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恐竜の飼育員、今日も奮闘する。  作者: 結日時生
「篭目希人の子守り●」
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こんな嵐のあとは……

 暖かくて優しいオレンジの光が周囲を照らす。柔らかい暖色の光と言うのは、人の心に本能的に訴えるやさしさや柔和さがあるんだろう。何となく気持ちが落ち着いてくる。

 ……ちなみに蝋燭自体の色は一般的な白色です。赤だと思った人はいますか? いませんよね? そんな変態さんはお仕置きです。

「これ、休憩室にあったので作ってきました。お二人ともお腹空いてるんじゃないですか?」

「おっ! 気が利くねぇ、ちかげちゃん!」

「あ……ありがとうございます」

 翁さんが持ってきてくれたのは、三人前のトマトヌードルだ。流石に好物でも、同じ日に二回も食べると飽きるなぁ……まぁもう直ぐ日付変わるけどね。

 あと、どうでもいいんだけどさ、俺が買い置きしておいたやつなんだよね……。そのトマトヌードル……。

 ま、まぁ良いよ! この前ドラッグストアのクーポンで安く買えるからって、買い過ぎちゃったやつだし……全然怒ってないですよ?

「あれ? 篭目さん食べないんですか?」

「本当だ。希人ひょっとしてトマト嫌いなの? ちゃんと野菜摂らないとダメだぞ!」

 お前は牛乳飲めよ、修小。修〝大〟じゃなくて修〝小〟な。

「あっいえ、好きですよ。トマトヌードル。僕猫舌なんで、ちょっと冷めるのを待っていたんです」

 翁さんに目線を向け、俺はそう答える。嫌いなはずないじゃないですか……だって、好きだから買い置きしたんだもん。



「グウゥン」

「どうした、サラ?」

 小さく鼻を鳴らしたサラ。様子を見ると、蝋燭に灯った炎に興味津々だ。

 瞬きひとつしない翠玉にも似たグリーンの瞳には、闇に生える橙色の灯火が映っている。まぁ元々そんな頻繁に瞬きをする動物じゃないんだけどさ。

「人造恐竜って、火を恐がらないんですね」

「まぁ人間と連携を取る事を前提に遺伝子改造されていますからね。その分、人間に近い感性ではないのかと」

 俺の問いかけに翁さんはそう答えてくれた。優しげな暖色の光に照らされた彼女の表情は柔らかで、慈しむ様な視線はサラやレモンに送られている。温もりのあるオレンジ色の光に抱かれ、サラの緋色もレモンの黄色もいつも以上に輝いて見える。

 その暖色マジックは人にも作用する様だ。なんかいつもより三割マシくらいで色っぽいですよ、翁さん……。色白の肌が色づいてまるで火照っている様な……て、俺は何を考えているんだ!

 しかしやっぱり色っぽいものは色っぽい……。多分、俺と一緒で部屋着にパーカーを羽織ってきただけなんだろうな。……アレ? 女の人って、部屋着の下には着けるんですか? その、〝ブ+了解〟的なアレです…………。

 えっ? 通じないって? だからさぁ、英語で了解は「ラジャー」だろ!? だから「ブ+了解」は――

「ブラ」

「篭目さん?」

「ジ、GIG……」

「は?」

 思わず独り言を呟きそうになってしまった。ちなみにGIGと言うのは、GUYS流の了解である。あっ、GUYSって言うのは、ウルトラマンメビウスの防衛チームね。

「篭目さん、何言ってるんですか? 顔も何だか赤いみたいですし、具合悪いんですか?」

「いや、そんな事ないよ! 顔の色はホラ、光の加減でそう見えるだけだよ!」

 翁さんは純粋に俺を心配してくれていた様です。なのに、何で俺はセクハラ寸前の発言をしそうになったんでしょうかね……自分が嫌いになりそうです。

 本当、今が暖色光の中で良かったです。自分でも顔が熱くなっているのが解るもん。

 これが白色光の下だったら、誤魔化せられないんだよなぁ……。こう言う時、色白は損だと思います。




「しかしさぁ、こうやって暗い部屋に集まってると修学旅行とか思い出さね?」

「あぁ確かに!」

 修大の呟きに翁さんが同意する。確かにそれっぽいな。

 しかし修大よ、修学旅行の部屋割りは男女別々ではないのかね? アレか? お前は夜中に女子と一緒に抜け出して的な……あぁいいですね、リア充様は。

 因みに俺は本を読んでいました。修学旅行先が沖縄だったので。翌日の自然観察ツアーを存分に楽しめるよう、現地の生物の生態やら形態を頭に叩き込んでいましたよ。

 まぁ結局、野生のシリケンイモリは見られなかったけどなぁ……その辺りが少し心残りです。あぁリア充が羨ましい。お目当ての相手と面会できるなんて。


「そう言えば私、高校の時のあだ名は〝モッチー〟でした」

「えっ? なんでそんなあだ名なの? 〝翁ちかげ〟の要素なくね?」

 翁さんの発言に対して修大が聞き返す。気づけばなぜか、学生時代の思い出話をする流れになっている。俺あんまりその引き出しないんだよね……。

 しかしなぜ彼女は『モッチー』なんだ? 見た感じモッチー要素は無いぞ? 確かに可愛らしいとは思うが、スマートで小動物的な愛らしさを持つ彼女はモッチーよりも『ハム』や『ホッパー』あたりだと思うんだ。(ピクシーとかウンディーネを持ってこない辺りに、是非俺の誠実さを感じてほしい!)

