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異世界傭兵団の七将軍  作者: Celaeno Nanashi
第十二話【雷葬】
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第十二話【雷葬】10

 「光アミカじゃ……! 悍ましい奴め! 消えよ! 貴様の顔など誰も見とうないわ!」

 「いよいよカゲツの将軍となったか……裏切り者よ、如何なる心持ちで陛下の前に顔を見せた?」

 「花童の水干姿がもう拝めぬとは、寂しい事よ。あれは全くお前に似合うておらず……くくく! 今思い出してもなかなかに滑稽であったぞ?」

 「アミカ……人でなし共に魂を売った其方が、一体何用で此処へ来たと謂うのです?」


 光アミカ

 カゲツ傭兵団の雇われ将軍。元々は光本家の嫡子だったが弱く愚かな都の人々を見限り、カゲツ傭兵団に身を寄せた。人間でありながら団内将軍の地位に就く程の実力者。


 アミカと呼ばれた女はざわつく貴族達を歯牙にも掛けないどころか、

 「ガタガタうるせえ奴等だなあ! また適当な罪をでっち上げてテメエ等の首を河原に並べてやるよ、震えて待ってろ!」

 彼等を脅して面白がって見せるも、

 「アミカ、あなたの『遊び』にカゲツも気付いておりますよ。先週あなたが死罪を言い渡した者達は、皆カゲツが流刑に沙汰を変えました」

 見兼ねた暁が口を挟んで止めようとしたが、

 「チッ、カゲツのジジイつまんねえ事しやがって……だったらこうするか、そらよ!」

 「ぎえぇっ!?」

 「ひ……っひいいぃっ!」

 「こっ、此奴殿上で殺生を……!」

 1番近くにいた貴族の首を切り落として、ゲラゲラと下品な笑い声を響かせた。

 「なあ!」「うあああっ!」

 次に目に入った貴族の頭を掴んで、アミカは続ける。

 「いいか、戦えもしねえ、人を率いる事も出来ねえ、無能のクソジジイ共! 教えてやるよ……この世で1番何でも出来るのはな、この世で1番殺せる奴だ! この世で1番勝った奴だ! つまり、この世で1番強えオレ様って事だ! あの世の親兄弟にも教えてこい!」

 「ぐげえぇっ!」

 景気付けといわんばかりに貴族の首をもう1つ床に転がしたアミカは、

 「テメエもだ!」

 「ぎゃっ!?」

 次に一瞬目が合った黒髪の女を斬り、

 「ハハハハハ! そぉら逃げろ逃げろお! 足の遅い奴から殺しちまうぜえ!?」

 逃げ惑う貴族達の背を軽快に斬りつけてゆく。

 「散れ! 散れ皆の者!」

 「お前! 侍所へ行け! 早う!」

 「そっちは先に血祭りに上げてきてやったぞ! だから! 誰も助けに来ねえよ!」

 「ぎゃあああ!」

 「テメエ等みてえな! 意味無えおしゃべりしか出来ねえだけのゴミ虫共! 何人死んでも死に足りねえんだよ! ……あん?」

 不意にアミカの足に当たったのは、両耳を塞ぎ蹲る暁だった。

 「よお、暁ぃ!」

 「ひぃっ!」

 「良い顔になったじゃねえか……! いつまでも嫁ぎ先が見つからねえなら、オレ様が娶ってやろうか?」

 「く……っ! 貴様に嫁がされるくらいならば、わたくしは神坐にでも行って旭様の側女となります!」

 「ハハッ、そりゃ無理だな。神坐はテメエが散々『野蛮の地』だ何だっつってる東ヒノモトにあるんだぜ? そんな辺鄙な場所までどうやってテメエの弱腰で辿り着くつもりだ? よたよた野道を歩いてると、あっという間に野盗共に捕まって……」

 暁を嘲りながらアミカは彼女の髪を引っ張って無理矢理自身の方へと顔を向けさせ、

 「オレ様にされた事よりも、ずっと酷い事をされるだろうな……?」

 悪辣な笑顔を見せびらかした。

 「……何とでも言いなさい。もしもの事が有れば、わたくしは陛下を連れて神坐へ落ち延びますよ」

 暁は何とか毅然とした言葉と表情を取り繕うが、身体は尚も怯えで震えていた。

 「ま、オレ様はテメエをみすみす逃がさねえから安心しな。ってか、ンな事はどうでもいいんだよ、おい白鳥!」

 暁の髪を放したアミカは、御簾の向こうの相手を雑に呼んでニタニタ笑う。

 「カゲツがブチギレてたぜ? まーたちょっと目を離した隙に余計な事をしてたらしいな? お陰で中ヒノモトがぺんぺん草も生えねえ焼け野原になっちまったらしいじゃねえかよ。なあ!?」

