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②⑥


もしここにオパールが加わったら可愛いが二倍になるのだろう。

言葉は大人びているのに、やっていることは子どもと同じだ。

チグハグ感は否めないが、そもそも人間の形を模しているだけで千年生きる魔法樹に、こちらの感覚に当てはめるだけ無駄だと思っていた。

それでも彼らがいつまで可愛らしい子どもの姿でいてくれるのか気になって問いかける。



「アイビーくんとオパールちゃんは、今後どう成長していくのでしょうか?」


『樹の成長はゆっくりだよ。少なくともローズマリーが死ぬまでは子どものままでいるよ!』


「なるほど……!」



アイビーによれば、力の強い魔法樹ほど育ちきるまで聖女の力が必要不可欠だそう。

だからと聖女がおらず生まれたオパールは眠り続けて、聖女が現れるのをずっとずっと待っていたそうだ。

アイビーはクロムを通じてローズマリーがいることはわかっていたらしい。

魔法樹同士の不思議な繋がりが気になるところだ。

だがバルガルド王国に置いて行ったしまったクロムのことが気がかりで、ローズマリーが顔を伏せて彼のことを考えていると……。



『ローズマリー、大丈夫。ボクはクロムの記憶をわかるけど彼はローズマリーのおかげで最後はとても幸せだったって思っているよ』


「本当ですか?」


『うん、本当だよ。ボクたちは悪意に弱いから……そういう人たちのそばにいると力が弱まっちゃうんだ』



バルガルド王国の魔法の使い方が悪く、魔法樹はどんどんと弱ってしまう。

今でももっと早く知っていたら何かできただろうかと後悔してしまう。

ローズマリーの表情が暗くなっていたらしく、アイビーが『大丈夫?』と言いながら覗き込む。



『ローズマリーをいじめたアイツら、大っ嫌い! 二度とあの国には行かないけど、もう魔法は使えないから何もできないよ』


「…………」



その時のアイビーの表情は背筋がゾクリとしてしまうほどに恐ろしいと思った。

今回の件でバルガルド王国に魔法樹が生えることはないそうだ。

もう二度と魔法樹が苦しむことはないと思うとローズマリーは安心できる。



『この国はいいね。仲間もたくさんいるし、ボクたちを大切にしてくれる』


「そうですね。アイビーくんをここに連れてくることができてよかったです」



とは言っても、ローズマリーが何かをしていたわけではなく荷馬車で運ばれていただけだが……。

あの時は本当にどうなるのかと思っていたが、こうしてアイビーと生きてここにいられるのはよかったと心から思っていた。



『あの時はローズマリーを守れなくてごめんね。ボクも生まれたばかりで力が全然なかったから……』


「……アイビーくん」


『今度はリオネルとオパールと一緒にローズマリーを守るから』


「ふふっ、ありがとうございます」



それからローズマリーは夢が終わる頃にアイビーに必ず聞かれることがあった。



『ローズマリーは今、幸せ?』


「はい、とても幸せです」



ローズマリーは満面の笑みを浮かべて頷くと目が覚める。

それからアイビーとリオネルと朝食を食べて、オパールの元に向かい数時間力を使う。

アイビーがオパールのそばで昼寝をしている間に、リオネルと外に出かけるのだ。


一番、驚いたことといえばどこに行ってもローズマリーが神様のように崇められることである。

ここに来て一週間も経たないうちにローズマリーの力で魔法樹が蘇ったことが広まった。



「緑の聖女様、いつもありがとうございます」


「ごきげんよう、緑の聖女様」


「ご、ごきげんよう……!」



町に出れば皆に話しかけられ感謝されつつ、挨拶に答えていく。

最初は緑の聖女と呼ばれることに違和感を覚えていた。

ローズマリーの髪色のことかと思ったのだが、どうやらカールナルド王国で前いた聖女も植物を元気にする力があり緑の聖女と呼ばれていたそうだ。

その力を持つ聖女を緑の聖女。癒しの力を持つ聖女は光の聖女と呼ばれるそうだ。

バルガルド王国とは違いすぎる扱いを受けて困惑することも多いが、リオネルによれば本来はこの対応が正しいそうで、バルガルド王国だけが異常だと語った。




「緑の聖女様、畑でとれた野菜です。どうぞ」


「こちら今朝焼いたクッキーですわ」


「焼きたてのパンです。是非もらってください!」


「──ありがとうございますっ!」



着々と餌付けされるローズマリー。

ローズマリーが食べることが大好きなことはあっという間に国中に広がっている。

城にも『緑の聖女様に感謝を』と、たくさんの贈り物が届き続けているそうだ。

特に食材が多いそうだ。


バルガルド王国とは真逆の扱いに戸惑いは隠せないが、ここにいられることが幸せだと思う。

シェフたちはローズマリーが喜んでくれるようにと、いつも美味しい料理を用意してくれる。


カールナルド国王や王妃もまるで娘のようにローズマリーに接してくれる。

隙があればローズマリーを甘やかそうとしてくるのだが、正直にいうとどう反応したらいいかわからないのが本音だった。


とある日、リオネルと王妃と国王と食事会をしていると、王妃が心配そうな表情でこちらを見ていた。



「ローズマリー、もっとわがままを言ってもいいのよ?」


「いえ、食事がいただければ満足ですから」


「そんな寂しいことを言わないで。あなたにはみんな感謝しているのだから」



王妃はそう言ってにっこりと優しい笑みを浮かべた。


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