②⑤
「この草は苦いですが食べられます!」
「…………ん?」
「この草はとても美味しいですが、食べすぎるとお腹が痛くなります。あまりおすすめしません」
「えっと……」
戸惑うリオネルは人差し指で頬をかいている。
だが、ここはローズマリーの出番だと彼の手を握って力説する。
「リオネル殿下、大丈夫です! 花や草を食べるのは恥ずかしいことではありませんから」
「あー…………それはどういう意味かな?」
「リオネル殿下も食べられる草や花が知りたいのかと思いまして。ですが食べてみるのが恥ずかしいのでしょう?」
「……え?」
「頬が赤くなってました。恥ずかしい時に頬は赤くなります。本に書いてありました」
二人のやりとりを見ていた侍女や護衛たちはあんぐりと口を開けた。
そしてローズマリーがどうしてこのような考え方になったのか考えるも、まったくわからない。
リオネルもまさかローズマリーの笑顔を見て照れていたことを、そのように捉えられるとは思っていなかった。
ローズマリーはリオネルが花の蜜を吸い、草を食べてみたいけど恥ずかしくてできないのだと考えていることがわかる。
「アハハッ……!」
「どうかしましたか?」
腹を抱えて笑い出したリオネルを見たローズマリーは首を捻る。
またおかしなことをしてしまったのだろうかと考えるが、答えは出ない。
「本当に君は……なんて面白い女性なんだ」
「面白い? そのように言われたのは初めてです」
「僕はローズマリーのことをとても魅力的な女性だと思っているよ」
「そうなのでしょうか」
リオネルはローズマリーを褒めてくれているのだろうが、どう反応を返していいかはわからない。
今まで否定ばかりされてきたせいか、なんでもやることや言うことを肯定してくれるリオネルに戸惑ってばかりだ。
だけど無意識に己を縛り押し付けていたローズマリーにとっては自分を受け入れてくれるリオネルの存在がありがたいと思える。
「わたしはリオネル殿下はとても優しくて親切な人だと思っています」
「そう思ってもらえたのなら光栄だよ、ローズマリー」
リオネルはいつも機嫌がよさそうに笑っている。
それに彼はローズマリーに食べたことがない美味しい食べ物をくれる。
(わたしもリオネル殿下の気持ちに応えなければなりませんね!)
ローズマリーも気合いを入れるように胸を叩く。
「なのでわたしも、がんばって食べられる草の味を説明します!」
「…………草?」
「わたしは花や草にここまで育ててもらいましたから」
孤児院の時も箱詰めされた時もローズマリーの命は植物に繋いでもらったと言っても過言ではない。
気合い十分なローズマリーを見て、リオネルは優しく微笑む。
「ローズマリーのことならなんでも教えてくれ。もちろん草のこともね」
「はい! 任せてくださいっ」
それから次の日もその次の日もリオネルはローズマリーを色々なところに連れて行ってくれた。
リオネルと話してさまざまな体験をすることで自然とカールナルド王国の文化や考え方に触れることができた。
貴族の令嬢のようなドレスやワンピースではなく、ローズマリーの希望通り動きやすい聖女服を用意してもらっていた。
何よりアイビーはローズマリーを母親のように慕い常にそばにいて離れないからだ。
もちろん聖女としてカールナルド王国の魔法樹、オパールを癒すことも忘れない。
オパールのために長時間、魔法を使っていくと目に見えて変化があった。
オパールは日に日に体が大きくなっていく。
彼女の成長速度を見ていると、恐らく箱詰めされて移動していた時も、ローズマリーが力を使うたびにアイビーは大きく成長していたのだろう。
けれど一週間以上経った今でも目を覚ますことなく眠り続けている。
そのことが気がかりだった。
(オパールちゃんは、いつ目が覚めるのでしょうか)
すくすく大きくなっているのに、まだベッドで眠ったままだ。
髪もかなり伸びてきたので、夢の中で見たオパールの姿と同じように邪魔にならないように三つ編みをしていた。
アイビーもそんな姿をいつも嬉しそうにして見ている。
「オパールちゃん、早く一緒に遊びましょうね。アイビーくんとここで待ってますから」
ローズマリーはアイビーにも魔法を使おうとするが、今はオパールのためだけに魔法を使ってほしいと言われてしまう。
今は元気だから大丈夫だと言っているが、アイビーのことが心配になってしまう。
毎夜、彼は夢の中で大人顔負けの話術でペラペラと色々なことを話してくれる。
今では片言の言葉でオパールのことを教えてくれた頃が懐かしい。
『もうすぐオパールが目覚めるよ! ローズマリーのおかげだ。それからボクはしばらく魔法は大丈夫』
「ですが……」
『もう十分、ローズマリーから元気をもらったからね! それにオパールのために力を使って欲しいんだ』
「…………」
『大きくなりすぎたらオパールに怒られちゃうから』
「わかりました」
もしかしたらローズマリーの負担を減らすためかもしれない。
ローズマリーは夢の中の花畑で元気そうに走り回るアイビーを眺めていた。
目が合うとローズマリーの元に飛び込んでくるようにして抱きついてくる。
アイビーを抱きしめながら頭を撫でていると彼を守ってあげたいと強く思う。
小さな体を抱きしめていると湧き上がってくる愛おしいという気持ち。
(これは本で読みました。母性本能です……!)
三歳くらいの見た目で彼の動きを見ていると可愛らしくて胸がきゅんとする。




