表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界傭兵団の七将軍  作者: Celaeno Nanashi
閑話その一【草燃えぬ】
78/131

閑話その一【草燃えぬ】2

 目が痛くなる程の青い空の下。

 トキヤはイタミ傭兵団の屋敷に呼ばれたものの、そこには底意地の悪い言動をしてくるいつもの美形の男はいなかった。

 「あの、良子さん……タンジンは、どこに行ってるんですか?」

 虚空に向かって問い掛けるも、返事は帰ってこない。

 今日は良子もいないようだ。

 「何なんだよ、人を呼んでおいて、誰もいないなんて……」

 愚痴を漏らすトキヤの前に、

 「おやおや、何かお困りかな? ボクでよければ力になるよ、トキヤ」

 黒髪をショートウルフにした頭の左右に布を被せた包包頭の見える青い水干を着た女が、外廊下の方から姿を見せた。

 「……どなた、ですか?」

 トキヤは思わず立ち上がると、自分の名前を知る得体の知れない女から距離を取ろうと半歩退く。

 「そんなに怖がらなくても……ここにいてイタミ傭兵団の関係者じゃないって事は有り得ないと思うけど?」

 逃げるトキヤを面白がってか、女も半歩踏み込んできた。

 「……タンジンも良子さんもいないみたいなんですけど、御存じないですか?」

 「2人はリゾート開発の手伝いで中ヒノモトに行ってるね」

 「え……? でも俺、タンジンから手紙で此処に来るよう伝えられて……」

 「その手紙、本当にタンジンから届いたのかな?」

 問われたトキヤが更に退こうとした踵は、壁にぶつかった。

 「隙あり!」「えっ!?」

 壁に気を取られた一瞬を狙って、女は飛び掛かってきた。

 「ちょっと筆跡と文章のクセをマネしただけでこうもあっさり引っ掛かってくれるなんてね。タンジンが言ってた通りのバカ正直で素直でマヌケ……君がトキヤで間違いは無さそうだね」

 「いきなり名乗りもしねえで散々言ってくれるじゃねえか……あんた、何なんだよ!?」

 「シシュエ」

 「は?」

 「何と訊かれたから名前を答えたんだけど」


 イタミ十雪(シシュエ)

 イタミ傭兵団の倉庫係。普段は傭兵団の倉庫で働き詰めの為滅多に姿を見せないが、やけに神坐の内情や世間の様相に詳しく、タンジンとも頻繁に連絡を取り合っている。


 微妙に噛み合わない会話を仕掛けられて面食らっているトキヤを見て、シシュエは楽しそうにケラケラ笑う。

 「ええと、シシュエさんね。あんたは……」

 「シシュエって呼んで。ボクもタンジンと同じで呼び捨てがいい」

 「あ、そういう感じでいいのか?」「いいよ」

 「そうなんだ……ええと、じゃあ、シシュエ。あんたはタンジンの……何なんだ?」

 「何だと思う? 奥さんかな? 妹分かな? それとも……」

 「次期団長候補、とか……?」

 問われたシシュエの表情が、一瞬強張って見えた。

 「いやタンジンは女嫌いだからそりゃ無いか。良いとこ雑用とかだろ?」

 「正解。タダの倉庫係でーす」

 つまらなそうに溜め息をつきながらもシシュエは何処か緊張の解れた表情をしていた。

 「倉庫係か……キタノの蔵で米を数えてた頃が懐かしいな。でもイタミの規模で倉庫係だと、色々大変じゃないか?」

 「そうそう、最近は良子に全部丸投げされてるから超大変なんだよねー。だからなかなか神坐に遊びにも来れなくてさ。今日はお祭りの物資搬入があったからここにいるんだ」

 「祭り? そんな予定あるのか?」

 「あれあれ? トキヤ知らないんだ? 執権殿なのに?」

 「あ、後でタンジンに聞いとくよ……まあそれはそれとして、この国の執権としては、是非とも神坐を満喫して行って欲しいかな。っていうのと、こんな激しい悪戯は程々にしてくれ」