 「……責は負う。何とでもせよ。鞭打ちであろうと、拷問であろうとな」

 「ほーお? じゃあよ、こういうのはどうだ!?」

 アミカは言うや否や、

 「やめて!」

 暁の制止よりも速く、御簾を横一閃に切り裂いた。

 「……!」

 「どうした? 我にどういうのをしてくれるのだ?」

 切られた御簾の向こうにいる存在を目の当たりにしたアミカは、

 「フン……思ったより好い女じゃねえか。気に入ったぜ、女王陛下」

 態度を少しだけ改めて、猫撫で声を白鳥に向けた。

 「……満足か? 然れば新しいものを持て」

 アミカの意図も全く意に介さず白鳥はそれだけ言う。

 「へいへい。テメエの顔が好みだから今回ばかりは我儘を聞いてやるよ。おい簾だ! 適当にその辺にあるやつでいい、オレ様が切ったのと付け替えとけ!」

 白鳥の反応が悪い事にアミカは不満を抱きながら、つまらなそうにその場を後にした。

 「失礼致す、人間の女王。それにしても……アミカ様は何を考えて毎度毎度斯様な事を……これでは頭領殿から益々人心が離れるではないか」

 「しっ……! 気軽に話すな。新入りのお前は知らぬだろうが、あの方の耳は我等にも等しい程の鋭さ。今の悪口が聞かれておれば、打ち首ぞ……」

 生き残った貴族達と暁は、御簾を付け替え始めた獣の亜人達を横目にほっと胸を撫で下ろすも、

 「陛下……真仲様の一件、何処からカゲツに漏れたのでしょうか」

 暁の何気ない一言から緊張が走った。

 だが、付け直された御簾の向こうから、白鳥は乾いた笑い声を上げると、

 「左様な事を考えるは野暮と謂うものよ。皆してカゲツに殺されたくないのだから、誰が裏切っていようと今更咎めるも無意味であろう? 明日にはお前がカゲツに脅されて泣く泣く我を裏切っておるやもしれぬのだからな?」

 ある種の諦めに満ちた答えを返すばかりだった。

 「さてさて……旭は何時になれば我を助けに来てくれるのであろうなあ?」





 神坐の浜辺に一人座って、夕暮れの海を眺めながら白髪の青年は袖で眼鏡を一拭きして掛け直した。

 視界は鮮明になったのに、目に見えない未来は幾ばくか曇ったような気がした。

 ……助けを求めてくれた人の為に、転生者の村から飛び出してずっと走り続けていた。

 立ち止まって後ろを振り向く事も許されず、色んな人達を殺して、色んな人達を騙して、ずっとずっと、足を止めないで進んでいた。

 やがて1人、また1人とかつての仲間達は自身と距離を置いていった。

 誰かの為だけに生き過ぎたせいで、その誰か以外の全てを失ってしまった。

 だが、悲しみも後悔も心の中にはカケラも無い。

 今度は『全てを失って絶望の果てに終わりを迎えた』訳ではないのだから。

 最愛の人がこの世界を平和にする為の必要悪として破滅出来るのだから……。

 「よっ、なに黄昏れてんだ?」

 不意に爽やかな男の声がして、浜辺に座る人影は2つになった。

 「アニキには想像もつかないような事を色々と悩んでたんだよ」

 「そりゃ気になるな。教えてくれるのか?」

 「それは素直に教えて貰えないって分かってる奴の訊き方だろ」

 「トキヤには敵わねえなあ、ハハハ」

 ……暫し、白い直垂の男と、桃色の麻の葉紋様の直垂の青年との間に、静かな時が流れた。

 「なあ、アニキ」

 「どうした? トキヤ」

 「アニキは、俺の事、今でも好きでいてくれてるよな?」

 「当たり前だろ? トキヤはオレにとって、たった1人の弟だ」

 「俺もアニキの事、ずっと大好きだ。俺にとってアニキは、何者にも代えられない唯一無二の兄貴だから」

 ……また静かな時が訪れた。

 「なあ、トキヤ」

 「何だよ、アニキ」

 「オレ、最近思うんだ。一国の主の側近になっても、綺麗な女を侍らせても、何も幸せそうじゃないお前が、オレとくだらねえ世間話してる時だけは、この世で一番の笑顔を見せてくれる……それがオレ達の絆がホンモノだって何よりの証明なのかなって」

 「……アニキに隠し事は出来ないな。正直俺、最近は呪いのせいで俺の事を好きになってる奴に囲まれっぱなしで、ちょっと怖くて気持ち悪かったんだ」

 「そういう事か……でも、呪いなんか無くったってお前は性根が真っ直ぐだから、遅かれ早かれアイツ等から好かれる事にはなってたと思うぜ?」

 「そうかな……俺は呪い無しで人から好かれる自信なんて、全然無いよ。転生者の皆も俺の事を揶揄ってバカにしてるだけだし、呪いに罹る前の真仲だって、俺を騙して利用する為に優しくしてくれてただけだったみたいだし……俺の事をホントに大事にしてくれてるのは、旭とアニキだけだよ」

 「オレ達だけじゃダメなのか?」

 ……トキヤは、それ以上何も言う事が出来なかった。

 「トキヤ。辛いなら、一旦ウチに戻るか? 旭と3人で、田んぼ仕事手伝ったり、しょうもないバカ話に花咲かせたりしてさ」

 「それはアリかもしれないな。旭とアニキと、3人でバカ話しながら蔵で米を数えてたいな」

 楽しそうで無邪気な柔らかい笑顔をトキヤから向けられて、

 「……オレはこの世界じゃデケえ金もとびっきりの美女も手に入らなかったけど、そんなのよりもっと価値のあるモンを手に入れられたのかな、トキヤ」

 「ん? アニキ、今、何て……?」

 「いつかデケえ商売で大儲けして、旭や真仲みてえなとびっきりの美女をオレも侍らせてえなあって言っただけだぜ」

 トキタロウは爽やかでいながらも悪どい笑顔で返事をした。

 「アニキはあっちこっち色んな人に手を出し過ぎなんだよ。この前円の伝手で会いに行ったあっちの山の尼寺の婆さんにまで手ェ出したらしいじゃん」

 「いやー、酒に呑まれちまってさ……! でも好い人だったんだよ」

 2人は他愛のない世間話を続ける。

 願わくば目の前の夕陽がいつまでもそこにいて欲しいと、そんな無茶な事を望みながら。


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