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④④

リオネルはローズマリーの元へ。

彼はローズマリーを抱きしめると嬉しそうに笑みを浮かべていた。


ドレスと同じオレンジ色の瞳はこちらをまっすぐ見つめている。

腰を掴まれて逃げ場がなくなったローズマリーは戸惑いつつ彼を見つめ返す。



『きっとローズマリーによく似合うよ』


『……ありがとうございます』



淡々と答えたローズマリーだったが、褒められて嬉しい気持ちがあった。

リオネルは上機嫌でローズマリーの頬に口付ける。

なんだかアイビーとオパールとキスばかりしているせいか、リオネルのスキンシップも同じだと思っていたのだが……。


(今、リオネル殿下がわたしの頬にキスを……?)


ローズマリーは柔らかい唇の感触を思い出しつつ呆然としていた。

リオネルの時だけは何かがおかしい、それだけは理解できる。

アイビーやオパールにいつも触れている感覚とは違う。

そんな不思議な体験をしたドレス選びのことを思い出していた。


(……なんだかわたしじゃないみたいです)


コルセットでお腹は苦しいが慣れてしまえばどうということはない。

マンダリンオレンジのドレスを着ると、いつもの聖女服とはなんだか違う。

ミシュリーヌがドレスの話ばかりしていたが、初めて気持ちが理解できたような気がした。


侍女に髪を整えて結えてもらい、生花を髪に飾りつけていく。

ライムグリーンの髪に色とりどりの花が映えている。

これはアイビーとオパールがローズマリーのために用意してくれたのだ。

ヒールのある靴を履くと背筋が伸びたような気がした。


ローズマリーはこの日のために改めて講師たちにマナーを学ぼうとしたのだが……。


『ローズマリー様は……模範そのものですわ』

『えぇ、本当に注意することがないほどに模範的です』


講師たちに困惑気味にそう言われたことを思い出す。

どうやらローズマリーは、バルガルド王国の講師たちに教えられたことをきっちりこなすことができたようだ。

あとは本番で経験を積んでいけば問題ないそうで一安心である。


扉をノックする音と共に、正装したリオネルが中へ。

いつも彼は落ち着いて見えるのだが、今日は特に大人びて見えた。


(リオネル殿下を見ていると眩しいです。キラキラしています)


クリストフの比ではない。彼は自分がかっこいい、モテるとローズマリーにいつも言っていた。

だが、本当に魅力的な男性とはリオネルのような人を指すのだろう。


リオネルはローズマリーと目を合わせると、そのまま固まって動かなくなってしまった。



「リオネル殿下?」


「…………」


「どこか変なところがありますでしょうか?」



ローズマリーは首を傾げつつ、鏡で自分の姿をチェックしていた。

侍女にも確認してみるが彼女たちも首を横に振って、どこにもおかしくないとアピールしている。

するとリオネルはハッとしたあとに口元を押さえる。



「すまない、ローズマリーが美しすぎて……」


「……!」


「ドレス、とても似合っているよ」


「ありがとうございます……そう言っていただけて嬉しいです」



淡々と答えるローズマリーだったが、内心は穏やかではない。

そんな気持ちを誤魔化すようにリオネルを褒める。



「リオネル殿下はとても魅力的ですね。かっこいいです」


「……っ!?」


「いつものかっこよさとは違って見えます」


「君にそう言われるとなんだか嬉しくて仕方ないよ……こんな気持ちは初めてだ」



リオネルは照れているのか、珍しくはにかむように笑っている。


(リオネル殿下が笑うと、なんだかわたしも嬉しいです)


それにはローズマリーも同意するように頷いた。



「大丈夫です。わたしも今、初めての気持ちに戸惑っていますから」


「なんだか僕の気持ちとは少し違う意味な気がするけど……そんなところもローズマリーらしいね」



初めてのパーティーに緊張しているのか、リオネルの魅力的な姿に心臓が高鳴っているのかはわからない。

けれどカールナルド王国に来てから、ローズマリーはさまざまなことを学んでいった。


まだまだわからないことは多いけれど、リオネルやアイビー、オパールと過ごす日々はローズマリーの色がなくなった世界を鮮やかに彩ってくれている。

世界は希望に溢れていて、楽しいことがたくさんあって、美味しいものを食べる幸せがあると教えてくれた。

ローズマリーの歩む先にはまったく自由がない絶望ではなく、素晴らしい世界が広がっている。


ローズマリーはリオネルに心から感謝していた。

彼と一緒なら初めてのパーティーも怖くない。



「あの時、わたしとアイビーが入っていた箱を見つけてくださりありがとうございます」


「……ローズマリー」


「リオネル殿下と出会えてよかったです」



リオネルが箱の魔法を解かなければ、今頃どうなっていたのか想像もしたくない。

ローズマリーは無意識に笑みを浮かべた。

リオネルはローズマリーの頬を指でそっと撫でる。



「僕もローズマリーに出会えたことを嬉しく思うよ。ありがとう」


「リオネル殿下……」



視線が絡み合い二人の距離がゆっくりと近づいていく。

もう少しで唇が触れてしまいそうな距離という時に、アイビーがどこかから現れてローズマリーに抱きついたことで二人の距離が自然と離れてしまう。


影から二人の様子を見守っていたオパールが慌ててアイビーを引き剥がした。

彼に対して怒りを露わにしている。

アイビーはどうしてオパールに怒られているのかわかっていないようだ。

それはローズマリーも同じだった。


(オパールちゃんはどうして怒っているのでしょうか。でもあのままだったら……)


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