 「悪戯といえばさ、旭様が挙兵した直後ぐらいにオオニタとヤマモトのガキんちょ共が襲いに来て、危うく全部燃やされちゃいそうになったんだよね。酷いと思わない?」

 「あ……ああ! そんな事もあったよな! ったくアイツ等ホント容赦なしで困るよなー! あはははは! ははは……」

 心当たりのあるトキヤは、誤魔化し笑いでお茶を濁す事しか出来なかったが、

 「酷いと思ってるなら、あの時の仕返しをされても……当然文句なんて言わないよね? 元キタノ傭兵団の参謀、キタノトキヤ」

 シシュエは全て知っている様子だ。

 「成程な……それが目的で、俺を偽の手紙で呼びつけたって訳か」

 「何だよ、復讐されるっていうのに随分落ち着き払ってるんだね」

 「……流石にそれは、禊が必要だと思ってる。だからあんたの気の済むまで俺を好きにしてくれ。それで少しでも気が晴れるなら、俺は受け入れるから」

 悪い意味で話の早いシシュエを前に、これ以上往生際の悪い事を言っても仕方がない。

 そう悟って静かに目を瞑ったトキヤの口に、何か柔らかいものが当たった。

 「んえっ? な、何!?」

 「あははっ、こういう形の復讐は予想外だった?」

 唇を触れ合わされ、舌を捻じ込まれて……トキヤはシシュエの意図が全く掴めない。

 やがて満足したのかシシュエは口を離して、トキヤを見下しながら湿度の高い笑みを見せた。

 「……呪いの味がするな。素直に良子の言う事聞いて対策しといてよかった」

 「え……? な、何て?」

 「トキヤは気にしなくていいよ。唯ボクにされるがまま復讐を受け入れてくれればいい」

 「ちょっ!? なっ、何を……!?」

 「何って、復讐するんだよ。子供じゃあるまいし、アレで済むなんて思ってないでしょ? でも……うーん、ひょっとしてボクってあんまりタイプの女じゃない?」

 「初対面の女に襲われてもヤる気になる方がヤバくないか?」

 「それはそうだけどさあ……それじゃ困るんだよねえ……うーん、ジョンヒから聞いたこれで上手くいったらだいぶキモいけど、噂のあの手を試してみるか」

 脱がされた服を掴んでどうにか抵抗したいトキヤの両手を奪ったシシュエは、自身の下腹部を無理矢理撫でさせながらうっとりしたような表情をトキヤに向けて見せる。

 「ほら、よく触って? ここ……ボクのここを使って、今から復讐されるんだよ、トキヤ」

 「何、言って……まさか……!?」

 「こういう事はやけに察しが良いんだね。正直、キモいよ。でね? トキヤ……」

 気恥ずかしそうに、或いは冗談交じりにシシュエはトキヤの耳元に口を近付けて、

 「一国の宰相が場末の倉庫係と不倫して、婚外子作ったらどうなっちゃうかな?」

 普通の男であれば突き飛ばしてくるだろう問い掛けをトキヤに囁いてみた。

 ……トキヤは、明らかな拒絶ではない、若干の抵抗の意思とそれを跳ね除けてしまう程の期待が入り混じった顔を紅潮させて、唯々視線を返すだけだった。

 「ほおら、ここ……今、君がねっとり撫で回してるここでぇ……バッチリ不倫の証拠を作られちゃうんだよぉ……? 君の事ホントに好きな子だったら黙っててあげるのかもしれないけど、ボクは復讐の為に……君の事社会的にメチャクチャにする為にシてるから、絶対認知させちゃうよぉ……?」

 言葉は何も発さないが、トキヤの身体は正直だった。

 「んふふ……っ、こっちは正直になってくれたけど、ボクはトキヤの言葉で聞きたいなあ? ねえ教えて? ボクに産んで欲しい? トキヤと、ボクの、子供。このままデキちゃってさ、旭さんや真仲さんに軽蔑の眼差しを向けられながらボクを側女にさせられるんだ。今年の冬にはお腹も大きくなっちゃってるかな? そしたらまたこうやってお腹を触らせてあげる。『もう全然隠せなくなっちゃったね、パパ』って言いながらね。それで、次の年の春には……2人目も作っちゃおっか。ね? トキヤ……!」

