央寄りだがど真ん中ではない、でも割と室の良さげな内装のある良い宿っぽい感じがする。多分。……見えねーよ!
そして部屋に運ばれて、主寝室らしき部屋の、大きなベッドに寝かされた。
毛布は剥がされたが、今度は布団をかけられた。デカイ。
「……じゃあ、行ってくる」
「頼んだぞ、できるだけ早く安全に迎えを寄越してくれ」
「そう伝える……」
「よろしくな!」
「気をつけて行くんじゃぞ」
どうやら王城への連絡係になった弓使いキースが旅立ったようだ。移動しっぱなしで大変だな……がんばれ!
「では我らはまず……王子殿下がつつがなく過ごせるように用意せねばなるまい」
「と言いますと……?」
「まだ王子殿下は大人のような食事も出来ないじゃろう。山羊などの乳か、スープのようなものを食されるのではないか?それに……殿下も赤子である限りは、オムツなどの世話も必要じゃろうが……森ではどうされていたのか……もし放置されていたのならば、大変なことになっているかも知れん。おかしな匂いはしないが、確認して手当せねばなるまい。儂らでは行き届かぬだろうから宿の女将にでも紹介してもらって信頼の置ける臨時の乳母のようなものを雇うか……」
「えっそれヤバくねえ?!殿下、出しっ放しとか?!とりあえず見てみようぜ」
「そ、そうですね、もしそうなっていたら湯で流したりしなければいけませんね……」
ま、待て待て待て!
そうだったー!赤子ってオムツの世話とかされるよな!しかし俺にはそんなことは必要ないのだ!
残った3人の意見が一致して、今俺は大開脚状態でオムツを剥がされようとしている!しかも排泄物出しっ放し疑惑とともにだ!嫌だ!無理無理!
しばらく様子見しようかなとか思っていたけど無理無理!!
ムーリー!
俺は赤子らしくしようと抑えていた力を解放して彼らを振りきり、浮遊魔法を使って距離をとった。
「へっ?!お、王子……浮いてる?!」
「うわわわわ!どーしたんだよ殿下浮いてるじゃん!なんだこれ、魔法か?サミュエル殿、魔法使ったんですか?」
「いや……儂は使っておらんが、確かにこれは浮遊魔法のようじゃな……一体なぜ……」
慌てる彼らを見つつ、どう収拾をつけようか考えてみる。
よし、こうなったら、彼らを俺の仲間にしよう。
このまま赤子扱いで過ごすのは辛すぎるし、彼らはおそらく王やそれに近い立場の者から信頼されているメンバーだろう、たぶん。
俺の世話も出来る限りしようとしてくれていたし、害そうという言動はなかった。味方になってもらえば心強いだろう。というかオムツ替えを彼らにやってもらうとか無理だし。精神的に。トイレ行きたいし。
意思疎通の魔法を彼ら3人と俺とにかけた。
これで、俺の発声は未だバブバブって感じだが、意図するところは伝わるはずだ!……多分……
「バブ、えー、あーー、テステス……聞こえますか、俺はルカです」
「?!ええ、殿下が喋った?!」
「………………いや、不敬だぞ、王子殿下が話されるわけが無いだろう、まだ……赤子であらせられるのに……え?」
「いやお前の方が不敬じゃね?え、今殿下喋りましたよね?俺の空耳か?」
「儂にも何か聞こえたような……」
3人の注目が俺に集まる。そんなに期待されるとハード高いな……別に面白い事を言うわけじゃ無いのだが。
彼らからやや離れたところでふわふわ浮かびつつ、片手を上げた。
「ルカです。よろしく!」
にっこり笑ってみる。
「ハアーーーーーーーー?!え、はあぁぁ?!ルカですって聞こえたけど、え、俺だけか?聞こえたかアレン!」
「……き、聞こえました……えぇ?」
「……もしや、意思疎通の魔法をお使いになられているのでは……?」
「正解!で、オムツ替えとかしなくていいから、トイレの場所さえわかれば行けるから。あと、今出しっ放しじゃないし、お尻かぶれたりしてないからな!確認の必要はアリマセン!」
シーン、と言う感じのしばしの沈黙ののち。
「王子殿下、おそれながら、あの、殿下がお話になっているのでしょうか、本当に?」
「そう、さっき意思疎通の魔法を俺と3人の間にかけたんだ。だから、3人とは会話できる。でもこの様子を横から見ると、バブバブ言ってる俺と会話して応答してる大人たちになるから、外ではちょっと考えた方がいいな」
「そ、そうですか……サ、サミュエル殿は赤子にも魔法にも詳しいですよね。このような、王子殿下のようなお歳で魔法を使って会話できるということがあるのですか?しかも、完璧にいろんな事をご理解されているようですが、赤子というものはこの様なものなのでしょうか……?」
「いやそんなわけねぇだろ?!」
