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②④


ローズマリーがカールナルド王国のリオネルに救われてから一週間が経とうとしていた。

カールナルド王国での生活は一言で言えば天国だった。

幸せすぎる食生活にローズマリーは感謝する日々。

特に美味しい料理を作ってくれるシェフたちと、それを手配してくれるリオネルとカールナルド国王にだ。


カールナルド王国で暴言を吐いた時はどうなるかと思っていたが、魔法樹を癒す代わりにローズマリーは夢のような生活を手に入れたのだ。


ローズマリーは毎食、リオネルと食事をすることが当たり前になっていた。

というよりは眠る時と彼が公務に行っている時以外はほとんどの時間を共にしている。

別にそれが嫌というわけではなく、彼といるのは心地いいとすら思う。

それはリオネルがローズマリーの気持ちを一番に考えて、気遣ってくれているからだろう。

クリストフは『俺は忙しい中、お前に会いにきているんだ。喜ぶがいい』と常に言っていた。

その言葉を思い出してローズマリーはリオネルに問いかける。



「リオネル殿下は暇なのですか?」


「暇ではないかな。けれどローズマリーのためなら、どんなに忙しくても会いたいかな」


「…………なるほど」



困ったように笑うリオネル。

どうやら同じ王太子でも考え方はまったく違うようだ。



「クリストフ殿下は『俺は忙しいんだ。だからお前に会いにくるのをありがたいと思え』と言っていたので」


「ローズマリー、もう彼の言葉やバルガルド王国で言われたことはすべて忘れていいんだよ」


「忘れていいのですか?」


「ああ、彼らはローズマリーにとってよくないことばかり言っていただろう?」



ローズマリーは顎に手を当てて考えていた。



「そういうばそうでした!」



バルガルド王国でいい思い出などほとんどないではないか。

リオネルの言う通り、さっさと忘れてしまう方がいいだろうと気持ちを切り替える。


ローズマリーが頷きつつ納得していると、リオネルは買い物に行こうと誘ってくれた。

オパールをはじめて治療した日、城の中や中庭の美しい花々を見せてくれた。

鮮やかな花たちはローズマリーの目を楽しませてくれたのだが……。



「この花の蜜はとても甘くて美味しいです」


「……!?」


「こちらの花の蜜は量が多いですが少し苦いです。おすすめしませんが……どうしても喉が渇いた時になら飲んでもいいかもしれません」



ローズマリーが花を愛でるかと思いきや、蜜の味の説明を始めたことにリオネルはただただ驚いている。

ここまで来る旅路の中でお世話になった花たちの姿もある。

彼らのおかげでローズマリーは生きながらえることができた。

そう思うと考え深いものがあった。



「え……?」



ローズマリーの隣で、なぜかリオネルは唖然として動きを止めた。

そういえばクリストフやミシュリーヌにも『普通の感性じゃない』『淑女らしくない』と言われていた。

教会の人たちからも『食べ物のことばかり考えるのはやめなさい』と怒られていたことを思い出す。

主に会話が食べ物のことになってしまうため、散々バカにされた。

これ以上は話さない方がいいと自分の気持ちを押し込めるようになり、いつのまにか何も言わなくなったのだ。


(つい幸せな気分になって口が滑ってしまいました。気をつけなければいけません)


ローズマリーは自分の言葉が間違っていたのだろうと悟る。

その証拠に少し離れた場所で侍女たちや護衛の呆然とした表情を見ているではないか。

それから普通の女の子ならどういうのかを考えていた。



「とても素敵なお花ですね。綺麗です」



ローズマリーがそう言うと、リオネルはこちらをまっすぐ見て口を開く。



「ローズマリー、無理をしなくていい」


「……どういう意味でしょうか?」



ローズマリーはリオネルの言葉に首を傾げた。



「君は君らしくしていいんだ。そのままでいい」


「……!」


「ローズマリーの考え方が素敵だと僕は思う。これからも君が本当に思ったことを僕に言って欲しい」



リオネルはローズマリーの手を取り、笑顔でそう言った。

彼の言葉が手のひらから伝わる熱と共にじんわりと心に沁みていく。

孤児院の頃から変わり者だと言われて、大聖堂でも拒絶され続けていたローズマリーにとっては驚きだった。


(……そんなことを言われたのは初めてです。リオネル殿下はとても心が広い方です。お優しいのですね)


〝そのままでいい〟

そう言ってくれたことが何よりも嬉しかった。



「リオネル殿下、ありがとうございます。わたしは……とても嬉しいです」


「……!」



ローズマリーは無意識に笑みを浮かべていた。

リオネルのそばにいると心がふわりと軽くなる。

次第にリオネルの頬はほんのりと色づいていく。だけどその理由がわからない。

首を傾げたローズマリーの表情は戻る。


(熱があるわけではなさそうですが……リオネル殿下はどうしたのでしょうか)


リオネルはローズマリーの視線に気がついたのか、そっと顔を逸らしてしまう。

手を握ったままローズマリーはしばらく考えていた。

そしてある考えに行き着く。

ローズマリーは辺りを見回して、リオネルの手を引いて歩き出す。



「ローズマリー、一体どこに……?」


「リオネル殿下、ここを見てください」



ローズマリーの指差す場所、そこは花が生えてはおらず雑草が生い茂っている。


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