④⑤
ローズマリーがそう考えている最中も、リオネルも苦笑いを浮かべている。
どうやらアイビーはオシャレをしたのをローズマリーに一番に見せたいと急いで来たらしい。
アイビーは黒のタキシードを着ていて、オパールはイエローのフリルがたくさんついたドレスを着ている。
「アイビーくんもオパールちゃんもとっても素敵ですね」
ローズマリーがそう言うと、オパールはアイビーから手を離してドレスを見せるようにくるくると回っている。
ドレスは軽い生地でできているのかスカートがふわりと動く。
長い髪は二つに結わえていて、とても可愛らしい。
『さすがアタシのローズマリー、とても綺麗よ……! 花の妖精みたい』
「オパールちゃんも、いつもより可愛さが増しています」
『ふふっ、そうでしょう?』
オパールはドレスがうれしいのか、すっかり上機嫌になっていた。
『ねぇ、ローズマリー! ボクは? ボクはっ?』
「アイビーくんもとてもかっこいいですよ」
『えへへ、そうだろう?』
ローズマリーも母親のような気分で彼らの成長を喜んでいた。
若干、オパールの方が頼もしい気もするがローズマリーの魔力で元気に育ってくれていると思うとなんだか嬉しい。
するとオパールは何かを思いついたのかようにアイビーの手を取る。
『アイビー、アタシたちは先に行きましょう!』
『どうして!? ボクはリオネルとローズマリーと一緒にいたいよっ』
『あんたは少し空気を読みなさい。行くわよ!』
オパールがリオネルに向かってウインクをしたことで、一緒に行けばいいのにとは言えなくなってしまう。
ローズマリーから離れたくないと手を伸ばすアイビーを引きずりながら去って行ってしまった。
「オパールちゃん、どうしたのでしょうか」
「彼女は僕に気を遣ってくれたみたいだ」
「……そうなのですか?」
オパールの行動の意味が、リオネルには理解できたようだ。
ローズマリーに向き直るとリオネルは優しげな笑みを浮かべている。
長い長い廊下は静寂に包まれていたが「僕たちも行こうか」と、リオネルにエスコートされるまま歩いていく。
「最近、君のことばかり考えてしまうんだ」
「わたしのことを……? どういう意味でしょうか?」
ローズマリーが問いかけるとリオネルはピタリと足を止めた。
不思議に思ったローズマリーが振り返るとリオネルは真剣な表情でこう言った。
「君のことが好きだよ。ローズマリー」
「……!」
リオネルの言葉はローズマリーにいつもよりも重く響く。
どう返事をしようかと考えていたローズマリーは素直に自分の気持ちを答えることにした。
「わたしもリオネル殿下のことが好きです」
だけどリオネルは困ったように笑うだけだ。
「ローズマリーと僕の好きは少し違うかもしれないね」
「どう違うのでしょう?」
「僕はローズマリーを一人の女性として愛しているんだ」
「愛、ですか?」
ローズマリーにとって愛ほど縁遠いものはなかった。
両親に愛された記憶も、誰かを愛したことも愛されたこともないからだ。
それがどんな気持ちで、どう思うのか……ローズマリーにはまだわからない。
アイビーやオパール、魔法樹に対する気持ちが一番愛に近いような気はしていた。
「愛は……とても難しいです。どう答えていいかわかりません」
「今はそれでいいんだよ。気持ちを話してくれてありがとう、ローズマリー」
「…………はい」
「けれど君に好きだと言ってもらえて心から嬉しいよ」
リオネルはローズマリーが好きだと言われたことが嬉しいようだ。
だが、ここまでしてもらってリオネルを好きにならないことができるだろうか。
(リオネル殿下は命の恩人ですし、いつも美味しいご飯をくれます)
ローズマリーが納得するように頷いていると包み込むように優しくしてくれる。
「今から僕がローズマリーにたくさんのことを教えるよ」
「……はい」
「今は君が僕の特別だってことをわかってほしいな」
ローズマリーはリオネルの言葉を理解したため頷いた。
するとリオネルは話を変えるようにポケットに手を入れる。
「それから後で君に渡したいものがあるんだ。どうしても形に残したいから……」
「それはお菓子でしょうか?」
「残念、食べられはしないんだよ」
「……そうですか」
「僕はお菓子に勝てる日がくるかな?」
心配そうにしているリオネルを元気づけたくて、ふとローズマリーはあることを思いつく。
ローズマリーは背伸びをしてリオネルの頬に口付ける。
リオネルの真似をしたつもりだったが、彼は大きく目を見開いた。
美味しそうなオレンジ色の瞳が揺れている。
「わたしにとってリオネル殿下は特別ですから大丈夫ですよ」
ローズマリーはニコリと微笑んだ。
カールナルド王国に来てから、ローズマリーは感情が豊かになったような気がしていた。
それは間違いなくオパールやアイビーのおかげだろうが、リオネルがそばにいてたくさんのことを教えてくれるからだろう。
唇が触れた瞬間、心臓がドキドキと跳ねたような気がした。
「……ローズマリーには敵わないなぁ」
「美味しそうな瞳ですから」
リオネルは噴き出すように笑った後、愛おしむようにローズマリーを抱きしめた。
ローズマリーも彼に答えるように背に腕を回す。
大きな体がゆっくりと離れていき、リオネルと視線が交わる。
「そろそろパーティーに向かおうか。みんな君を待っているよ」
「ご馳走も待っていますね。早くいきましょう」
「ははっ! ローズマリーらしいね。たくさん食べてくれ」
「はい、任せてください!」
end
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