「なんか苗字が〝おきな〟だから〝きなこもち〟になって、それだと長いから〝もち〟になり、そして何時からか〝モッチー〟に……」

「なにそれ! もう原型なくね?」

「本当ですよねぇ~!」


 ちなみに俺はモッチー×ライガーのモッチー派生種『ペンギンダマシ』で四大大会制覇しました! それなりにガッツ回復と移動スピードも速いし、モッチー種特有のバランスがいいステータスで育てやすかったです。……あれ? そう言う話じゃなかったの?

「希人は何かあだ名あった?」

 ちょっとそこの方々? 「お前はロードーランナー種育てろよ」とか言わないでくれません? そんな数年後にさ、本物の生きた恐竜育て始めるとか夢にも思わないじゃんか! そんな事……って、アレ? 今誰か俺に話しかけた? (天の声ではなく)

「篭目さん?」

「……ん? あぁごめんなさい! ちょっとボーっとしてました」

 あぁ俺に話しかけてきたのね……。こう言う状況だと背景に徹する癖が抜けきらなくて困るよ、ホント。

「で、何の話だっけ?」

「『学生時代にあだ名とかあった?』って話。お前ちゃんと人の話聞いとけよ……」

「あぁ、ごめん。そうだな……〝ゴメス〟とか呼ばれてた時期もあったな」

「何それ格好いい!」

 ……そうか? リトラの『シトロネラ・アシッド』で死んじゃいそうで嫌じゃん。どうでもいいけど、「身長十メートルで三万トン」とか「身長五メートルで一万トン」って、幾らなんでも重過ぎだと思うのよ。その辺りのこと、当時は誰も指摘しなかったのか……。

「そう言えばさ、ゴメスは歌が上手いって知ってた?」

 ゴメスにそんな設定あったけ? ……って、俺の事かよ!

「へぇ~そうなんですか」

「いや、うまいって程ではないですよ……」

 翁さんが好奇心に満ちた目で俺の方を見てくる。ハムスターを彷彿とさせる黒目がちの目は、どんな光の下でも可愛らしい。

 それが今は暖色の光に照らされ、目の中に映った蝋燭の火はまるでお星様みたいだ。……イカン、あんまり見ていると吸い込まれていってしまいそうだ。

「良かったら聞かせ――」

「ごめんなさい、それはちょっと無理です」

「そんなさぁ、釣れない事言うなよぉ~!!」

「いやだって今日は疲れたし。もう寝るね。お休みなさい!」

「こんのぉ~! 今夜は寝かせないぞ! こちょこちょこちょこちょ~!!」

 俺が不貞寝を決め込んで寝転がったら修大が抱きついてきやがった。自分で「こちょこちょこちょこちょ」って言う人にくすぐりが上手い人は見た事はないです。その例に漏れず、修大のくすぐりクオリティも推して知るべし。

 つーか寄り付くんじゃねぇよ、気持ち悪い。なんでこう、人馴れしてる奴ってスキンシップが過剰なんでしょうね? 俺、本当に疲れてるから眠たいのに……。






 ――結局あの後、いつ寝たんだっけな? 他愛のない話をしたり、適当にしりとりとかしたり……あっ! 「しりとり」って決して〝バックの奪い合い〟とかそう言うんじゃないですよ? 

 残念と言うかなんと言うか、そう言った甘い情事みたいな事はございませんでした。仔恐竜の世話もしなきゃいけなかったしね。

 こんな時の為に、時間つぶせる物も私物入れに入れておけば良かったと、ほんの少し後悔をしたのは言うまでも無い。……まぁそれなりに楽しかったけどね。

 修大も翁さんも、今はまだ眠っているようだ。本当、若い男女が一晩共に過ごしたにも関わらず、ものの見事に何も起きませんでしたとさ。


 もうじき日の出だろう。天窓から差し込んでくるのは、やたらクリアな白い光だ。

 嵐は過ぎ去った。今日はきっと晴れ。


 サラもレモンも、みんな気持ちよさそうに寝てる。

 こんな幸せな時間、ずっと守っていきたいな……。


 ――20XX年5月7日、嵐のあとの人工島。幼竜用ケージ内にて。

 このあとの彼らがどうなったのかは、『機甲猟竜DF』(N1819BP)の 第四話「そんなに泣かないで」〈1〉 以降をご覧ください!(←何この、あからさマーティング!)

 尺の都合でカットしましたが、今回の話が本編に組み込まれた場合の役割としては、


・希人が修大への劣等感を払拭しきれていない事の描写

・希人がちかげを異性として意識している描写

 →第四話・第二部の展開につながる


・希人の歌声がサラの心に届く

 →「声だけでなく、思いだって人造恐竜には届くんだ!」

  →第四話・第四部の展開につながる


 ……と言う風に繋がるのが、当初の構成でした。

 ただひとつ前の話でも書きましたが、「早く主人公恐竜のバトルに行った方がいいんじゃね?」と言う焦りから本編からはカットし、番外編としての投稿になりました。

 丁寧に書くのもいいのですが、やっぱり読者の方が何を読みたいって考えるとねぇ……。


 まぁ結果的には、この番外編のエピは一人称で書いて面白い部分もあるし、これはこれで良かったのかなと(遠い目)。

 希人の一人称で書くのは楽しかったです! 本編だとシリアス展開が多いからなかなかふざけられませんしね(笑)

 DFの番外編として本編の欠けたピースとして読んでいただいたり、DFの主人公である篭目希人を理解する為のちょっとした短編として読んでいただければ幸いです。


 ……はぁ、これでやっと書き終わった感じがします。では、またお会いする日まで!

結日時生でした!


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