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ローズマリーは窮屈な木箱に入れられたまま、どこかへ運ばれていく。

ゴツゴツと箱にぶつかって体の節々が痛い。

人の話し声が外から聞こえたが、いくら叫んでも届いていないのかどうすることもできない。

ローズマリーはこの箱が罪人が入れられるもので、一度閉めたら開かない拷問具のようなものであることも知っていた。


(こんなものばっかり作るために魔法を使っているからクロムさんがあんなことになってしまったのです……!)


悪意によって魔法樹は穢れて力を失っていくそうだ。

そのせいでクロムは長年、苦しんだことだろう。

涙が溢れ出しそうになるが今は赤ん坊の前だと、ぐっと堪える。


幸い、箱の中では足や腕は伸ばせないものの少しならば体を動かすことができる。

でっぷりとしたお腹の貴族の男性でも入れるようになって、小柄なローズマリーと赤ん坊が入ってもスペースがあるのもありがたい。


今は荷馬車でどこかへ運ばれている途中なのだろうか。

これからどこに向かうのかローズマリーにもさっぱりだ。

魔法によって箱から出ることができないため確認すらできない。

ガタガタと揺れる馬車。真っ暗な箱の中でこれからのことを考えていた。


どう足掻いても抜け出せないとわかっているからこそ恐ろしい。

ローズマリーはしばらくボーっとしたまま動けないでいた。

自分は死ぬまでこの箱にいなければならないのか、そう考えるだけで気分が滅入る。

ならば今は何も考えないで魔法樹を守ることだけを考えていた方がいいだろう。


──どのくらいそうしていただろうか。


(お、お腹が空いて死にそうです……!)


何もしていなくても腹は減る。

ただでさえ三週間ほど満足な食事ができていないのだ。

ローズマリーの思考はどんどんと食べ物のことに傾いていく。

それにずっと眠っている魔法樹の赤ん坊のことも心配だった。

ほとんど人と同じ形をしているが、クロムも夢の中では人の形をしていた。


(魔法樹は人間の形をして生まれるのでしょうか……)


魔法樹は人に模すことができるなど聞いたこともない。

ローズマリーが学んだのは、魔法樹はどこからともなく現れるということだけ。

人の赤子の形を模すことで魔法樹に何かメリットがあるのだろうかと考えてみたものの、今はわからないままだ。


どうにかしてこの魔法樹だけでも守らなければならない。

それがローズマリーを助けてくれたクロムへの恩返しだ。

それにクロムの木の下で生まれた魔法樹だ。きっと何か意味があるに違いない。


そのためには少しでも長く生きなければならないとローズマリーは無理やり気分を前向きに持っていく。


(今は少しでも長く生きながらえることを考えましょう!)


気力を取り戻したローズマリーはなんとか箱が開かないか試してみるものの、やはりびくともしない。

叫んでも誰も気がつかないことを考えると、中からは干渉できないようになっているようだ。

けれど、色々と試しているとわかったことがある。

隙間からローズマリーじゃないもの、つまり服などは出し入れすることが可能のようだ。


これ以上、無駄な体力を使わないようにしなければと気持ちを切り替えると、ガタガタと揺れる箱。

なんとか踏ん張って赤ん坊を潰さないように気を付けていた。

揺れが落ち着いた頃、眩しい光が木箱の隙間から入り込んでくる。

ローズマリーは隙間から目を凝らすと、先ほどまでは真っ暗だったのにそこら外からは光が漏れていた。

この光が漏れる木箱の隙間が希望を与えてくれる。


(違う荷馬車に移ったのでしょうか。それとも休憩? このまま一体どこに。どこに行っても箱が開かないのだから意味がありませんね)


けれどここで諦めたら終わりだ。


(わたしはお腹が空きました……! それに魔法樹の赤ちゃんも何も食べてはいません。何がご飯なのでしょうか。やはり必要なのは水?)


ローズマリーは自分の魔法でどうにか食べ物や水を手に入れようと目を細めて周囲を確認する。

荷馬車が止まって休憩しているうちに魔法を使い植物の蔓を使って、木の実や花を運んでいく。

にょきにょきとこちらまで伸びる蔓。

途中で木の実がこぼれ落ちてしまったり、花が風に煽られて落ちてしまったりとなかなかコントロールが難しいが、なんとか隙間まで辿り着く。


(これで少しはお腹を満たせるかもしれません!)


ローズマリーは中からは何もできないし声も届かないが、木箱の隙間から出し入れは可能。

隙間を通る小さな木の実や花にたまった蜜や水分で喉を潤す。

毎回、休憩のたびに木箱に伸びるツタを見て荷馬車の御者が悲鳴を上げていた。

箱を覗き込んだり、開けようとしてみたようだがびくともしないらしい。


(やはり魔法を使えなければ、この箱は開かないのですね)


御者は気味悪がって休憩しなくなってしまったため、次からは素早く木箱に色々なものを届けて植物を元に戻していた。

道端に捨てられるよりはマシだろう。


魔法樹の赤ん坊だが、花の蜜も水も木の実の汁も口にしてくれない。

どんどん顔色も悪くなっていき、泣く声にも元気がなくなってしまう。

ローズマリーは焦りを感じていた。

水も口にしないというのはどうすればいいのだろう。


(魔法樹は水は与えられていませんでした。ということは魔力……魔力ならどうでしょうか!)


魔法樹はローズマリーの魔力で癒すことができると思い出して、魔力を送り込む。

すると赤ん坊の顔色は目に見えてよくなっていく。

もっともっととせがんでいるようにローズマリーの指を掴んでいる。

あまりの可愛さに笑みを浮かべた。

この子がいるから、ローズマリーは諦めずにいられるのだ。


(ああ、安心しました。よかったです……!)


とりあえずはローズマリーが生きていれば魔法樹は飢えることはないとわかった。

一安心したところでローズマリーのお腹が空腹を訴えて鳴き出したではないか。

何度か魔力を与えることを繰り返していくうちに体が大きくなっていることに気づく。


(成長が早いのでしょうか……どんどんと重たくなっていきます)


大きくなるのはいいことだと思いつつ、魔力の消耗が激しいためそれどころではない。


(このままだとわたしの方が先に限界がきてしまいます! どうにかしなければ……!)


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