第10話 人間たちに連れていかれてみよう
再び狼男になった俺は、赤子な俺を抱えて人間達のところに戻った。
「お、王子!まさか、本当に……」
「番犬ガルムが数日前に発見し、保護していた。銀竜にも伝えてあったが、人間側から何か言ってくるようなら引き渡せとのことだ。お前達の言う王子の特徴を備えている。連れて行くと良い」
「王子、ご無事で良かったです!……えっ、私が受け取るのですか?」
「誰でもいいと思うが、誰が良いんだ?」
「いえ、はい、では僭越ながら私が……こ、こういう感じでしょうか……私は赤子の抱き方なんて知りませんよ!」
「……儂が変わろう。子供も孫もいるからな、一応……世話はあまりしておらんが……数回抱き上げたことくらいはある」
「大丈夫ですかそれは?!で、ですが、私よりマシかもしれません、お願いします」
「では……おお、首はしっかりしておられるな、これならなんとか、このまま抱いたままでも運べるだろう」
「それは良かったです……あの、ルルイー殿、今更ですが我らが確かにソトリア王国のものであると証明しておりませんが、王子を引き渡していただいても良いのでしょうか。一応、王からの使者であるとの証明書は持参しておりますが」
はっ、本当だ!
コイツらが自称騎士で本当はそこらへんの山賊だったらどうしよう!いやまあ、そしたら赤子のままでいる必要は無いし、最悪竜にでもなって倒して逃げるか。大丈夫、大丈夫だ!
……でも次からもっと疑うことを覚えたいとは思います、ハイ。
「……魔物にとっては、その赤子が王子であろうとなかろうと、不意に森に置きざりにされていた人間だ。人間であるお前達が望んで引き取るのであれば引き渡さぬ理由はない。……興味はあるので、その証明書とやらは見てみたいが」
「はい、こちらです、どうぞご確認ください」
渡された羊皮紙らしき書面にはそれらしき文言とサインらしきものが書かれていた。
………よ、読めない。
やばい、俺はこの世界の文字が読めないのか!まあ当たり前だけどさ!
いや、何かあるはずだ、やり方が!
だいたいゲーム中にこういう書類系を出すときは、その内容をテキストで出して補足するはずだろ!出でよテキストウインドウ……!!
キレ気味に念じたところ。
で、出たー!!証明書に半透明に覆いかぶさるように、見慣れたゲーム中のテキストウインドウが出た。しかも、恐らく証明書の内容を日本語で書いたらしきものが表示されている。
表示された分を読み終わるとちょうど良いタイミングで次の表示に切り替わった。便利だな!
おかげで無事に証明書の内容を確認できた。
ソトリア王国の使者であることを証明するとか書いてあるだけだったけど。しかもアイテム名も証明書の上あたりに表示されていて、『ソトリア王国の使者である証明書』とある。便利だなこれ!
これ、アイテムにアイテム名が出るなら、人間にも出たら良いのに。あの、オンラインゲームでよくある、他プレイヤーの名前とかが頭の上に出てるやつ。このゲームには無かったけど、あれが見えたら便利なのにな……
なんて思いつつ、彼らを見たら。
み、見えた、頭の上になんか出てる!!
名前と体力、魔力のゲージが出てるーー!!
どういう事だ、俺が作っていたゲームにない機能も使えるのか?便利だけど、本当何なんだこれは?
とりあえず、名前はあんまり覚えなくても見えるから便利だな。
「確認した。先日の爆発や光については全くその子供とは関係なく、単なるミスだと納得してもらえたか?では、その子供を連れて帰ると良い。そして、今後はお互いに不可侵であるという約束をより強固にしたい。良いかな?」
「はい、相互不可侵については問題ありません、2度とこのような事がないよう周知徹底します。王子を保護いただき誠にありがとうございました」
「いや、俺は連れてきただけだからな。ではこれで問題ないか?」
「はい、ありがとうございます!」
「では用が済んだなら森の出口まで送ろう。」
「ありがとうございます!」
王子を抱え進む魔法使いを中央に守るようにしながら、進んできた道を逆に戻っていく彼ら。そのやや後からついていく俺。
思いつきで赤子の俺を渡してしまったが、興味は湧いてきた。彼らの会話も聞いてみたいし、王城でどう扱われるのかも気になるな。
森の出口……まぁ、ソトリア王国側で、森が終わって草原になるあたりだけど、そのあたりで彼らと別れて見送った。
そして、速攻で(とはいえ音速は超えない!俺は同じ失敗はしない!多分!)ライラとガルムの元へ戻る。
「ライラ!ちょっと俺、赤子の方になってしばらく彼らを見てくるから!こっちの俺の体、寝床まで運んで寝かせておいてくれないかな?それから、銀竜に、ソトリア王国の使者と話して相互不可侵を改めて守ると確認したことと、俺が分裂して赤子の方は人間に着いていったこと報告してくれ!様子を見つつ、まぁ遅くとも夜には一度コッチに戻るから!あ、遅かったら先に寝ててくれ。じゃあ、俺しばらく動かなくなるから、よろしく!」
ライラが戸惑いつつも頷くのを見て、狼男から魔王若者モデルに変更しておく。
そして、赤子に視点を切り替えた。
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「え、えええ、動かなくなっちゃった……どうやってるのかなルカ?」
「全然わかりませんガル……ルカ殿は、人間ではないのでは?竜……でも分裂はできないですガルガル……??」
「……とりあえず、こっちのルカを運んでおこうかな。ガルムもありがとう」
「とんでもないですガル……」
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赤子視点であまり動けず不自由ではあるが、とりあえず観察はできるし、彼らをもっと詳しく見てみようかな。
魔法使いサミュエルに運ばれながら彼らを眺めてみる。名前を覚えるのが苦手な俺だが、見たいと思うと彼らの上にポップアップで名前と体力と魔力のゲージが出るので間違いはない。
このポップアップ表示、もっと詳しく見れる気がするな……ポチッと押してみるイメージで。
おお、出た!
