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①⑨


「僕も実際に子どもの魔法樹を見るのは二度目なんだ」


「……二度目?」


「魔法樹が枯れる前に君がオパールと呼ぶ魔法樹が生まれた。だけど彼女の成長は十年経っても赤ん坊のまま……もしかしたらこのまま枯れてしまうのかと困り果てていたんだ」


「なるほど……」



つまりバルガルド王国でも千年ほど生きる魔法樹を授かったが、正体がまったくわからない貴族や教会、クリストフとミシュリーヌローズマリーを国外に追放してしまったということなのだろう。

とはいっても、千年持つ魔法樹であっても、魔法の使い方が悪いバルガルド王国では百年ほどしか持たなかったに違いない。

その前にアイビーと魔法樹を大切にしてくれるカールナルド王国に来られたことは幸運だと思うべきなのだろう。


(クロムさんとの約束は守れそうです。安心いたしました)


ローズマリーが安心していると、誰かに呼ばれている気配を感じる。

アイビーがローズマリーの力を必要としているのだと思った。



「アイビーくんがわたしを呼んでいます。今からアイビーくんのところにいかないといけません!」


「そうか。すぐに向かおう。父上、よろしいでしょうか?」


「もちろんだ!」



リオネルが読んだ魔法樹研究員たちが来るのを待つことなく、ローズマリーは彼に自由に歩き回る許可をもらう。

ローズマリーはワンピースの動きにくさに苦戦しつつ、アイビーの気配を辿っていく。


すると騎士たちが厳重な警備をしている大きく豪華な扉の前に辿り着く。


どうやらここにカールナルド王国で十年前に生まれた魔法樹、オパールが眠っているらしい。

どうやらアイビーはいつの間にか部屋を抜け出して、早々にオパールの様子を見にきたようだ。


ローズマリーを警戒する騎士たちの前に、リオネルが前に出て理由を簡単に説明する。

騎士たちはローズマリーが聖女だとわかった瞬間にすぐさまに跪いた。

あまりの勢いにこちらが驚いてしまう。

それほどこの国の人たちにとって聖女というのが重要なのかわかる出来事だった。


中に通してもらうと、部屋には植物がぎっしりと敷き詰められていて、花などもたくさん飾ってある。


(わぁ……! 自然がいっぱいです)


植物特有の緑の香りが鼻を掠める。

ローズマリーが一歩踏み出すと、風もないのに植物が揺れていた。


焦茶色の木で編み込まれたカゴの中、赤ん坊が静かに眠っている。

そのカゴを覗き込むようにして、アイビーは心配そうにしている。

アイビーはどんどんと成長しているようで、今は三歳児くらいだろうか。

まだ出会って一週間ほどしか経っていないのに、その成長速度には驚かされてしまう。



「アイビーくん、見つけましたよ」



アイビーは顔を上げると、ローズマリーに気がついたのかこちらに駆け寄ってくる。

それからローズマリーの手を引いてオパールの方に早く来てと訴えかけているようだ。



「アイビーくん、夢の中のように喋ってはくれないのですか?」



アイビーは口を押さえると首を横に振った。

それから両手を合わせて片頬に寄せると目を瞑る。



「なるほど。夢の中でないと話せないのですね」


当たり前のようにアイビーと意思疎通を図るローズマリー。

周囲に驚かれているとも知らずに、クロムもそうだったと納得していた。

どうやら夢の中にいなければアイビーとは話ができないようだ。


夢の中で見たオパールは腰まで伸びた髪を三つ編みしていた可愛らしい少女の姿だった。

なのに実際、目の前にいるのは赤ん坊だ。

髪はアイビーより色が薄くて明らかに肌は青白い。

今にも消えてしまいそうで元気がないことだけはよくわかる。


(夢で見たオパールちゃんとは違います。アイビーは今は三歳児くらいのようですが……)


今にも消えてしまいそうなオパール。

リオネルの話によるとこの姿のまま十年経っているという。

原因はよくわからないが、オパールが元気をなくし枯れかけていることだけは確かだ。



「もう大丈夫です。今すぐに助けてあげますから……」



豪華なご飯を食べたことで、ローズマリーはとても元気で腹の底から力が湧いてくる。

オパールに向かって手を伸ばして、アイビーにいつもやっているように力をこめていく。

するとどんどんと力を吸収されている感覚があった。

それほどオパールは弱っていたのかもしれない。


どのくらいそうしていたのかはわからない。

目を開くとオパールがアイビーと同じくらいの髪色に戻っていて、少しだけ成長していることに気づく。

アイビーが嬉しそうにローズマリーの額や頬にキスをする。


その行動からオパールは元気を取り戻してうまくいったのだと悟る。

オパールを見ると青白かった肌の色に血色が戻っているではないか。

心なしか腕や足もふっくらしているように見えるのは気のせいだろうか。

安心したのと同時にローズマリーの体から力が抜けていく。


(つ、疲れました……! もう立てそうもありません)


カクリと膝から崩れ落ちたローズマリーを支える逞しい腕。

ぼやけた視界で見上げるとリオネルがローズマリーを受け止めてくれたようだ。



「ローズマリー、大丈夫かい!?」


「はい……なんとか。ですが、また明日も続けなければならなそうです」



辺りを見回すと部屋には知らない人たちが、涙を流しながらこちらを見ている。

どうやらリオネルが魔法樹研究員と言っていた人たちのようで、彼らはローズマリーがオパールに魔法を使う様子を見守っていたようだ。

それからオパールがどんどんと元気を取り戻す姿に感激していたそうだ。



「ありがとう……ローズマリー、本当に感謝している」



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