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③⑧


やってしまったと口元を押さえた時にはもう遅かった。

クリストフの怒りは完全にローズマリーに向いてしまう。

ローズマリーは咄嗟にありったけの魔力をつぎ込んで、前に立っているアイビーとオパールを花や草の壁で守るように包み込んだ。


(これでアイビーくんとオパールちゃんは簡単に連れ去れません)


彼らを守ること……それがローズマリーがやらなければいけないことだ。



「今のは聞かなかったことにしてやろう。俺を愛しているんだろう……? なぁ、ローズマリー?」


「……っ!」



こちらにどんどんと迫ってくるクリストフを見て一歩、また一歩と後退する。

しかしクリストフは眼前に迫り、ローズマリーの胸元を掴んで持ち上げる。



「ミシュリーヌのように舌を切り落として二度と反抗できないように牢に閉じ込めてやろうか? あぁ?」


「う、ぅっ……!」


「折角、あの悪女から守ってやると言ってるんだ。安心して帰ると言え! 言うんだ、ローズマリーッ」



クリストフはローズマリーを睨みつけながらそう言った。

掴まれている服が首に食い込んで息苦しい。


舌を切り落とした、牢に閉じ込めたということはミシュリーヌは嘘がバレてしまい、その罪を償っているのだろうか。


(なんてひどいことを……!)


ローズマリーを追い出して、クリストフの婚約者になりハッピーエンドとはいかなかったようだ。

それよりもすべてはミシュリーヌのせいだと言わんばかりのクリストフに驚いてしまう。

平然とクリストフはミシュリーヌを切り捨てた。


(わたしを追放すると言ったのはクリストフ殿下です。それなのに……っ)


まるで了承するまで離さないと言いたげなクリストフ。

だが、ローズマリーは嘘でも彼のことを好きだなんて言いたくはなかった。

これは賢くないやり方だとわかっていたが、ローズマリーは叫ぶように言った。



「絶対に嫌、です……! 二度と……顔も見たくありませんっ」



ローズマリーの服を掴む力が強まったような気がした。



「…………そうか。ローズマリーはカールナルド王国でおかしくなってしまったんだ。そうに違いない。俺を愛していることを思い出させてやらないとな」


「離して……くだ、さい!」



クリストフがブツブツと何かを呟きながら、まるでローズマリーを囲むように水の壁が現れる。

水は草木の間を貫通してしまう。

アイビーとオパールに何かあってはいけないと、ローズマリーは隙をついてクリストフを蹴り飛ばす。

尻もちをついたが、すぐに立ち上がって二人から離れるようにローズマリーは中庭の端へと離れていく。


(これで何があっても安心です。アイビーくんとオパールちゃんはわたしが絶対に守りますから……!)


抵抗するように草木を伸ばしてクリストフを拘束しようとするが、勢いが足りずに茎がブチブチと千切れてしまう。

それが彼をさらに煽ることになってしまったようだ。



「ローズマリー、水の中で頭を冷やすといい」


「……!」


「死にたくなければ大人しくしていろ」



ローズマリーの目の前は大波のように水に飲み込まれる。

完全に水に覆われて苦しくなっても平気なように、大きく息を吸い込んで思いきり目を閉じた時だった。


パラパラと水滴が頬に触れたのだが、いつまで経っても濡れた感覚がない。

そのことを不思議に思ったローズマリーがうっすらと目を開けた。

いつの間にか水の壁は無くなっている。

目の前にいたはずのクリストフの姿もどこにもない。

代わりにローズマリーの前に立っていたのは……。



「ローズマリー……大丈夫かい?」


「……リオネル殿下!?」


「遅くなってすまない。怪我は?」


「わたしは大丈夫です。ですが水が……」



ローズマリーは服を掴まれた程度で大した怪我はしていない。

掴まれて服が食い込んでいたところが擦れてしまったのかチクリと痛む。

急に喋ったせいで息が詰まり、ローズマリーが軽く咳をしたのを見てリオネルの手に力がこもる。



「ぐぅ……!」



何かが潰れたように苦しむような声がしてローズマリーは首を傾げる。

よく見るとローズマリーの目の前がびっしょりと濡れていて水たまりができているではないか。

どうやら水の壁はリオネルの魔法によって地面に叩きつけられたらしい。

リオネルが腕を上げているため、その先に視線を送ると……。


クリストフが頭から地面にめり込んでいる姿が見えた。

苦しいのかクリストフは呻き声を上げているが起き上がることはない。

リオネルは涼しい顔で更に力を加えると、彼の上半身が見えなくなってしまった。


ローズマリーは緊張から解放されたのか体から力が抜ける。

倒れそうになったローズマリーをリオネルがもう片方の腕で支えてくれた。



「あ、ありがとうございます……助かりました」



お礼を言うとリオネルはローズマリーを包み込むように抱きしめる。

その腕はかすかに震えているような気がした。



「リオネル殿下……?」


「……君が無事で本当によかった」



ローズマリーもリオネルを抱きしめ返す。

彼の体温がじんわりと伝わってきて安心してしまう。

ローズマリーがリオネルが来てくれて本当によかったと思っていた時だった。



「──クソックソ、クソォォオォッ!」  


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