ポップアップ表示のエリアがぐっと広がって、ステータスが見える。
名前 サミュエル・クラーク
種族 人
レベル 42
経験値 6497
体力 340
魔力 457
力 32
防御力 56
知力 156
素早さ 23
運 36
称号:ソトリア王国魔法師団 副団長
状態:なし
加護:地の精・祝福 水の精・祝福
へー、この魔法使い、副団長なのか。
年は幾つなんだろう……ステータス項目にないんだよな。種族の次にでも表示させておけばよかったな……
って出た!こんなんばっかりだな、どこまでカスタマイズ出来るんだろう。
年齢:52
へー、まぁ見たとおりの歳ではある。
強さは……まぁ、ゲームだとレベル42ならまぁまぁ後半って感じだけど。
勇者たちのレベル42ならもっと数値は高いな。
同じレベルでも人によって各能力数値は違うんだろう。
他のメンバーも詳しく眺めてみる。
赤毛の魔法剣士、アレン・カーティスは36歳、レベル37。ステータスは全体的に満遍なく上げてる感じだな。称号が……乙女の憧れ?何だそれモテモテなのか?確かに結構顔もいいし、口調も貴族っぽく丁寧だし、モテそうだけどな……
洋ゲーガチ剣士、ヴィクター・ブラウンは35歳。レベル35。体力・力・防御力に全振りした感じの脳筋なステータスだ……称号に、筋肉騎士とかあるぞ。
細身無口な弓使いキース・アーチャー、28歳。レベルは32。
防御力はあんまり無いが、素早さが高く力も体力もそこそこ。魔力もまあまぁあるし、後衛としては使いやすい感じだ。
あっ、ついゲームキャラのステータス見るような気持ちで見てしまった……
眺めていると、かなり魔の森から離れたところで、彼らが話しはじめた。
「まさか王子殿下と一緒に帰ることになるとは思わなかったなー!捜索の許可を願って一度戻る感じかと思ってた」
「そうですね、まさか魔物に保護されていて、すんなり引き渡してもらえるとは……」
「でも見た感じ、間違いなく王子殿下だよな、その赤ちゃん」
「不敬ですよヴィクター。ですが、間違い無いでしょうね、ここまで似た別人がいるはずがありません」
「……どうやって王子殿下は魔の森まで行ったんだろうな?王城から馬でも数時間はかかるってのに……」
「……それは、今何を言っても憶測にしか過ぎませんが……」
「まあ、王子を邪魔に思い、王城の奥にまで入り込める何者かの仕業じゃろう」
「そりゃそーだけどよー」
「……皆、ここまでは馬で来たけど、帰り、どうする……?」
「確かにそうか、王子殿下を連れて馬で駆けて戻るのは無茶だな」
「馬を繋いでいる町に着いたら、領主の所……いや、良い宿を取って、誰か……身軽なキースが王城へ報告に行き、迎えを依頼しましょう。迎えが来るまで、その他の3人で王子をお守りする。ここからで我々だけでお守りしながら王城で向かうのは時間がかかり、また王子殿下へのご負担も大きい。不慣れな我々が無理をして何があっては取り返しがつかない」
「うーん確かにそれが良いかもな。王子殿下を魔の森に連れてきた犯人も確定してないし、下手に領主に頼るのも危険かもしれないしな」
「この辺りの領主はガルド辺境伯だな。王城からの距離が遠く、ある程度の自治が認められておるし、王家への忠誠心はどこまで信じられるかわからん」
「では、宿を取り、キースは馬で報告に向かうように。キース単騎であれば今日中に王城に着けるだろう。明後日になっても迎えが無ければ途中で何かがあったと判断する。これで良いか?」
「良いぜ!」
「良いと思う」
「……わかった……」
へー、近くに町があるんだな。
そういえば人間見るのこの4人が初めてだな!
町の人間もいろいろ観察してみよう。
楽しみになってきたぞ!