登場人物紹介・東ヒノモト、中ヒノモトの人々編(十三話以降)
光家
光旭
光家の嫡子(この世界では男系・女系の概念が無い為、女性が婿を貰って家督を継ぐ事も珍しくない)。
桃色の長い髪に空色の瞳の女。普段着には白い狩衣、戦の時は白銀の鎧を身に纏う。
女衒に囚われ、一度男に抱かれると寝食もまともに出来ないほど色事の虜となり衰弱死する呪い『色病みの呪い』を代々受け継がされていた悲惨な運命から解き放たれるべく、不老不死である転生者のキタノトキタロウを頼って挙兵を開始した。
一度は失敗し処刑されかけたが、その際にトキタロウの弟分トキヤが周囲の見捨てる判断に断固反対して捨て身で救出しに来た事で、以後は彼だけを信じて側に置き、東ヒノモトで『神坐』と名乗る国を建ててトキヤを婿として迎え、女王の座へと就くに至る。
生来の人間不信から上述の経緯があったトキヤ以外の誰も信用せずにいたが、彼を後述の菱川真仲に奪われそうになった事で、他者はおろか自身の武士としての才能や実力すらも信じられなくなり自害を図るも、その痛ましい姿に耐えかねたトキヤに無理矢理抱かれ、あろう事か色病みの呪いを発動させられてしまう。
呪いでまともに政務を執れなくなってからは辛うじて理性が残っている内にトキヤを執権に任じると、一時は呪いに侵されるがままトキヤを求め続ける自身を『執権様の遊女』と蔑む程に全てを投げ出してしまったが、後述の光円の説得により『真の武士の姿』は一つではない事を悟り、全てのまつろわぬ武士を調伏し、真なる敵であるカゲツを打ち倒し、亜人の支配から世を救う事こそ己の本懐と改めて定め、その覚悟と意志で呪いを押し退けて再起した。
そして『狡猾で粗暴』とも自嘲した己なりの『真の武士の姿』を示して菱川真仲に打ち勝つべく、執権にして夫のトキヤに『男は殺して女は犯せ』と神坐の暗部のすべてを引き受ける事を命じると、彼女への復讐を決行。
トキヤに真仲を辱めさせ色病みの呪いを掛けると、彼女の本来の想い人であった側近の高巴からトキヤへと心変わりさせたうえで彼を殺す仕打ちを強いて、自身の側女……とは建前で、実質的にはトキヤの性奴隷の立場へ貶めてしまった。
光正義
光旭の弟。
姉と同じく桃色の髪をしているが、こちらは水色の水干を好んで着る。齢十五の割には背が高いもののまだまだ男としては育ちきっておらず、遠くから見ると男か女か判然としない身体つき。
都の寺や北ヒノモトの御藤家など様々な場所をたらい回しにされたせいか社会性や社交性に著しい問題を抱えており、第一印象は天真爛漫かつ素直で心優しい言動なのだが、話し始めるとずけずけと余計な事を言いまくって嫌われ、大抵の人々には逃げられてしまう。この為、神坐に来てそう月日も経たない内に疎ましく思った旭から濡れ衣による謀殺計画を企てられてしまった。
だがそれは裏を返せば如何なる相手の噓や隠し事も瞬時に見抜いてしまう異能として役立つ事もあり、初めて旭の許へと馳せ参じた時には周囲の転生者達との歪な関係を一瞬で察して問い質して回り、後述の菱川真仲が突然神坐軍に接触を図った際には真の目的にいち早く気付いて詰問した。
更には天才的な知略と常人離れした身のこなしをも誇る為、転生者ではないにも拘らず戦場では旭から七将軍と同等の信頼を置かれている。
光円
光旭の妹。尼僧の少女。
人間でありながら魔力を持っており、都の方々の寺で坊主を実験台に様々な魔術や呪術を研究しては追い出され転々とする生活をしていた。
その過程で表向きは失伝していたとされていた『色病みの呪い』を解き明かした結果、呪いを用いて出奔者を始末していた都の光家……いわゆる『光本家』に目を付けられ命を狙われてしまうも、前述の倫理観の無い所業を繰り返していたせいで誰も匿ってくれず都を追われ、神坐に身を寄せる事となる。
こちらも旭とは似ても似つかない素直で心優しい性格だが、少々男癖が悪く隙と言い訳あらば実の兄である正義が相手であってもわざわざ触れ合いに行ってしまっていた……。
のだが、旭から呪いを伝染されていたトキヤに手を出してしまった結果、自身も呪いに罹ってしまい、皮肉な事に呪いの効果でトキヤ一筋になった事で治ってしまった。
様々な魔術や呪術の研究を行っているが、特に色病みの呪いについては自身の一族の重大事である為か並々ならぬ興味を有しており、旭に掛けられていたものを改造して調略兵器化、後述の菱川真仲を従える為に使う等の成果を挙げるだけでなく、何やら呪いの範囲に留まらない旭の特殊能力にも気付き始めた様で……?
