202 ベイシックダンジョンの冒険者ギルドにて その1
赤い『匿名のマント』を追加で5着ゲットするために、さらに53回ものボス戦を繰り返したおかげで、僕のステータスの体力値が20くらい増えてレベルがまた2つ上がり、186になってしまいました……
ちなみにシロの追加のレベルアップはなく、クロも1しかレベルが上がりませんでした。二人ともレベルの上限に近づきつつあるようです。しかし、僕のレベルの上限というものは、神おじいさんは設定し忘れているのでしょうか……
「今は…… 時間ニャ!」
【14時55分】
「まだ少し時間があるニャ! もうちょっとボス戦を繰り返すかニャ?」
たしかにダンジョン攻略から切り上げるには少し早い時間ですが、もうこれ以上『匿名のマント』は要りません(笑) かといって他の階層を攻略し直しても、まだ宝箱はリポップしてない可能性が高いです。
「もうマントは要らないよ。それにこのダンジョンに3日間も入っていることになっているので、冒険者ギルドの人達も心配しているかもしれないし、ダンジョンを出てギルドと少し話をして、おいしい料理屋さんを聞いてご馳走を食べよう!」
ダンジョンに何日もこもるのは冒険者としては普通なので、そこまで心配されてはいないでしょうが、でも入ったときの様子から僕等が出てくるのを待ち構えている気がします。そこで少し時間が取られるでしょうから、早めにダンジョンから出たほうが夕食の時間にちょうど良くなりそうです。
「ご馳走! 素晴らしいですわ。4日前の高級そうなレストランは見かけ倒しでしたから、本当においしいところをギルドに紹介してもらいましょう」
「そうだニャ! ごはんは大事ニャ!」
「さすがはマサト様です! 冒険者ギルドの人はきっとマサト様が出てくるのを見張っているでしょう。我々にはそのことまで考えが及んでいませんでした……」
3人の承諾も得られたので、ダンジョンからさくっと退出します。ボス戦後に強制転移させれられる部屋は、本当にダンジョン入り口から近いところにあり、しかも先にはどこにも繋がっていないデッドスペースなので、誰も入ってこない場所なのです。
「あっ! マサト殿が出てこられました!」
ダンジョン入口は冒険者ギルド内にあります。というか、ダンジョン入口を囲むようにギルドの建物が建てられています。そして、やっぱりギルド職員は僕等が出てくるのを待ち構えていたようで、ダンジョン入口付近にいた職員が僕等を見つけてすぐに事務所奥へと声をかけました。
僕等はそれを無視してさっさとギルドから出ようとしますが、ギルド長さんが素早く出てきて出口を塞ぎました。
「いやー、お待ちしておりました。長いことダンジョンに潜られていたようですが、魔石や魔導具の売却などはありませんか? マサト殿なら特別に高価買い取りをさせていただきます!」
ギルド長さんの素早い身のこなしは、きっと元冒険者なのでしょう。見かけはアラフィフのおじさんですが、隙の無いその立ち姿はレベルもそこそこ高そうな感じです。
「魔石や魔導具はたくさんゲットしたけど、すべてマサトが自分で販売するニャ」
一介の冒険者ならば、ダンジョンで入手した少量の魔石や低価格の魔導具を売却しようとしても、わざわざ民間の商人が直接相手をしてくれないため、手っ取り早く冒険者ギルドに売却することが多いです。ギルドは仕入れた商品を分類整理して、まとまった数で出入り業者に転売し、その手数料を稼いでいます。冒険者としてもギルドに売却すればギルドへの貢献として扱われるので、ギルドでのランクアップに繋がります。特にランクの低い冒険者達は、少しでも早く一人前と目される初段まで駆け上がるために、手数料が取られて安めに買いたたかられるとわかっていても、頑張ってギルドに戦利品を売却するのです。
でも僕等の場合はこれ以上のランクアップは必要ありませんし、商会を直接所有していますので、わざわざギルドを経由するメリットはありません(笑)