 調子に乗って畳み掛けるシシュエを、

 「ダメ!」「あ痛゛ぁっ!?」

 飛び入り参加してきた3人目の鉄槌が止めた。

 「どけ! この泥棒猫!」

 いつもの調子でトキヤに近寄る悪い虫を怒鳴りつけて引き剥がし、2人の間で仁王立ちするジョンヒだったが、

 「やだ! ジョンヒやニャライばっかりずるい! ボクだって神坐の執権のコネが欲しいんだよ!」

 尻餅をついて尚、シシュエは何か追い詰められた様子で負けじと食い下がる。

 「あのね、ただでさえアンタの他にも権力目当てで安っすい女が毎日毎日トキヤに言い寄ろうとして来てんの。だからあたしが最近ずっと目ェ光らせてなくちゃいけなくて、ホントに大変なのに……なのに、アンタまでそういう連中と同じ事するんだ?」

 冷たい声色で改めて拒絶の意思を露わにするジョンヒ。

 「ボク達スタート地点は同じだったのに! お前らばっかりズルいんだよ! どうしてボクだけ、倉庫係なんかさせられて……ずっと暗い倉庫の中に閉じ込められて、独りぼっちで……!」

 対するシシュエはさめざめと泣き始めると、

 「お願い、トキヤ……復讐とかカッコつけた事言ってたけど、ホントはもう辛くてきつくて孤独な倉庫仕事に帰りたくなくて……だからトキヤと既成事実さえ作っちゃえば、君の愛人としてここに居させてもらえるって、そう思って……だから、お願い。ボクを助けると思って……? ね?」

 目の前に仁王立つジョンヒの長い脚の間から、トキヤに目を潤ませた顔を向けた。

 ……トキヤは正直な所、その態度にタンジンよりも悪質な胡散臭さしか感じられなかったが、

 「シシュエ、とりあえず落ち着いてくれ。で……ジョンヒ、教えて欲しい。この人は一体何者なんだ?」

 一先ず言い分だけでも聞く事にした。

 「あのねトキヤ、この子ちょっと訳アリでさ。えーっと……あたし等が転生してきた少し後ぐらい、ここ最近だと最後に転生してきたのがこの子なの。それで、アンタとは会う機会無かったけど向こうからしたらアンタ含めてあたし等を追いつけ追い越せのライバルみたいなモノだと思ってたみたい。前からちょくちょくタンジンに頼まれて面倒見てたんだけど、誰に似たのかいっつも根拠無いのに自信満々で……」

 「成程な。つまり……」

 何か納得した様子でジョンヒの話に頷いて、トキヤは彼女の股下をするりと抜けシシュエに寄ると、

 「え……っ何、トキヤ?」

 「うだつの上がらない倉庫係に甘んじるのはもう嫌だから、ここらで一番取り入りやすそうな権力者に媚びを売って一気に駆け上がりたい……そういう事だろ? だったら、取引だ」

 彼女の頬を撫でながら悪辣な笑みを見せた。

 「俺がタンジンに掛け合って、俺の秘書って事にしてここに居れるようにしてやる。その代わりに……秘書ってのは建前だ。お前には、俺の奴隷になってもらう。俺の為に全てを捧げる奴隷だ。でも真仲の手前もあるし、単に俺と関係を持つだけとはいかないからな。神坐の為に政務もやってもらうし、場合によっちゃ一緒に戦ってもらう。どうだ? 飛び級したいなら、それくらいの代償は払えるよな?」

 調子のいい事をすらすら言うトキヤに、ジョンヒは呆れた視線を向けたが、

 「違う!」

 「えっ」

 シシュエはトキヤの腕を跳ね除けると、

 「え?」

 そのまま再び彼を押し倒した。

 「ボクがトキヤの秘書にさせられるなんてヤダ! ボクはトキヤの側女がいいの! 誰がトキヤなんかの雑用なんてやるか! イタミ傭兵団の後継……違う、えーと、タンジンの信頼も厚い倉庫係のボクを値踏みするなんて、許さないからな!」

