③
ローズマリーから放たれる淡いグリーンの光が魔法樹に吸い込まれていく。
すると少しだけ魔法樹が元気になっていくのがわかった。
そうするとローズマリーもなんだか満たされる。
ローズマリーは大聖堂で時間が許す限り、魔法樹の元に寄り添って元気になるように魔法を使い続けた。
しかしそんなローズマリーを貴族たちは冷めた目で見ていた。
国の宝である魔法樹を献身的に支えているにもかかわらず、だ。
それにはさまざまな理由があるのだが、最大の要因はローズマリーがバルガルド王国の貴族出身でないことだった。
ローズマリーは教会の後ろ盾でリィーズ伯爵家の養女ということにはっているが、元が平民で孤児院出身という最大の枷があった。
バルガルド王国は元々身分制度が根強く、貴族だけしか魔法を使えないということもあり、ここ三十年でますます貴族主義が強調されていた。
奴隷制度も最近、やっと撤廃されたほどだ。
ローズマリーはバルガルド国王の命令で魔法樹のそばで貴族としての教育を受けていた。
隣国のカールナルド王国は昔から魔法が発展しており、国民全員が魔法の恩恵を受けている。
バルガルド王国の三倍の国土には三本の魔法樹があるそうだ。
一番長生きな魔法樹は千年も長く王国を支えていると聞いた。
国民全員が魔法を使えるくらいなのだから、さぞ立派な魔法樹なのだろう。
ところがその魔法樹が元気を失くしており、カールナルド王国はその影響を強く受けていると司祭たちが話しているのをたまたま耳にした。
カールナルド王国にここ十年ほど聖女がいないことが大きな理由だといわれている。
だがバルガルド王国には奇跡的に聖女が二人、存在していることになっている。
それがローズマリーとミシュリーヌである。
ミシュリーヌは艶やかなゴールドの髪を腰まで伸ばしている美女だ。
紫色の瞳は優しげで、立ち居振る舞いは美しい。
ミステリアスで色気のある彼女は聖女らしく見えるのだろう。
幼い頃に孤児院で育ったローズマリーとは違い、彼女は貴族として育った。
まるで別の存在のように美しいミシュリーヌと初めて会ったのは魔法樹と聖女の仕事について本格的に学び始めた頃。
ローズマリーはお腹いっぱい食べられる生活に満足していた。
彼女も〝聖女〟だと紹介されたローズマリーは首を傾げた。
ミシュリーヌからは癒しの力も植物を元気にする力もないとローズマリーにはわかってしまったからだ。
けれどミシュリーヌの父親であるルレシティ公爵は『ミシュリーヌは癒しの力を持っている。今日から聖女としてよろしく頼む』と言った。
まだ子どもで貴族をどういうものか知らないローズマリーは口に出してしまったのだ。
『それはおかしいです。だってミシュリーヌ様は癒しの力も植物を元気にする力も持っていないですよね?』
その時のルレシティ公爵とミシュリーヌ、バルガルド国王の険しい顔を今でもよく覚えている。
ローズマリーは決して触れてはいけないものに触れてしまったらしい。
バルガルド国王はローズマリーに言い聞かせるようにこう言った。
『ミシュリーヌは我が国の聖女だ』
この国で一番偉い国王がそう言うのならと、ローズマリーは頷くしかなかった。
どうして嘘をつくのかローズマリーにとってはわからない。
教会の世話人たちもそのことについては触れていけないというので黙っていた。
余計なことに巻き込まれないように強かに生きる、それは孤児院でも学んできたことだ。
だが、ローズマリーはもう巻き込まれた後だったのだ。
その日からルレシティ公爵はわかりやすいくらいにローズマリーを敵視するようになる。
警戒するのと同時にローズマリーを孤立させるように追い詰めていく。
恐らくミシュリーヌが本当は聖女ではないとバレないようにするためでもあるのだろう。
(なんて面倒な人なんでしょうか……)
ローズマリーにとって更に面倒な人がもう一人。
ルレシティ公爵の娘、ミシュリーヌは常にローズマリーを下に見ていた。
それなのにミシュリーヌはローズマリーが魔法樹を癒しに行くタイミングで同行。
聖女として仕事をしていることをアピールするためなのか、文句を言いつつ必ず大聖堂までついてくる。
ローズマリーは口うるさいミシュリーヌをひたすら無視していた。
こちらは魔法樹を癒すために、一生懸命魔法を使っているというのに、ミシュリーヌはひたすら愚痴を吐き出している。
おかげで知りたくもないのに一方的に社交界の話や噂話などをひたすら黙って聞くはめになる。
質問すれば逆に怒られるので黙って聞くしかない。
彼女が話していたことだが昔からルレシティ公爵家の影響力は強く、国王になるために彼の力を借りたのだそう。
つまりルレシティ公爵には借りがあり強く出られないのだろう。
だから無理な願いであってもバルガルド国王は飲み込むしかなかったのだろう。
ミシュリーヌの話を聞いて思うことはただ一つ。
(貴族というのは面倒くさいですし、難しいのですね)
今日もミシュリーヌはひたすら文句を言い続けていた。