「これ、言葉遣いに気をつけろヴィクター、殿下の御前だぞ。それから、アレン、儂の知る限り、意思疎通の魔法は魔法使いでも中堅以上で使えるようになる高度な魔法じゃ。才覚ある成人にしか使えないのが常識じゃ。また、浮遊魔法も、難しいものではないが、見習い魔法使い程度ではこのように持続できん。そして、赤子に意思疎通の魔法をかけたとしても、まず、このようにまともに会話が成り立たぬ。言語を学ばぬうちには、きちんと会話として成り立つほどの思考が存在しないからだ。つまり……この王子殿下のご様子は、普通では、ない」
「そんなん見たらわかるだろ!」
「ヴィクター、言葉遣いに気をつけろと……」
「あ、いいよ俺気にしないから。俺もごめん、あんまり話し方王子っぽくないよな。でも堅苦しいの疲れるしさ、ゆるくいこうかなって」
「お、王子、殿下、…………なんと申し上げたら良いか……」
どうしようみんなが驚き戸惑っている。
「殿下、何故そのような魔法が使えるか、お聞きしてもよろしいでしょうか?」
比較的冷静な魔法使いサミュエルが聞いてきた。
うーん何故か……
「魔の森で、銀竜に会ったんだ。俺はソトリア王国の始祖である神竜の血が強く出てるんだって。だから、人と竜のハーフみたいな感じで、魔力が強いし、自我の目覚めも人より早いんじゃないかな?」
ということにしておこうかな。そんなに嘘ではないし。
「銀竜に!よくご無事で……!そうですか、もしや銀竜に魔法を習われたのですか?」
「え?えー、まぁ、そんな感じかな?」
「なるほど、竜の血をひき竜に教えられたのであれば、幼いお姿なれど、強大な魔法を扱うこともあられるのかもしれませんな……?」
「サミュエル殿最後ちょっと疑問系じゃねえか?やっぱウッソーって感じだよな?」
「ヴィクター、やめなさい」
「えーと、とにかく、おれはここにいる3人とは話せるようにしたし、自分の世話はある程度自分でできるし、そういう前提でサポートして欲しい」
「かしこまりました…………」
シーン。再びの沈黙。
「……殿下に色々聞いてもいいのか?」
「ヴィクター、いいよ、何?」
「あっ、我々、名乗っていないのではありませんか?!私はアレン・カーティス、こちらがヴィクター・ブラウン、共にソトリア王国の騎士です。こちらがサミュエル・クラーク、王国魔法師団の副団長です」
「あっ本当だ!申し訳ありません王子!おれは.いえ私はヴィクターです」
「サミュエル・クラークです」
「それで、殿下がとんでもなく規格外な赤ちゃん…いえ、お方……だということはわかりました。で、王子はこの状況をご理解されてるんですか?」
「ヴィクター、言葉……」
「えーと、思考がはっきりしたのは魔の森に入ってしばらくしてから、竜と会ったりしてからだから、自分がソトリアの王子だってことは銀竜に指摘されて知ってるけど、それ以前のことはハッキリはわからないな。魔の森には多分誰かに連れてこられて置いていかれたんだろうとは思うけど、犯人の顔は覚えてない」
「会っても分かりませんか?」
「わからないんじゃないかな、残念ながら」
「そうですか……」
「そうだ、その話もしたかったんだ。俺はこのまま王城に戻って安全なのか?」
「!それは……」
「王城に出入りできる誰かが、俺を攫ったんだよな?俺を殺そうとして、母の身代わり魔法が発動して失敗して、魔の森に捨てた」
「ご存知なのですか?!」
「身代わり魔法が自分にかかっていることはわかるよ。おかげで死ななかったんだろうけど、このまま犯人のうろつく王城に戻って、大丈夫なのかな?」
「……まだ、犯人は見つかっておりません」
「当てはあるわけ?犯人の」
「いえ……まだ捜査中です。証拠まで揃えて犯人確保まではまだ時間がかかるかと……」
「王城の奥に出入りできるってことはそれなりの身分があるやつだろうから、証拠なしで捕まえるのも難しそうだしな」
「よく、おわかりですね、殿下……」
「あっその異様なもの見る目ツライ!」
「で、殿下……」
ダメだ不審なものを見る目で見られている!
だいたい王子ってキャラじゃないんだよ俺が!
「えーと、俺なりに考えました。このまま帰るのは危ないかもしれないけど、帰らないわけにもいかないと思います」
「え、ええ、そうですね、殿下にはお戻りいただく他にないかと存じます」
「そこでだ!俺を守りつつ、俺の近くで犯人を捜す役が必要じゃないか?」
「そ、それはまさか殿下、あの」
「正解だアレン!それからヴィクター、サミュエル!俺に協力してくれないかな?」
俺は口元が引きつっている彼らににっこり笑いかけてみた。




