②②
「むぅ!? んーーーっ!」
「ははっ、美味しいんだね。シェフたちも嬉しそうだよ」
何度も何度も首を縦に振るローズマリー。
リオネルは楽しそうにチョコレートをローズマリーの口に運ぶ。
まるで親鳥が雛に餌付けをするようにも見えるが、ローズマリーはチョコレートの幸せな味に酔いしれていた。
リオネルはどんなチョコレートなのか一つずつ丁寧に教えてくれた。
ホワイトチョコレートにミルクチョコレート、キャラメルにアーモンドが入ったもの。
六粒くらい食べていくた甘ったるい味に飽きてしまい、もういいと首を横に振った。
その時のリオネルの表情は、なぜかとても残念そうだ。
「もう口の中が幸せでいっぱいです……!」
「まだまだデザートはあるけれどもういいのかい?」
「はい、もう十分です。明日の楽しみにしてもいいでしょうか?」
甘いものを食べ慣れないせいかお腹が警鐘を鳴らしている。
もっとチョコレートを食べてみたいのだが、体が受けつけない不思議な感覚だ。
「もちろんだよ。また僕が色々と説明してあげるよ」
「いいのですか? とても嬉しいです」
「ローズマリーのためならどんなことでもするよ」
「リオネル殿下は親切なのですね。ありがとうございます」
ローズマリーはリオネルの親切な人柄に感心していた。
こんなに美味しい食事を用意してくれるだけでも嬉しいのに、デザートの説明までもしてくれるのだという。
「親切……ローズマリーはそう思うんだね」
「え……?」
「ううん、なんでもないよ。それよりも少し休んだらどうかな」
甘いものを食べたからか、たくさん魔法を使ったからかはわからない。
彼にそう言われた途端、疲労感に体が重たくなる。
リオネルのありがたい提案にローズマリーは素直に頷いた。
「そうさせていただきます」
「起きたら城を案内するよ。この時期は中庭に咲く花が綺麗なんだ」
「わたしが外に出てもいいのですか?」
「……え?」
「それにまた起きたら魔法樹に……オパールちゃんに魔法を使わなくてもいいのでしょうか? あとカールナルド王国ではいつ勉強すればいいのでしょうか」
「ちょっと待ってくれ、ローズマリー。どういうことだい?」
ローズマリーは自分が魔法樹の元を離れて、外に出ることができるというだけで驚きだということを話していく。
リオネルの眉間にはどんどんと皺が寄っていくではないか。
「いつも魔法樹がある大聖堂にいました。特別な時以外、そこから出ることは許されません」
「……!」
「王妃教育は……もうやらなくてもいいと思うのですが、魔法樹を癒している時以外は勉強しなくてはいけないと言われました」
ローズマリーは少し休んでまた魔法樹のために動いて、それ以外の時間は朝から晩まで勉強、もしくは講師たちの厳しい授業があった。
貴族ではないローズマリーは人一倍、努力しなければならないのだそう。
クリストフの婚約者になってからは王妃教育も追加されたので、やることは更に増えた。
パンが一つ増えたので乗り切ることができたが、パンがなければ我慢できなかっただろう。
これからもその生活を当たり前だと思っていた。
ローズマリーはまた休んだらオパールの元に行くつもりだった。
カールナルド王国でもやることは変わらないのかと疑問に思い、問いかけたつもりだ。
もうクリストフの婚約者ではないため王妃教育は必要ない。
それだけでもローズマリーの負担は軽くなる。
それも国外追放されたおかげだ。
でなければアイビーを守ることもできなかっただろう。
「なんだか肩の荷が降りたような気がします。わたしは元平民で孤児院出身だからとよく思われていませんでしたから」
「それだけの理由でこんな不当な扱いを?」
「はい。よくないことだそうです」
「だからローズマリーは……っ」
ローズマリーよりも悔しそうなリオネルを不思議に思って首を傾げた。
カールナルド王国とバルガルド王国は魔法樹への考え方が違うため、もしかしたら貴族や平民とのことも違うのかもしれないと思った。
(また今度、聞いてみましょう。それよりも外に出ることができるのは嬉しいです!)
十年間、大聖堂にばかりいたローズマリーは城を自由に見て回れるのならありがたい。
気まずい空気を変えようとローズマリーは話題を変えるために唇を開く。
「外に行けるのは、とてもわくわくします。リオネル殿下に案内してもらうのを楽しみにしていますね」
「……ローズマリー」
「中庭には、どんな花が咲いているのでしょうか」
リオネルの表情が元に戻ったのを確認して、ローズマリーは安心してベッドにもぐり込む。
それからアイビーを抱きしめると、アイビーも薄目を開けるとローズマリーに擦り寄ってくる。
リオネルがローズマリーの髪を優しくすいてくれた。
彼に視線を向けるとリオネルは微笑んでいる。
「おやすみ、いい夢を……」
「ありがとうございます。おやすみなさい……リオネル殿下」
まぶたを閉じるとすぐに眠気が襲う。
ローズマリーはアイビーを抱きしめながら眠りについた。