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恐竜の飼育員、今日も奮闘する。  作者: 結日時生
「篭目希人の子守り●」
9/10

し●かちゃんタイプにはご用心

「あっ、おきなさん……」

 振り返った先に居たのは、翁ちかげさん。立場上、俺の先輩にあたる女性だ。俺がアルバートサウルスのブリーダーを担当している様に、彼女はダチョウ竜・ガリミムスを受け持っている。

 まぁ年齢は向こうが年下なんだけどね。細身で色白、黒髪のショートヘアが似合う可愛い女の子です! ……まぁそんな事、面と向かっては言えないですけど。

「なんで翁さんがここに?」

「あぁミリー……私のガリミムスも子供の頃は雷を恐がっていたので。それでサラやレモンは大丈夫なのか心配になって様子を見に来たんですけど、お二人がいるなら私は居なくても大丈夫ですね」

 ……翁さん、マジいい子じゃん。もはや聖母の域ですよ。大丈夫、おっぱいはパットを入れておけばいいから……。それにあんまりグラマラスなのよりも慎ましやかな方が――


「篭目さん、どうかしました?」

 俺の視線に気付いたのか、翁さんが下から覗き込んでくる。いや、俺の視線に気付いていたのら少なからず怒るだろうから、完全には気付いてないんだろうけど。

 〝あなたのパイパイ見てました!〟とか言ったら、流石に怒るだろうなぁ。「希人さんのエッチ!」みたいに。どうでもいいけど、安易に男をファーストネームで呼ぶしずかちゃんって、ちょっと地雷臭がするよね……。男心を弄ぶ危ない女ですぜ、あいつは。出来杉が苗字呼びなのはきっと、モテる奴が小手先の技術でなびかないのを知っているからだろう。うわぁ恐い。

「いや、その……サラやレモンの事を気にかけていただいて助かるなって……ありがとうございます」

「あぁいえ、別にそんな大した事してないですよ」

 彼女の方から視線を逸らしてもっともらしい事を言ってみた。ホラ、あんまりジロジロ見るのも良くないじゃない?

 今更だけど、今日の翁さんの格好はなかなか刺激的だ。灰色のホットパンツに薄いピンク色のパーカー。パーカーのファスナーは上がほんの少し下げられていて、隙間から覗くのは多分黒いタンクトップだろうな……。綺麗な鎖骨のラインが見えてちょっと……いや、かなり艶めかしい。

 彼女の発育が良ければ谷間も少し見えたんだろうか? こういう時はちっぱい派の俺も残念な気持ちになります。やっぱり見る分には大きい方が――

「篭目さん? ……なんか変なこと考えてないですよね?」

「じぇ? な、何も考えてないですよ!!」

 お昼に一人で見ていたせいか、ついつい今年の流行語になりそうなドラマの台詞が出てしまった。取り敢えず誤魔化せたかな? 翁さん、読心術でも使えるのかよ……。

「取り敢えず、サラもレモンも大丈夫そうですね。なら私はこれで……」

 そう言って、微かに笑みを作った彼女は去って行こうとした。その時だ。




 切り裂くような一瞬の閃光の後、大地を揺さぶる轟音が響き渡った。あまりの轟音に背筋が縮こまる。

「うわっ! これ結構近くに落ちたんじゃねぇの?」

 修大がそう言うのも無理はない。ここまで大きな雷鳴を聞いたのは、今までの人生で初めてだ。腹の底まで響き渡る衝撃音。これは昔の人が「おへそ取られる!」と思うのも無理はないな。

「あっ……」

 俺が間の抜けた声を出す一瞬前、辺りが一気に暗くなった。大方、雷が変電設備に直撃でもしたんだろう。

「電気、落ちちゃいましたね……」

「大丈夫です。すぐに予備電源が作動します」

 俺の小さなぼやきに答えてくれたのは翁さんだ。彼女の返答の後、すぐに予備灯が点いた。

 昼白色の柔らかな光が室内を照らす。対して幼竜達のケージは未だに暗い。

「空調は未だ止まったままか……。これだとサラとレモンの体冷えちゃいますね。今私が毛布と湯たんぽを用意するので、お二人は恐竜の傍に居てあげてください」

 そう言って彼女は、休憩室に向かっていった。本当にいい子だなぁ……確かまだ十九歳って聞いたけど、しっかりしてるわ。

「大丈夫か、サラ」

「グウゥ♪」

 彼女の厚意に甘え、俺と修大はそれぞれ自分が受け持つ恐竜のケージに入る。いくら高い知性を持つとは言え、不安定な精神状態の今だ。近づくのには一瞬の恐怖があった。

 だけどまぁ、サラの方はいつも通りだ。俺の姿を視認すると鼻先を摺り寄せてくる。……にしても大分力が強くなったなぁ。まぁ健康に育ってくれていて何よりです。

 そうだ、レモンの方は大丈夫だろうか? 良く言えば図太い、悪く言えば鈍感なサラと違ってレモンは繊細だからな。

「おうレモン! 楽しいか?」

「ガウガウ♪」

 ……どうやら取り越し苦労だったみたいだ。繊細なレモンではあるけれど、明るく懐の深い修大が傍に居てくれれば心強いんだろう。本当、レモンのブリーダーがアイツで良かったよな。

 

 ――じゃあサラにとっての俺はどうなんだろう?

 柄にも無くそんな事をつい考えてしまった。いや、俺は俺で頑張るだけだけどね! 偶然とは言え、俺の事を親だと思ってくれているんだし、それには応えたいと思ってる。


「お待たせしました~!」

 休憩室から戻ってきた翁さんは毛布と湯たんぽを二つずつ持っていた。アクリル羽毛で作られた毛布はそれぞれピンクとライムグリーン。湯たんぽカバーも同じ色、同じ素材だ。

「ありがとうございます」

「ありがと、ちかげちゃん♪」

 翁さんに対して手短に礼を言う俺と修大。修大よ、君はなんでそんなに軽々しく女性をファーストネームで呼べるんだい? あれか? イケメンの余裕ってやつか?

 いいですねぇ……俺も頑張ってみようかな……。

「ちか――」

「それにしてもまだ暗いですねぇ……。確か休憩室には蝋燭もあったはず……ちょっと取ってきますね!」

 言うと彼女は、また休憩室の方へと歩いていった。その蝋燭、俺に垂らしたりしてくれないですかね? ……うん、俺ちょっとキモい。

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