Germinal Bette 昇級試験─英雄─
作者:「前半ぐらいとんとん行きたいんだけどな~」
ラーメン食べた二日後、俺達パーティーの姿はギルドの修練場に有った。
周りの数人の観客とパーティーメンバーが生暖かい視線を注いでくる。
ハッキリ言って鬱陶しい
俺の前には目算身長180cm、体重95kg、刃の付いていない大剣(パッと見ただの鉄板)を片手で持ったギルドから依頼を受けた冒険者でこの試験の試験官の男アルドが立っている。
ダン曰く、ここのギルドにおける唯一の試験官らしい。
俺は試験を前に、少し踊って体を解している。
俺はジャン爺さんに作って貰った黒いマントを纏って、マントの受取りの時に一緒くたに買った防具を身につけて、右手に一般人の剣、左手に一般人の剣と長さ重量共に同じぐらいの短杖を持っている。
一般人の剣と短杖には既に不可視なレベルでうっすらと魔法の刀身を纏わせてあり、刃渡りは2mを超えている。
我ながらチートだと思う。
「さあ、好きなタイミングで撃ってこい」
既に俺はアルドの正面2m弱の所で剣を構えている。
アルドが感電するまであとコンマ何秒だろうかと言ったところだ
今更止まれと言われても止まれないし止まるつもりもない。
俺は刀身をアルドの右腕に突き刺す。
バンッ
刀身がアルドの腕に触れた瞬間、刀身を辿るように太く碧い稲妻が走りアルドは膨大なエネルギーの流れによる衝撃で吹っ飛んだ。
と同時に俺も衝撃で数メートル下がった。
電流で全身隈無く焼かれてまともに壁に叩きつけられたアルドは座り込んで黒煙を上げている。
ギャラリー達は驚きの表情を浮かべている
「寝るには早いですよ」
俺はもう片方をアルドの腹部に突き立てる。
再び魔力で形作られた刀身を辿って極太の霹雷がアルドを焼き焦がす。
パーティーメンバーはなんとも言えない顔をしている。
いったい何がいけないと言うのか?
どこからでも打ってこいって言ったのはあっちなのに…
まあ、電圧は大変なことになっているだろうが、電流はそこまで大きくならないように踊ったから一応生きてる筈
アルドは二三度大きく痙攣して起き上がる
「ふっ…今のは効いたぞ」
「まだ立てるとかどんな体してんだよ…」
「お前みたいなひよっ子の甘ちゃんに負ける訳にはいかないんでな」
アルドの左手に剣を持つ。
右手が力なくぶら下がっている所から見るに右手は使い物にならないのだろう。
「じゃあ、続けますか」
「こっちから行くぞ!」
アルドの大剣が片手とは思えない勢いで迫ってきた。
俺は一般人の剣と短杖を交差させて受け止めようと構えた。
が、その圧倒的な勢いと質量の前に俺は呆気なく弾かれてバットに打たれたボールみたいに壁に叩きつけられた。
「ゴホッ!ゴホッ!チッ受け身もクソも有ったもんじゃない…」
「生きてるかー?生きてるわな…」
「まるで死んで欲しいみたいな言い種だな」
俺は立ち上がり、一歩目をステップを踏む。
「そんなわけないだろ?」
「ホントかどうか怪しいもんだ。実際二回も焼かれて文字どおり腸煮えくり返ってんだろ?」
俺は喋りながら舞う
「いや、全然?なんともなかったぜ」
「さて第二ラウンド始めるか」
舞を終えた俺は一般人の剣に炎の刀身を、短杖に水の刀身を纏わせる。
「ただのルーンナイトだと思ったがゴブリン魔法か、ゴブリン以外が使ってるのは初めて見たな…」
「へー、そりゃどうも。ルーンナイトの職業は獲得してないんですがね」
俺は舞う。嵐のように荒々しく、林のように細やかに、轟雷のように舞う。
「させるかよ」
アルドの大剣が迫り来る。
俺は躍りながら剣を振る
「スキル:魔法剣舞、我流武術、守備剣術、ソードダンスを発動しました」
ここ二日間の自主練の成果だ。
レベルも6に上がっている。
幾つものスキルと称号によるアシストを駆使してアルドの大剣をいなし、躱しながら魔法を完成させる。
「焼き焦がせ!」
俺の足下から黒雲が吹き出して部屋に立ち籠める。
ギャラリーは急いで退出していった。
パーティーメンバー達は避難誘導している。
流石にヤバイと思ったらしい。
俺もここまで大規模な魔法を使うのは初めてだからどうなるか解らない点もある。
例えばこの雷に触れたら俺も感電するのかとかさ
あっという間に部屋全体を黒雲が埋め尽くして落雷の林が乱立する…筈だったが振りだしたのは火の玉だった。
火の玉は地面に着弾して火柱を上げる。
「熱くなりすぎた…」
火の玉は次々と発生して無差別に部屋中に降り注ぎ、各所で火柱を上げた。
俺は急いで水の障壁を貼って雨宿りしている。
『マナブレイカー!!』
もはや雄叫びに近い感じの叫びが火の玉による轟音を掻き消して部屋に響き渡り、白い光を帯びた剣閃が黒雲を切り裂く。
その光は徐々に黒雲を侵食していき。
黒雲は白い光の粒となって霧散した。
光の中には半ばで溶け落ちて歪んだ大剣を左手にぶら下げたアルドの姿があった。
アルドの服は焦げてボロボロになっており、アルド自身も全身から白煙を上げている。
そしてなぜかアルドの足下は余り焦げていない。
「よかった、殺しちゃったかと思いましたよ」
「ふっ、こっちも長いこと冒険者やってた身。そう簡単には負けられないんだ」
アルドは既に鉄屑と化したソレを左手に構えて突進してくる。
俺は右手の剣を振る。
よく見ればアルドの大剣の残骸は白く淡く発光していた。
きっとマナブレイカーとか言うやつだろう。
俺は大剣を一般人の剣で受け止める。
耳障りな金属音が部屋に響く
響く
響く響く
響く響く響く
響く響く響く響く響く響く響く響く響く
俺の手も痺れてきて守るのも限界が近い。
打ち合う度に剣から炎の刃が削ぎ落とされていき、打ち合う度に大剣から鉄が削ぎ落とされ、白い光が薄れていく。
俺は白い光が完全に消えたの見計らって鉄の棒と化した大剣を短杖で切断して、そのままアルドの首に添える。
「参った、負けを認めよう」
「合格ですよね?」
「ああ、勿論だ」
これでやっと本格的に魔王対策を始められる。
「ただし」
「ただし?」
「ここを片付けたらな。使ったら片付ける、常識だろ?」
と言うことで俺はスコップを持ちボコボコになった修練場の片付けをすることになった。