 「ハ?」

 『この目の前の女の根拠の無い自信はどこから湧いてきているんだ?』という疑問の表情を浮かべながら、トキヤはジョンヒの方に目を向けた。

 ジョンヒは……何とも言えない表情を唯々トキヤに見せるだけだった。

 「っていうか、アンタ正気? この子に関しては手ェ出したらお人好しどころか最悪イタミ傭兵団と戦り合う事になると思うけど、ホントにするの?」

 その問い掛けに、トキヤは……少し困った表情を浮かべた顔を俯けた。

 「でも、このままは流石に可哀想じゃないかって思うんだけど……」

 「シシュエのワガママに付き合ってあげた挙句タンジンに離反される方がゴミカス過ぎるとあたしは思うけど?」

 「だから、ボクに無理矢理襲われたって事にしてくれればいいんだよ」

 「タンジンは粗相した倉庫係に甘い判断なんて下さないんじゃない? 最悪、サカガミの元団長みたいになるかも」

 「どうしよう……シシュエを助ける方法は無いのか?」

 問い返されたジョンヒは、二人の間で仁王立ちしながら腕を組んで少し考えて……、

 「じゃあ、こうしよっか。トキヤの色病みの呪いが原因不明の暴走を起こして、シシュエだけが鎮められるみたいから、仕方なく暫くの間はトキヤと一緒にいてもらう事にする、みたいな?」

 「それは責任をあの呪い師の子に押し付けてるだけじゃないのかな……」

 「つべこべ言うならもっかい倉庫仕事に戻る?」

 「いやそれは……じゃあ、トキヤ」

 「ああ、分かった。……綺麗だよ、シシュエ」

 改めてトキヤに跨ったシシュエは、先ずは自身の左手と彼の右手の指を絡め合い……、

 「ねえ建前の話してるのにそこまでする必要ある?」

 「え……」

 しかし左手は後ろからジョンヒが無理矢理奪った。

 「流石に淡白過ぎるのは嫌なんだけど」

 至極真っ当なシシュエの言葉に、ジョンヒは明らかに機嫌を悪くしてトキヤの指を握る力を強め始めて……、

 「えっと……あっ、じゃあ、やっぱりシシュエの事はよく分からないから、ジョンヒがいて欲しいなー? ……ダメか?」

 トキヤが慌ててジョンヒの手を強く握り返す。

 いつものジョンヒなら逆ギレしそうな見え見えの取り繕いだったが、

 「お姉ちゃんでしょ?」

 「え゛っ?」

 シシュエが首を傾げる前で、トキヤは明らかに顔を青ざめていた。

 「そ、それやらないとダメ? シシュエがいるのに……」

 「前は一緒にいたニャライにドン引きされてもやってくれたのに今更そういう事言うんだ」

 何も知らないシシュエをよそに……というよりは、シシュエがいて尚トキヤが自身の求めに応じるかを確かめるように、ジョンヒはシシュエに見向きもせず問い掛ける。

 ……トキヤは、腹を括る他無かった。

 「う……お願い、します、お姉ちゃん……俺」

 「僕」

 「ッ……お願いします、お姉ちゃん。僕は1人だと何も出来ない、ダメな弟です、だから……ごめん、ホント許して」

 「許さない」

 「……お姉ちゃん、僕を……う……っ、助けて、ください」

 惨め極まる言葉を吐かされて恥ずかしさのあまり目に涙を溜めるトキヤ。

 ジョンヒはそんな彼を嘲るような笑顔で見下しながらも、吐息は熱く、身体を異様な快感で震わせて悦びながら、

 「60点。助けてって何? 具体性無さ過ぎるんだけど。ま、でも今回はシシュエ待たせるのも可哀想だし許したげる。ほら、シシュエ、トキヤは良いって言ってるから『貸す』ね?」

 シシュエにも自身と同じ高揚を感じる事を求めたが、

 「あー……ジョンヒって変なぐらい『大人の男』に興味無さそうにしてるなーって思ってたけど……こういう趣味だったんだ」

 対するシシュエはかなり引いていた。

 「違うちがう、この子がそうしたがるからで、あたしは仕方なーく付き合ってあげてんの。ね? 『弟くん』」

 しれっと否定する風な事を言うジョンヒ。

 抗議の視線と理解を求める表情を向けるトキヤ。

 「あー……うん。なんていうか、色々と性癖ヤバいね、トキヤ」

 「でしょ? こんなんでも一応一国の主の夫が務まってんだから、世の中って分かんないモンだよねー……初対面の子にいきなりドン引きされちゃったね。いつも言ってるでしょ? アンタのキッショい趣味に付き合ってあげられるのなんて、お姉ちゃんだけだよーって」

