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そんな日々が続いていたが、いつの間にか周囲はすっかりとミシュリーヌが素晴らしい聖女だと思うようになっていた。

社交界に出ておらず魔法樹のそばにばかりいるローズマリーは、ルレシティ公爵とミシュリーヌに敵わない。

それにローズマリーにとってはミシュリーヌがどんな聖女だろうがどうでもいいことだった。


(美味しいご飯が食べられるのなら何も問題ありません)


孤児院で奪い合いをして強くなければ生き残れないような状況でお腹いっぱい食事ができるのは、何よりも価値があることだった。

ローズマリーにとって、魔法樹のそばにいたら満足な生活ができる。

それでいいのだ。


──それから十年が経とうとしていた。


ローズマリーが七歳で魔法樹を癒し始めてから、十七歳の今日までミシュリーヌが聖女として魔法樹を癒しているところなど見たことがなかった。

この真実を知っているはルレシティ公爵とローズマリー、バルガルド国王や大聖堂の大司教や教皇くらいだろう。


ルレシティ公爵はミシュリーヌが毒魔法を使うことをひた隠していた。

それは誰も知らない秘密だ。

何故、ミシュリーヌが毒魔法を使うのか知っているのかというと、ローズマリーにはぼんやりと魔力の光の色として見えるからだ。

その人を囲む魔力の光は、使う魔法を現しておりミシュリーヌは濃い紫色だ。

そのことを口にすると変人扱いされてしまうため、何も言えなくなってしまった。


ミシュリーヌのそばにいてわかったことは、気に入らない奴は堂々と毒魔法を使い排除しているということだ。

苦しむ令嬢たちの体にはミシュリーヌの魔力がまとわりついていた。

彼女は癒しの力を持っていると思われているため、疑われることなくやりたい放題。


そんな時、ローズマリーはクリストフの婚約者になってしまった。

彼の婚約者になったのは十五歳だ。


(クリストフ殿下……どんな方でしょうか)


大聖堂にこもってばかりのローズマリーは、王太子であるクリストフに会ったことなどなかった。

理由はクリストフがローズマリーを嫌っているからだと聞いていた。


(嫌っているのに、どうして婚約者になるのでしょうか)


そんな疑問を問いかけるだけ無駄なのだろう。

彼がどんな人物なのかまったく興味がなかった。

そもそも婚約者など、なりたいと思っていない。


クリストフの婚約者になった途端、ミシュリーヌはローズマリーに嫌がらせを始めた。

どうやら彼女はクリストフの婚約者になるために聖女に偽装していたらしい。

その日からミシュリーヌはローズマリーを『裏切り者!』と激しく非難した。


その時、彼女に何度も毒殺されそうになったのだ。

それにミシュリーヌに飲み物をもらっても、濃い紫色の魔力がまとっていて毒が入っているかどうかわかりやすい。

ローズマリーは毒入りかどうかわかるため、いつも未然に防ぐことができた。

それを体内に取り入れたり、触れなければどうということはない。

その度にミシュリーヌは悔しそうにしている。

何度やってもローズマリーが毒入りの飲み物を口にしないため、最近は毒殺するのを諦めたようだ。


王太子であるクリストフも知らないミシュリーヌの本当の力。

クリストフはミシュリーヌが素晴らしい聖女だと思い込んでいる。

しかしそれはミシュリーヌがローズマリーの功績を奪っているに過ぎなかった。

彼女は大聖堂に出入りして時間を潰すだけ。


『あんたのようなカス、すぐにバルガルド王国から追い出してやるわ……!』


それがミシュリーヌの口癖だった。

彼女のくだらない嫌がらせも満足な食事をもらえればそれでいいと思っていた。


暫くはローズマリーがクリストフの婚約者になった理由はわからないままだったが、教会がバルガルド国王に圧力をかけたらしい。

ルレシティ公爵と影響力を強めたい教会とでバルガルド国王は板挟み状態。

だが、実際に魔法樹を守っているのはローズマリーだ。

バルガルド国王はローズマリーを手元に置いておきたかったのだろう。


王太子であるクリストフとは婚約してから何度か顔を合わせる機会があった。

一言で彼を表現するならば、いけすかない奴である。

理由はミシュリーヌと同じ。

ローズマリー含めて、貴族以外を徹底的に見下しているからだ。

あとは自慢話ばかりしているので、きっと自分のことが大好きなのだろう。


クリストフの髪はディープブルーで瞳はライトブルー。

釣り上がった目は涼やかで、黙ってさえいれば顔がよくモテるのだろう。

海を連想させる色合いの通り、彼は青いオーラをまとい水魔法を得意している。

魔法の力も強いため自信家で横暴な部分はあるが頭もいいそうだ。


だが、ローズマリーだけは裏の顔を知っている。

婚約者になって暫く経つと、クリストフはローズマリーにパサパサなクッキーをくれることがあった。


『お前にはこれで十分だろう?』

『はい、十分です』


クッキーに釣られるがままローズマリーはクリストフの話を聞く。


『この俺の婚約者でいられることを誇りに思うがいい!』

『俺と婚約者でいられて幸せだろう? 俺に釣り合うようになれよ』

『ミシュリーヌも俺を好きだと言うんだ。もっと頑張らなければこの俺をミシュリーヌに取られてしまうぞ?』

ローズマリーはパサパサなクッキーを食べながら黙って話を聞いている。


(この人は一体、何を言ってるんでしょうか)


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