③③ クリストフside3
「俺は知らなかったんだっ! 知っていればそんなことをしませんでした!」
「うるさい、うるさい……ッ! お前には失望した! 廃嫡の手続きをしてやる。この愚か者めっ! この件が落ち着くまで一歩も外に出るな、一歩もだっ」
「……なっ、待ってください! 挽回のチャンスをください」
「ローズマリーを連れ戻す以外、お前が王太子に戻れる道などないッ!」
「……!」
父は教皇たちやミシュリーヌと話をするために部屋から出て行った。
たった一度、判断を間違えただけで転落してしまう。
クリストフは膝を折り、頭を抱えていた。
(俺の輝かしい未来が……! どうしてこうなってしまったんだ。ありえないっ)
しかしすぐにすべての発端は嘘をついていたミシュリーヌとルレシティ公爵のせいだ。
それにクリストフに嘘をついていた父や教皇たちが悪いではないか。
クリストフのせいではないのに、このまま放置していればすべてを失ってしまう。
どうにかして挽回の方法を模索しているとクリストフはあることを思いつく。
(そうだ! 父上より先にローズマリーを取り戻せばいい。そうすれば元通りになるはずだ)
クリストフも父の後を追うために部屋を出た。
今、父の頭は魔法樹のことでいっぱいなのだろう。
父はクリストフに気がつくことはない。
そのまま父の後を追っていくと、大聖堂に辿り着く。
クリストフが中に入ると大聖堂の中では父の怒号が響き渡っていた。
そこで父がルレシティ公爵に掴み掛かっている姿を盗み見ていた。
(ルレシティ公爵はここにいたのか。どうするか話し合っていたのか)
説明を求める父にルレシティ公爵は教皇たちを責め立てている。
教皇たちは魔法樹が弱ったことでローズマリーにきつく当たり、かなり酷い目に遭わせていたらしい。
魔法樹を回復させるまで食事も水も与えずに閉じ込めていた。
彼らは自分たちの地位を守るために必死だったのだろう。
(なんて可哀想なローズマリー……俺が助けてやれたらよかったのに)
自分がローズマリーにやったことを忘れて、ミシュリーヌや教皇たちを敵視していた。
ルレシティ公爵とミシュリーヌはローズマリーを陥れたのだ。
だからこそ彼女を許してそばに置いておこうとしていたのだろう。
(ミシュリーヌに聖女としての力はない。だからローズマリーが必要だったのだな)
偽物の聖女であるミシュリーヌに魔法樹が癒せるはずもない。
このまま最悪な状況が続けば、魔法が使えなくなるそうだ。
ローズマリーがいなくなった途端、魔法樹の葉は次々と落ちて、色を失っているそうだ。
クリストフは魔法樹を見上げるが、もう別の木のようになってしまった。
このまま魔法樹がなくなればどうなるのか、そう考えてクリストフは口元を押さえた。
(もしかしてもう二度と魔法が使えないということか……!?)
クリストフも力を込めるが、水が現れるわけでもなく操れもしない。
生活を豊かにしてくれていた魔法がなくなるなんて考えられなかった。
(我々だけの特別な力が……なくなるなんて! 嫌だっ、絶対に嫌だ)
他国の奴らは愚かで平民たちにも貴重な魔法を分け与えている。
貴族たちだけと限定しているバルガルド王国とは違う。
それゆえにバルガルド王国の貴族たちは魔法を使い莫大な財産を築いてきたのだ。
クリストフが生まれる前から当たり前のようにあった魔法。
それがなくなるなど生きていけなくなるのと同じではないか。
(……信じられない。どうにかしなければ)
クリストフが己の身に起こるであろうことを想像し震えていた時だった。
大司教が青ざめた顔で口を開いた。
「そ、それから調べてわかったことなのですが……恐らくローズマリーが抱えていた赤子は新しい魔法樹だったようです!」
「……なんだと!?」
父やルレシティ公爵は唖然としている。
クリストフも信じられない気分だった。
「どうやら力の強い魔法樹は人の形を模して生まれてくるらしいのです。そのような魔法樹は千年は生きるとか……」
つまりバルガルド王国は本物の聖女であるローズマリーと千年も恩恵を与えてくれる魔法樹を自ら捨てたことになる。
「ローズマリーとその魔法樹を箱に閉じ込めて国外に追放したなんてッ! なんてことを……っ! 国の損失だ。大損失だぞ!?」
父は大司教の胸ぐらを掴んで揺すっていく。
「わかっています……! だが先に裏切ったのはルレシティ公爵と貴族たちだ! 貴族たちが押し寄せていなければこんなことにはっ」
「……!」
「それにローズマリーを追放したのはクリストフ殿下ですぞ! 我々にはどうにもできなかったのです」
名前を呼ばれてクリストフは肩を揺らした。
手のひらを見ると汗ばんでいてガタガタと震えていた。
クリストフは父と教皇たちが争う声が何も聞こえなくなる。
頭にあるのはローズマリーのことだ。
(あの赤子が魔法樹だと!? ローズマリーは俺を裏切ってなどいなかった。それどころか俺のために魔法樹を……! 彼女は幸運の女神じゃないか)
それから教皇たちが調べたことによると、より強い魔法樹は人の形を模して生まれてくることがあるそうだ。
そうして自分が根を下ろす場所を決め、その国に千年の恩恵を与えてくれる。
バルガルド王国はもっとも大切なものを失ったのだ。
(これもすべてミシュリーヌの……あの悪女のせいで俺は判断を間違えてしまった。許してくれ、ローズマリー)
クリストフはローズマリーを取り戻すことに決めた。
(ローズマリーは俺が救い出してみせるから待っていてくれ……!)