 「は、はい……お姉、ちゃん」

 「分かったら生意気言ってないでお姉ちゃんの言う事、ちゃんと聞きな?」

 「分かりました……お姉ちゃん」

 「これは倉庫で一人でいた方が気楽だったかもなー」

 苦笑いを浮かべるも後の祭り。

 今の状況は乗り掛かった舟。

 「ま、そんな事今更言っても仕方ないか……じゃあ、トキヤ。ボクもお姉ちゃんって呼んでくれるかな?」

 「ハ? アンタはお姉ちゃんじゃないでしょ?」

 「うっす。ごめんトキヤ、今の忘れて」

 ジョンヒの地雷を踏まないようにしつつ、シシュエは自身の目的の為に、

 「ん……っ、ね、ねえ、トキヤ……ボク、実は初めなんだよ。だから、そういう意味でも……責任、取ってよね?」

 神坐の執権に己が身を捧げた。

 「ほら、お姉ちゃんの友達よく見なさい。旭ちゃんなんか入れただけでアヘアヘになるけど、全然そんなんならないの分かる? 呪いに甘えてると、どんどん下手になっちゃうよ? 折角お願いすれば教えてくれるお姉ちゃんがいるんだから、ちゃんと頭下げて教え乞いな?」

 「ご、ごめんなさい、お姉ちゃん」

 「うん……良い子。じゃあ、今日はお姉ちゃんのお友達使って練習しよっか。それとも……目の前の女は置物扱いして、お姉ちゃんにでろでろに甘やかされたい? 好きな方選ばせてあげる」

 その問いは、一聴しただけだとまだマシだが酷い選択と頭から尻尾まで酷い選択の2択でしかなかったが……、

 「……甘えたいです。お姉ちゃんに、甘えたい……甘えさせて、下さい」

 「ふーん? ……アンタさ、自分で何言ってるか分かってんの? 今アンタの事曲がりなりにも受け入れて好きになってくれてる子のコト放っといて、アンタの事なんて格下扱いして見下してるお姉ちゃんに甘えたいって言ってんだよ? ホントに良いの? お姉ちゃんの友達傷付けて、お姉ちゃんの顔に泥塗ってもアンタはお姉ちゃん選ぶんだ?」

 「ご……ごめんなさい、シシュ……違う、お姉ちゃんのお友達さん。僕はお姉ちゃん以外の女の人は、嫌なんです。だから、お姉ちゃんと一緒じゃないと、出来、ない、です……ごめん、なさい」

 トキヤはどちらが正解かを熟知していた。

 「フ、フヒヒヒ……! じゅるっ、ヤバ、涎出ちゃった……折角彼女が出来そうだったのに、お姉ちゃんの方が良くて捨てちゃうんだ? ダッサ。キッショ。ま、でもこれで分かったでしょ? 異世界の女ども相手に幾ら呪い使ってオラついても元の世界の女相手の経験値にはならないし、だからアンタは今もお姉ちゃん以外の女相手だと怖くて何も出来なくなるの。自覚出来た?」

 「はい……僕はお姉ちゃんがいないとダメです。だから、ごめんなさい、お姉ちゃん、僕を甘やかして下さい……」

 只管謝り続けて情けなく自身を求めてくるトキヤの事を、ジョンヒは愉しそうにありとあらゆる罵詈雑言で罵るが、

 「あのー、もしもーし、ボクの事ボロクソに貶しながら2人だけの世界に閉じこもるの、やめてくださーい」

 置いてけぼりの3人目が苦言と謂う名の水を差した。

 「あ、ごめんつい楽しくなって……じゃなかった。こーらっ、お姉ちゃんの友達拗ねちゃったじゃん。お姉ちゃんの事が大好きなのは分かったから、今はちゃんとヤらなきゃいけない事シな?」

