③④ クリストフside4
魔法が使えなくなり一週間が経とうとしていた。
魔法樹は枯れて、完全に灰になってしまった。
今や魔法樹があった場所には、ぽっかりと穴が空いていて大聖堂は封鎖されて誰にも入れないようになった。
魔法は完全に使えなくなってしまい、王家はその責任を追求されることとなる。
「もう誤魔化すのは限界だ。貴族たちに説明しなければ……」
「本当に……魔法は使えなくなるのですか!?」
「…………」
「父上、どうにかしてくださいっ」
「ローズマリーと魔法樹を失った以上はどうにもできない! 今は取り戻すことだけを考えろっ」
「は、はい!」
父によってすべてが公になり、ルレシティ公爵とミシュリーヌは聖女ローズマリーを貶めて追放した罪で地下牢に拘束されることになった。
父は教皇たちと結託して二人にすべての責任を押し付けて、彼らを切り捨てる選択をしたのだ。
牢に入る前、ミシュリーヌは『あなたにすべてを捧げたのにっ』と泣いていたが毒婦が何を言ってもクリストフには響かない。
むしろここまでして王妃の座に縋りついていた彼女のことが気持ち悪く軽蔑していた。
ミシュリーヌはローズマリーへの恨み言を言っていたが、信じられない気分だった。
『なんて女だ……! ローズマリーを虐げ続けて嘘までついて彼女を国外に追放するなんて』
クリストフの中でいつの間にかすべて罪がミシュリーヌのものになっていた。
『あなただってわたくしと同じじゃないっ! ローズマリーを追い出したのはクリストフ殿下よ! クリストフ殿下がっ』
嘘ばかり吐くミシュリーヌの舌を切って話せなくした。
彼女の声を聞くのはこれ以上不快だと思ったからだ。
本当はこれ以上、ミシュリーヌから真実を話されるのは避けたかったのだ。
(欲に塗れた魔女め……! あとはこの俺がローズマリーと結ばれるだけだ)
ローズマリーが生きていてくれさえすれば地位も安寧もすべてを取り戻せる。
(ローズマリー、どうか生きていてくれ!)
このまま王太子で居続けるために犠牲があるならそれは仕方のないことではないか。
何故ならミシュリーヌが悪魔で、ローズマリーが聖女だと気がついてしまったからだ。
ルレシティ公爵は『こんなはずでは……』と憔悴していた。
ルレシティ公爵家は一族全員処刑されて取り潰されることになったが、貴族たちの怒りは収まらない。
父はクリストフに部屋にこもっていろと言ったが、今は王家の名誉のために動くことが必要だと訴えかけると考え直してくれたらしい。
(そのためには魔法樹もローズマリーも取り戻さなければいけない。どんな方法を使ってでも……)
王家は教会と手を組みローズマリーを取り戻すために動き出す。
もう生きている前提で動くしかないのだ。
クリストフもすぐに騎士を派遣して荷馬車がどこに向かい、ローズマリーが入った箱がどこに辿り着いたのか調べ始めた。
(一度はミシュリーヌという毒婦に騙されてしまったが……俺のことを心から愛しているローズマリーならば絶対に許してくれるはずだ。彼女が帰ってきたらたくさんの甘いデザートをやろう。次期王妃として扱ってやらねば……)
そう考えていたクリストフだったが、予想外のことが起こってしまう。
なんとバルガルド王国はかつてない大混乱となる。
魔法が使えなくなったことが広まり、何もできない貴族たちを見て、今までの不満をぶつけるように領民たちが暴徒化した。
農具や武器を持って、貴族たちの屋敷を襲うところが絶えなかった。
今まで魔法で対抗していた貴族たちに抗う術はない。
貴族出身の騎士たちも魔法がなくなり、剣の振り方を忘れてすっかり役に立たなくなってしまう。
(これほどまでに魔法が大きかったとは……!)
それほど魔法の力が大きかったのだと実感するのと同時に、貴族たちからは魔法樹の恩恵が何故なくなってしまったのかと怒りが募っていく。
王家への攻撃や助けを求める声は止まらない。
教会は王家のせいにして逃げるかもしれないという危機感。
悪循環は止まらずに、あんなにも平和だったバルガルド王国はローズマリーがいなくなったことをきっかけに崩れていく。
教会もローズマリーを失ったのと同時に、貴族たちからの支持と権力を一気に失っていった。
それから教会側もローズマリーにひどい扱いをしていた大司教たちをまとめて罰したらしい。
魔法樹を枯らし、ローズマリーを守れなかった責任をとるような形で牢に送られた。
一方、ローズマリーの足取りを掴むのは容易だった。
元々カールナルド王国へ運ぶ荷物だとわかっていたことや、ローズマリーがいたであろう場所には必ず草木や花が大量に散乱していたからだ。
不気味な開かない箱を開けようと御者は奮闘していたらしい。
それは間違いなくローズマリーが魔法を使い、何かをしていた証拠だった。
つまりローズマリーは隣国までの道のりを生き長らえているということだ。
クリストフは報告を受けながら気分が高揚していた。
ローズマリーが生きていてさえくれたら、魔法樹も戻ってくる。
バルガルド王国は再び輝きを取り戻すのだ。
自分の失態をなくすことができるかもしれないと、そう思ったからだ。
(ローズマリー、俺のために生きようと頑張ってくれたのだな! よくやった、たくさん褒めてやろう)




