②⓪
リオネルは満面の笑みを浮かべている。
嬉しそうなリオネルを見ていると、なぜか心がキュッと締め付けられるような気がした。
(胸が痛い……? いや、この違和感はお腹ですね)
腹部に感じるのはギュッと締め付けるようなあの感覚。
ローズマリーの間違いでなければこれは……。
「あの……リオネル殿下」
ローズマリーがリオネルの名前を呼んだ時だった。
再びギュルギュルと鳴り出す震えるお腹。
つい先ほど食事したような気がしたのに、もうお腹が空いてしまったようだ。
「……なんだかお腹がすきました」
「ははっ、そのようだね。では食事にしようか」
「いいんですかっ!?」
「もちろんだよ」
リオネルはすぐにローズマリーが先ほどいた部屋に食事を用意するように指示を出す。
思わずお腹が空いたと言ってしまったが、すぐにご飯を用意してくれることも感激だった。
(ま、またあの美味しいご飯を食べれるのでしょうか……!)
なんとローズマリーが魔法を使い始めてから四時間ほどは経過しているそうだ。
ローズマリーは一瞬で時間が経過したように感じたが、そんなに長時間経っているようには思えなかった。
「我が国の魔法樹、オパール様に元気が戻ったのがわかるよ。このままローズマリーがいてくれたらきっと……すぐに元気になるはずだ」
周囲の人たちも口々にローズマリーに感謝を述べて深々と頭を下げているではないか。
今にも泣きそうな安心した表情を見ていると、こんな自分でも役に立てたのだと思える。
アイビーもローズマリーに抱きついて安心しているようだ。
(こんな気持ち……初めててです)
平民出身だということで、バルガルド王国ではずっと否定され続けていたローズマリー。
ずっと蔑ろにされていたローズマリーとっては自分の存在を認められたような気がして誇らしい気分だ。
歩き出そうとすると、なかなか足に力が入らない。
(足がプルプルします……! 痺れて動けません)
こんなに長時間、同じ態勢で魔法を使ったのは初めてだったからだろう。
箱詰めされた時よりは疲労感はずっとマシだが、初めて感じる気怠さに戸惑っていた。
足が痺れてしまい、一歩を踏み出せずにやきもきしていると……。
「ローズマリー、失礼するよ」
「……え?」
ふわりと体が浮く感覚。
リオネルがローズマリーを抱え上げたのだとすぐに理解できる。
もちろん男性に抱えられたことなど、今まで一度もないローズマリーは戸惑ってしまう。
「きゃっ……!」
バランスが取れずにローズマリーはリオネルの首に腕を回して思いきり抱きついた。
「あっ、危ないです! 重いです、大変ですっ」
「しっかりと支えているから安心して体を預けてくれ。それにとても軽いから心配しなくて大丈夫だよ」
「あっ……はい」
リオネルが当たり前のように言うものだから、この行為はよくあるの ものなのかもしれないと思い直す。
そんなローズマリーの表情を見てか、見透かすようにリオネルは言った。
「ローズマリーはとても純粋なんだね。魔法樹に好かれる理由も理解できるよ」
「……?」
「心配になるくらいだ、だから僕が君を守るよ……もう誰にも君を利用させたりはしない」
「守る? わたしをですか?」
「ああ、君が笑顔になれるように」
サラリとホワイトシルバーの髪が流れた。
オレンジ色の瞳が優しくローズマリーを映し出している。
ローズマリーはリオネルに抱えながらオパールが寝ている部屋に出る。
部屋にいた人たちは全員廊下に出て、深々とローズマリーとリオネルに深々と頭を下げている。
「みなさま、どうしたのですか? 頭を上げてください」
「みんな、ローズマリーに感謝しているんだ」
「……!」
リオネルの言葉に胸がぽかぽかと温かくなったような気がした。
今度は一緒にアイビーもローズマリーについてくる。
「アイビーくん、オパールちゃんのそばにいなくて大丈夫なのですか?」
ローズマリーがそう問いかけると、アイビーは頷いてから笑顔を浮かべた。
その表情はもう安心していいのだと言いたげだ。
ローズマリーを抱えるリオネルの隣を、とことこと歩く姿はなんとも可愛らしい。
アイスグリーンの髪が揺れていて、ローズマリーと目が合った瞬間、ふわりと彼が浮いてお腹の上へと移動する。
不思議と重みはまったく感じない。
ローズマリーの腹部から胸部辺に寄り添うように乗っている。
ピトリとくっついているアイビーはオパールのことで安心したのか、再びスヤスヤと眠り始めてしまう。
その様子を見て、リオネルと視線を合わせた後に笑い合った。
アイビーのアイスグリーンの髪を撫でているとローズマリーも安心してくる。
部屋まで辿り着くとリオネルは優しくローズマリーをベッドに下ろした。
アイビーはローズマリーにくっついたままスヤスヤと眠っている。
こうしてみるとまるで子どものようだ。
(アイビーくんをちゃんと育ててみせますからね)
暫くすると次々と運ばれてくる食事にローズマリーは目を輝かせた。
「な、なんと……! 今回も前回と同じくらい素晴らしい食事です」
ローズマリーは大興奮だった。
肉塊は茶色のソースがかかっていて美味しそうだ。
油と共にローズマリーのよだれも溢れ出てしいそうになる。
「ローズマリー、僕も一緒に食べてもいいかな?」
「はい、もちろんです」
勢いで答えてしまったが、誰かと食事をするなんて今までなかったため、どうすればいいかわからない。
ローズマリーの食事はいつもトレイに載せられて運ばれてくる。
いつも冷めていておいしくはない。
けれど食事の時間が何よりも楽しみにしていた。