安田鈴蘭
光旭の従者。藍色の艶やかな長髪に黄色い瞳を輝かせた、竹を割った様な振舞いの女。
普段着は旭から与えられた灰色の狩衣だが、戦の折には特に拘りの無い鎧姿をしている。
かつて女衒に囚われていた頃に旭の身の回りの世話をしつつ挙兵の準備を密かに進めていたが、旭の期待している進みではなかったので捨て置かれてしまっていた。
旭が人間不信に陥った原因の一端でもある。
菱川家
人間も亜人も殆ど寄り付かない厳しい自然の横たわる空白地帯、中ヒノモトを所領としている地方豪族。
当主は光旭とあまり歳の変わらない若い娘である菱川真仲が務めているものの、転生者をかき集めて力で周辺豪族を従えて回った急拵えの組織である神坐とは異なり、菱川家の裏側では多数の間者が犇めき、更に間者達の中で最も強く聡明な歳若い者を参謀兼実質的許婚として迎える事で、付け入る隙の無い盤石の結束を築いていた。
ごく短期間で東ヒノモトを纏め上げた神坐国ひいては光旭を脅威と捉え、彼女を追い落とす為に接触を試み、狙い通り当主の真仲の謀略が功を奏し旭の心を挫く事に成功。
以降も西の都の女王とも通じて密かに神坐討伐の援軍を獲得し、更には真仲が将軍の地位を得るまでに至ったが、当の真仲が神坐の姦計で色病みの呪いを掛けられ乱心した事で計画は崩壊。菱川家は一気に求心力を失い、中ヒノモトは首無しの空白地帯となってしまった。
菱川真仲
異世界ヒノモトの神坐と西の都の間、『中ヒノモト』と呼ばれる一帯を支配する豪族『菱川氏』の当主。
空色をした短めの髪を襟辺りまで伸ばした、黄色く明るい瞳の背が高めの女。
薄緑色の直垂をよく着て、戦の際も一般的な大鎧を纏っている。
人当たりがよく見目麗しい外見をしており、その為人で集めた人々からの好意と支持を纏め上げて中ヒノモトの実質的支配者として君臨している一方、裏では幼い頃に魔力を持つ証である青い髪と黄色い目を気味悪がられて森に捨てられていたところを助け出してくれた間者の高巴と密かに恋愛関係にあった。
自身の強さと美貌、そして高巴の知略を用いて中ヒノモトで急速に影響力を強めていった彼女は、時を同じくして東ヒノモトを纏め上げた光旭を追い落とすべく文を送り、接触を図るが……。
その後、心を挫かれて色事に耽り続けていた旭をよそに西の都である京安の女王と通じて援軍を得ると、神坐を打倒するべく人類同士の戦を始める。だが戦の折の一瞬の隙を突かれて神坐へと拐された真仲は、同国の執権を務める光トキヤに辱められ、色病みの呪いを掛けられてしまう。
一時は呪いを振り切って高巴の許へと戻ったかに思われたが、光円によって呪いが改造されていた為か逃れきる事が出来ず乱心。高巴を斬り捨ててまでトキヤの許へと戻って神坐への服従と光旭との婚姻を誓ってしまい、これにより菱川家は崩壊の一途を辿る事となった。
トキヤに手籠めとされてからは灰色地に青色の麻の葉紋様の描かれた直垂に袖を通す様になり、戦の折にはその上から黒を基調として七将軍それぞれの色が散りばめられた、トキヤと同じ意匠の鎧を纏う様になった。
高巴
菱川真仲の側近を務める間者であり、参謀をも担っていた男。
浅黒い肌に銀の髪をして背が高く、深緑色の小具足を好んで着ていた。
幼き日に森に捨てられた彼女を見つけ出すと菱川家の当主として擁立し、その裏で暗躍して中ヒノモトを掌握させた。真仲の望むままに次は東ヒノモトを手中に収めんと謀を始めるが……。
真仲が神坐と戦をした際、彼女が神坐の用意した偽者とすり替えられていた事にいち早く気付くも、偽者が謀略に疎い事にも気付いた彼は好機とばかりに西の都の女王と再度接触、光旭と偽った菱川真仲を将軍に任じさせ、ヒノモト全ての武士の統帥権を得るに至る。
神坐打倒計略はあと一歩のところまで進んだが、取り返した本物の真仲は既に誰の手でもどうにもならないほど呪いに侵されきっていた為に、高巴を想い人であると認識出来なくなっていた。
トキヤの手に堕ちた彼女に斬りつけられても尚、彼は何が起こっているのか理解が追いつかず、そのまま斃れ、斬り殺され、計画も破綻してしまった。
義巴
菱川家の間者にして高巴の妹。
兄と同じく浅黒の肌に銀の髪をして深緑の小具足を着ていたが、こちらの背丈はそれほど高くない。
真仲を失った菱川家を立て直すべく、七将軍が一人ジョージ・ヤマモトのリゾートへと従業員として潜入し、神坐の面々への離反工作を図る。
元主の真仲や実兄の高巴への思いは好意ではなく、軽蔑であったと語る。
本人の性格自体は性根が捻くれている事は兎も角、陽気そのもの。