 「いや、ああいう話の流れにしたらそっちに行っちゃうでしょフツー」

 「文句ばっかり言うなら1人でしてたら? 後はお姉ちゃ……あたし等で楽しくやっとくから」

 「ノリノリだなあ……まあ、分かったよ。トキヤ、君が今抱いてるのはボクなんだから、しっかりしてよね?」

 「あ、はい」

 「うん……良い子。ねえシシュエ。アンタからもどうして欲しいか言ってやりな?」

 「そ、そっか……じゃあさ、トキヤ……」

 気を取り直して、シシュエはトキヤの頭を自身の胸元に抱き寄せる。

 「ボクをお嫁さんにして……ボクに君の子供を産ませて……ボクを、君のモノにして……ね?」

 その問い掛けに、トキヤはシシュエと握り合う手に力を込めて応えた。

 「ありがとう……トキヤ」

 受け入れられた事を素直に喜ぶシシュエの様子に、ジョンヒは微笑むも少し寂しさを滲ませる。

 「(まあ、少しぐらいは許したげないと、だよね……)じゃあ、お姉ちゃんも見ててあげるから、しっかりお姉ちゃんの友達の事愛してやりな?」

 「う……お、お姉ちゃん」

 「ん? どした?」

 だがその感情の機敏をトキヤは見逃せなかった。

 「お姉ちゃんと手、繋ぎながら、お姉ちゃんの友達とシてデキたらさ……それって、僕とお姉ちゃんの友達だけの子供じゃなくって、3人の子供に、なるのかな……」

 「フヒッ! ヒヒヒ……ッ! アンタってちょっとそういう、変態みたいなコト平気で言うトコあるよね。ま、まあ頑張んな? もし罷り間違って何かデキたら、お姉ちゃんも世話ぐらいしてあげるから……お姉ちゃんと、アンタの……フ、フフ……!」

 腐れ縁といえど2人の付き合いは長い。

 だからこそトキヤは、手に取る様に彼女が求めているものを捧げられてしまう。

 例えそれがどれだけ倒錯に満ちた気持ち悪い考えや価値観であったとしても……。

 「んぅ……っ、うっ、ふぅっ、と、トキヤ、良い? 良いよね? トキヤも、ね? ねっ?」

 「シシュエ……っ、お姉ちゃんっ、お願いっ、手、握って、僕と、シシュエと、3人で……お姉ちゃん……っ!」

 「いいよ、しっかり手繋ぎな? お姉ちゃん見ててあげるからね……」

 『姉』は『弟』と絡め合った指に力を込めて……。

 「はぁっ! んあぁ……っ!」

 ……それは、彼の身体が今愛し合っている女に心までは奪われまいとする、いじましい偏愛の隠喩だったのかもしれない。

 「可愛い……一生懸命、目の前の女をモノにしようとしてる……頑張りな? ちゃんとお姉ちゃんが、全部見といてあげるから……」

 「はぁ……っ、はぁっ、お、お姉ちゃん……っ、次は、お姉ちゃんと、したい……させて、下さい……っ」

 そう言われる事を分かりきってはいても、その言葉を聞けた事には嬉しさしかない様子だった。

 それでも相手の面子もある事を理性では理解しているからか、彼女は弟を挟んだ向こうにいる女へと気遣いの目を向ける。

 「わ、分かってるって……別にトキヤはボクだけのものじゃないし、だからそんな怖い目で睨みつけないでよ……」

 「……何? 独り占めしたいの図星で自分から教えてくれた感じ? 別にあたしそんな目で見てるつもりなかったけど?」

 「あ、そうなんですねー……じゃ、次どうぞ」

 よく分からない事を言いながらシシュエはトキヤから身体を離す。

 「じゃーあ……次はアンタのお望み通り、よいしょ……っと、ンフフ、お姉ちゃんの番ね?」

 譲られた空席にジョンヒは満を持して腰を下ろした。

 「それじゃボクはこっちー」

 「シシュエ、別に無理にいなくてもいいから……」

 「留守任されてるからそうもいかないんじゃない?」

 「……ごめん、シシュエ」

 「そこで指咥えて見てな。アンタにかっこいいとこ見せたこの子が、あたしにされるがままになってる姿。ね、弟君。今日は約束守ってね? ……お姉ちゃんにたっっっっっぷりイジメられても、途中で失神すんなよ?」

 「ジョンヒってホントに、良い性格してるよね……」





 ……その後、戯れなのか拷問なのかよく分からないやり取りは、トキヤがジョンヒとの約束を守れなくなるまで続いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