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②③ リオネルside


リオネルはアイビーを抱きしめながら眠るローズマリーの髪を撫でていた。

ライムグリーンの髪はまるで魔法樹の葉のように美しい。

彼女の寝顔を見ていると、どうしようもない愛おしさが込み上げてくる。


(まだ出会って間もないというのに……彼女を放っておけない。こんな気持ちになったのは初めてだ)


それはローズマリーが聖女で国に有益だからという理由ではない。

リオネルはローズマリー自身に惹かれているのだ。

一目惚れに近いのかもしれない。

まさか自分がそんな状態になるとは思ってもみなかったが。


ローズマリーは城下町で仕入れをする荷馬車の箱に紛れていた。

リオネルは魔法樹の影響で困っている人はいないか、町の様子を見て回っていた。

リオネルの力は重いものを持ったり動かしたりすることができる。

重力を無視して自由自在に操れるが、強力な力のため頻繁には使わないようにはしている。

災害や大きな事件の時には十分、役に立つ。


リオネルが町で一番大きな通りを歩いていると、とある店の前に人集りができていた。

真ん中にはリオネルがギリギリ抱えられるかどうかくらいの大きな箱があった。

箱の隙間からは花や蔦が絡まっていたが、箱が開かずに何が入っているかわからないのだそう。

商人は不気味がっていたが、リオネルはその箱に魔法がかかっていることはすぐに理解できた。


(何か不思議な気配を感じる……なぜだろうか)


リオネルはその箱に興味を引かれて持ち帰ることにした。

父に見せるとリオネルと同じように『不思議な感覚だ』と言った。

悪いものでも危険でもない。花や蔦が絡まっていたことも気になる点だ。

魔法によって閉じ込められているものを確かめなければと、リオネルは自身の魔法を使い、片方を押さえながら無理やり蓋を開いた。

相手よりも力が強ければ打ち破ることができる。

国をまとめる王族という立場だからこそ、誰よりも強くなければと思っていたが、どうやらその力が役に立ったようだ。


『──このクソ野郎どもっ! ぶっ潰してやるからな』


箱から飛び出したのは少女だった。

聞くに耐えない暴言を吐き驚きはしたがローズマリーが聖女だと気づいて驚愕した。

彼女はバルガルド王国の王太子クリストフに国外追放を宣言され箱詰めにされたのだという。


それから彼女が聖女とわかるきっかけになった魔法樹についてもだ。

まさかバルガルド王国にも人の子どもの形を模した魔法樹がいるとは思わずに驚きの連続だった。

カールナルド王国の魔法樹は赤子のままだったが、聖女の影響なのか幼児ほどに成長している。

ローズマリーはフラフラしつつも魔法樹に力を与えていた。

薄緑色の光が幼児を包み込んでいる。


もっとも魔法樹を助けるために適していると言われる力がある。

それが緑の力と呼ばれる植物に影響を与える魔法。

それ故に〝緑の聖女〟と呼ばれることもある。


そして十年前、カールナルド王国の魔法樹に寄り添っていた聖女も緑の聖女だった。

光の聖女でも魔法樹は癒せるが、緑の聖女は魔法樹の声を聞くという伝承も残されていた。


それがローズマリーが聖女だという何よりの証拠となった。


彼女はひどく混乱しているようで、ここがカールナルド王国だということすらわからないようだ。

それから地鳴りのような音が聞こえた。

それはローズマリーの空腹を知らせる腹の音だった。


倒れそうになるローズマリーを支えると、リオネルの顔を食べ物と間違えたようで唇が頬に触れた。

そのままローズマリーは気を失った。


衝撃的な出会いだった。

リオネルは顔色の悪いローズマリーを見つめたまま動けずにいた。

それには父や周りにいた大臣たちも驚きから言葉を失っている。



「ま、まさか聖女が箱詰めされているなど……信じられません」


「ああ、バルガルド王国は何を考えている? 世界の宝である魔法樹と聖女にこのような扱いをするなど、正気の沙汰ではない」


「バルガルド王家はもっとも力の強い魔法樹が人型を模して生まれてくることを知らないのでしょう。幸いこの聖女が魔法樹を体を呈して守った……自らがこのようになるまで守り抜いたんです」



