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④①


素直に頷いた二人の頭を優しく撫でる。

すっかり母親代わりも板に付いてきたような気がする。



『ローズマリーがおばあちゃんになるまでずっとずっとアタシが愛してあげるからね』


「な、なるほど……」



外見は幼児だが中身はローズマリーよりも大人なオパール。

彼女はたまに姉のようにローズマリーの面倒を見てくれる。

最近は立場が逆転しつついるが、二人はローズマリーといつも一緒でなくてはならない存在だ。



『ボクもローズマリーを守って添い遂げるよ!』


「ありがとうございます」



最近は二人のローズマリーに向ける愛が重たいように思うことがある。


(それともこれが普通の親子関係なのでしょうか……)


ローズマリーには親がいたことがないため、なにが普通なのかはわからない。

いつも共にいることが多いリオネルに助けを求めるように視線を送ると……。



「それは僕もローズマリーに言いたかった台詞だな」


「そういうものでしょうか」


「ここにいるみんなはローズマリーを愛しているんだよ」



好かれるのはいいことだと、とりあえず「ありがとうございます」と返すしかなかったのだった。



* * *



今日、ローズマリーはリオネルと一緒に近くの丘にピクニックに来ていた。

王都が見渡せるこの場所は幼い頃からリオネルのお気に入りだそう。

今日はシェフたちにお弁当を作ってもらい、アイビーとオパールを連れていた。

空は雲ひとつなく晴れ渡っている。太陽の光が温かくて気持ちいい。

敷物を敷いて座っているローズマリーとリオネルの前で、二人は元気に走り回っている。



「とてもいい景色ですね。リオネル殿下」


「ローズマリーがいてくれるなら、どこだって素晴らしい場所になるよ」


「そんなことないと思いますよ。ここが素敵な場所なのです」


「あー……うん、そうだね」



リオネルは困ったように笑っている。

いつもここで終わる会話だが、珍しくリオネルは補足するように言葉を加える。



「ローズマリー、先ほどの言葉は『君がいてくれるだけで僕はとても楽しい』って意味だよ」


「……!」


「ちゃんと僕の気持ちが伝わったかな?」



ローズマリーが動きを止めたのを見て、リオネルは今度は満足そうに笑っている。

ほんのりと熱くなる頬をそっと押さえる。


(やっぱり……リオネル殿下と一緒にいる時のわたしは少し変です。よくわからない気持ちになります)


胸がソワソワするのも、くすぐったい気持ちになるのもリオネルのそばにいる時だけだ。


ローズマリーの今まで切り捨てなければいけなかった感情たちが少しずつ動き出す。

バルガルド王国にいる時、もしローズマリーに感情があったら間違いなく壊れてしまっただろう。

ローズマリーは感情を鈍くすることで自分の心を守っていたのだ。


だけど今は自分の気持ちを表に出したり、自由に時間を過ごすことを許されたことで、少しずつではあるが大切なものを取り戻しているような気がした。


そよそよと心地よい風が流れていく。

ローズマリーが髪を耳にかけて辺りを眺めていると、いつものようにお腹がぐーっと鳴ってしまう。

相変わらずローズマリーのお腹は別の生き物のように鳴き声をあげる。

あまりの大きな音にオパールとアイビーもこちらにやってくる。

そしてお腹に耳に当てているではないか。



『ローズマリーのお腹には何かいるよ!』


『きっと別の生き物がいるんだわ。これはお腹が空いていると鳴いているのね』



アイビーとオパールはローズマリーのお腹を撫でながら、真剣な表情で話し合っている。

毎日可愛らしい二人に癒されつつ、リオネルと過ごして新しい学びを得る日々。


(やっぱり……わたしのお腹の中には何か別の存在がいるのでしょうか)


シェフたちがローズマリーを喜ばせようと美味しい料理を作ってくれるため幸せを更新している。



「ははっ、ローズマリーのお腹が鳴っていることだし、食事にした方がいいね」


「はい、そうしていただけると助かります」



ローズマリーはリオネルの許可を得ると、手際よく食事の準備をしていく。

薄茶色のカゴに入っているのは、野菜とハムがたっぷりと入った具沢山のサンドイッチがギッチリ詰まっている。


ローズマリーはサンドイッチの形が崩れないように手に取って、思いきりかぶりつく。

シャキシャキとした野菜と、ジューシーな厚切りなハム。

ふっくらとしたパンに濃厚なソースが絡み合ってとても美味しい。

あまりの美味しさに「んー……!」と声が漏れてしまう。


(とっても幸せです……!)


のんびりと景色を眺めながら食べる食事は最高なのだとしみじみ思う。

もぐもぐと口を動かしているとリオネルの視線に気づく。

ゴクリと飲み込んだローズマリーは、こちらを見ているリオネルに声をかける。



「どうかしましたか?」


「君が幸せそうに食べていると僕まで嬉しい気持ちになるよ」


「……!」


「サンドイッチは美味しいかい?」



ローズマリーはサンドイッチとリオネルを交互に見る。


(もしかして……リオネル殿下はサンドイッチが欲しいのでしょうか)


そしてリオネルになら大切な大切なサンドイッチをわけてもいいと思い、差し出そうとしようとした時だった。

リオネルはローズマリーの言いたいことを先回りするように手を前に出す。


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