「そりゃまあ、販売ルートをお持ちですよね…… でも、少しだけ話をさせていただけませんでしょうか? よろしくお願いします!」
ギルド長さんが深々と僕等に頭を下げています。ギルドの出入り口付近でそんなことをされると、どうしてもまわりの冒険者達の注目を集めてしまいます。まあ、元々少し話をするくらいはしょうがないということで、早めにダンジョンを出ていますので、意地を張らずに承諾しました。すると、話は少しだけでもということでしたが、しっかりと2階の立派な応接室に通されて、上等そうなハーブティーも運ばれてきました。
「それでダンジョンはどのあたりを探索されたのでしょうか? また何か問題等有りましたでしょうか?」
ギルド長さんは丁寧な口調で質問をしてきました。
「10階層以降を攻略したニャ。13階層くらいでいちゃもんをつけてきた冒険者パーティーがいたので一蹴したニャ。特に問題は無かったニャ」
「いちゃもんって……問題では? で、そのパーティーはどうされたのでしょうか?」
「そのパーティーは10階層以降でゲットしたお宝はすべて差し出して引き返せなどとふざけたことを言ってきたニャ。拒否したら剣を抜いてきたので、適正に対処したニャ」
正当防衛として討伐しちゃったけど、それを『適正に対処』と言って良いのでしょうか?
「適正に対処って事は…… もしかして『鉄の破軍』ってパーティーでしたでしょうか?」
「確かそんな名前だったニャ……」
「……まあ、奴らはギルドとしても困っていたので、適正に対処されたというのなら、こちらとしても特段言うことはございません」
ギルドとしても困っていたから問題にしないで済んじゃうのですか……
「できれば、鑑定プレートをいただけないでしょうか? ギルドとしては山賊扱いで報奨金を出しますので……」
ありゃりゃ、山賊扱いですか…… まあ、ダンジョン10階層以降を勝手に独占して他のパーティーを入れなくしていたので、その分ダンジョンから産出する魔石や魔導具が減ってしまうし、そもそもダンジョンに入ってくれる冒険者も減ってしまうので、ギルドとしては迷惑な輩って事だったのでしょう。『鉄の破軍』がいなくなったという確証が欲しいのでしょうから、僕等が討伐したとこうことは秘密にしてもらう約束で、素直に死亡後の鑑定プレートは提供しました。そして、その分の報酬は山賊と同じレベル当たり3000エンをちゃんと貰えました。まあ総額42.6万エンでしたので、ミラーゴーレムの魔石売却額と比べれば全然たいした金額ではありませんが、今夜の高級宿と豪勢な夕食代には充分足りると思います。
報奨金を受け取っていると、コンコンとドアがノックされました。ギルド長さんとの面談中にさらに入室者が来るということは、ギルド以外の人でしょうか? 嫌な予感しかしません。
「どうぞ」
ギルド長さんが誰何もせずに応接室への受け入れを許可してしまいます。きっと最初から話がついていたことなのでしょう。たぶん騎士団などのこの国の関係者でしょうか?
「失礼する」
入ってきたのは豪華な服を纏った犬獣人の中年男性で、どう見ても貴族ですね。
「わたしはこのベイシック王国の王子で、騎士団団長のメイフォンと申す。先日はサニミ市との間の街道に潜伏していた多数の山賊を討伐していただいたようで、誠に感謝する!」
貴族というか、王族でした……
続けて女性も入ってきたけど、きらびやかな服装からして奥様かな? 虎獣人が虎柄の入ったファッションをしているけど、それでも上品な佇まいです。
「わたしはメイフォンの妻のエイビーでんがな。よろしゅう頼んまっせ!」
見た感じは上品な貴婦人って感じなんだけど、そこから出てくる言葉がインチキ大阪弁でした。きっとサニミ市出身なのでしょう。
王子様が直接出てくるなんて、めんどくさいことを頼まれる予感しかしませんが、今後も生活魔導具を仕入れるためにここのダンジョンには入りたいので、できる範囲内で前向きに対処する必要がありそうです……