リオネルは改めてローズマリーを見た。

先ほど虚だったライトブラウンの瞳。

このように極限まで追い詰められながらも魔法樹を守り、魔法で元気にしようと魔法樹に力を与えていた。

それだけでもローズマリーの人柄が見て取れるではないか。


その瞬間、リオネルは全身に鳥肌がたった。

ローズマリーのことをもっと知りたい、強くそう思うようになる。


しかしバルガルド王国にはもう一人聖女がいた。

リオネルもバルガルド王国の聖女、ミシュリーヌに会ったことがある。

クリストフの婚約者のようにぴったりと彼にくっついていたからだ。


『リオネル殿下、ごきげんよう! ミシュリーヌ・ルレシティですわ』


バルガルド王国の貴族の令嬢らしい自信に満ち溢れた立ち振る舞い。

豪華なドレスと纏う宝石の数々が彼女の欲深さを映し出す。

試すように魔法樹への考え方を聞いたとしても知識も想いも浅く、本当に聖女なのかと疑問を持っていた。

それから彼女の媚びるような視線は、いまでもリオネルに絡みついていたことを思い出していた。


ローズマリーは目を覚ましても、自分が牢屋の中にいると思っていることも可愛らしいが、お腹が空いていると思い用意した食事。

彼女が本当に美味しそうに食べる姿を見ていた。

お肉を口いっぱいに含んで喜ぶローズマリーがとにかく愛おしくて幸せな思いをさせてあげたくなるのだ。


食事が終わりそんな彼女から話を聞いていくうちに、怒りで頭がおかしくなってはしまいそうだった。

まっすぐで純粋なローズマリーを利用して搾取していたのだろう。

こんなにも魔法樹のために尽くしていたローズマリーを蔑ろにしたのだ。


(バルガルド王国の奴らは欲の化身だ……バルガルド王国にあった魔法樹とローズマリーが可哀想でならない)


父に同席してもらい、ローズマリーは聖女になった経緯や国外追放されたことを淡々と語っていた。


ローズマリーが暮らしていた状況を知り、つらい中でも強かに生きてきた彼女のことを尊敬していた。

こんな短期間にこんな気持ちになるなんて自分でもおかしいと思ってしまう。

けれど彼女を放ってはおけないし、純真無垢なローズマリーを守りたいと強く思う。


(ローズマリーは僕が絶対に守り抜く。彼女を幸せにしたい……今までの分も)


それからローズマリーは緑の聖女だと裏付けるように魔法樹たちの名前を知り、夢の中で話をしたそうだ。

そんな話は今まで聞いたことがなかった。伝承にあるだけで前例はない。

カールナルド王国の亡くなった聖女ですら、魔法樹の名前を知ることはなかったというのに。


(ローズマリーは間違いなく特別な存在だ。だからこそ魔法樹にも愛されている)


バルガルド王国で枯れてしまった魔法樹はクロム、今連れているのがアイビー。

そしてカールナルド王国の魔法樹はオパールという名前なのだそう。


ローズマリーはアイビーがいなくなったことで取り乱していたが、彼はオパールに寄り添っていた。

魔法樹同士、感じるものがあるのだろう。


ローズマリーは当たり前のようにオパールを救うために力を尽くしてくれた。

何をしても目を覚ますことのなかった魔法樹が、みるみるうちに元気を取り戻していくのがわかった。


長年、魔法樹のために尽くしていた研究員たちも涙を流して喜んでいた。

それと同時にどれだけ聖女という存在が特別で尊い存在なのか再確認できる出来事になる。

改めて彼女は魔法樹に深く愛されているのだと思った。


お腹が空いたという彼女に食事を用意してもらうように指示を出す。

休憩をした後、またオパールの元に行くというローズマリーを引き止める。

まだ病み上がりの彼女には無理をしてほしくなかったからだ。

けれどローズマリーはバルガルド王国では、ずっと働き続けていたようだ。


彼女が無知なのをいいことに酷い扱いをしていた。

幸いなのは彼女は食にしか興味がないのか何も気づいていないことだ。

いや、気づいてはいたのだろうか。

たくさん傷ついてきたことを思うと胸が痛い。


ローズマリーを喜ばせたくて用意したチョコレート。

本当に幸せそうに食べるローズマリーに次々と彼女の口に運ぶ。

味の説明をするとパッと目を輝かせて頬を押さえるのだ。

リオネルは初めての気持ちに翻弄されるのと同時に、ローズマリーの瞳に映りたい、特別な存在になりたいと望んでしまう。

だけど、彼女はリオネルをただの親切な人として認識しているようだ。


(僕も彼女を心から笑顔にできる特別な存在になれたらいいのに……)


恐らく本物の聖女であるローズマリーが出て行ったその後。

バルガルド王国で起こることは安易に想像することができた。


(彼女を下劣な奴らに渡すものか……ローズマリーは必ず守り抜いてみせる)



* * *



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