その13
「間接的、か。俺達が売り払っていた六層や五層の素材が流通しなくなったこと、か?」
街に戻るまでにリ’シンと交わしていた会話や、ここに来るまでのフリントやアスティアの反応から何となく察し得た内容を口にする。
「ええ、それが間接的な問題。ですがね、アレウス殿。それぐらい、第六層を探索する冒険者ならば自分たちで解決するべきなのですよ。少なくとも、うちの商会と契約している貴方方以外の徒党は然うやって解決しております。それができなかった以上、淘汰されるべき徒党であったと考えざるを得ないし、そこら辺を制御出来なかった商会側の責任でもある。云ってしまえば自己責任なのですよ、この街で生きていくために必要な、ね」
どこかしら凄味を感じさせる面持ちでダイオはアレウスに念を押す。
「それは理解しているさ。まあ、していても割り切れない何かはあるものだろう?」
「そこまで背負われる理由はないと思うのですがねえ。まあ、アレウス殿らしくもありますかな」
穏やかな笑みを浮かべ、ダイオは納得する。「この話の問題は自滅をした商会がどれもこれも老舗ばかりだったと云う処なのですよ」
「……どう云う事だ?」
ある種の不穏を感じ取り、アレウスは鋭い目付きで質問した。
「そこらの詳しい事は他の方々が到着されてから、ですなあ。どうにも私だけでは正しい答えに辿り着けませぬので」
申し訳なさそうな顔付きでダイオはアレウスに頭を下げた。
「ふむ。後は誰を呼んでいるのだね?」
「流石に向こうに居るリサ女史をこちらにお呼びするには時間がありませんでしたので、今こちらにいるリ’シン殿、フリント殿にアスティア女史に声を掛けました」
アレウスに向かってダイオが説明していると、使用人が彼の下に訪れ何事かを囁いた。
ダイオはそれに一言二言答えて指示を出し、
「リ’シン殿が到着されたようです。後のお二方も追々到着されるかと」
と、二人に状況を報告した。
「意外と早かったな。リ’シンの奴、ここで何か仕事があったのではなかったのか?」
「ああ、それでしたら多分、アレウス殿がこちらに到着した事で話し合いが無くなった筈ですな。ですから、その報告にだけ顔を出したと云った処でしょう」
「何の話し合いだったのだ?」
自分が来た事で話し合い自体が消えたと言う話を聞き、流石のアレウスも首を傾げた。
「アレウス殿とリ’シン殿が絡む話は然う多くないか、と」
流石に呼ばれてもいない会議の内容はダイオも知り得るはずもなく、これまでに見聞きしていたことから推測できる事柄をぼやかして挙げた。ダイオもこの街の情報ならばそれなりに集めているから近い答えは出せるであろうが、この種の情報は少しのずれが大きな間違いを生み出しかねない以上、ある種の責任回避に走らざるを得なかった。逆に、問題なく答えられることはアレウス相手ならばずばりと答えていただろう。
「……常識に基づいて考えれば、“古の盟約”絡みなのだろうが……本人から聞き出すか」
「我が友の願いと云えど、それは教えられぬな」
悩み込むアレウスに丁度部屋に入ってきたリ’シンがきっぱりと答えた。
「教えてくれぬのか」
些か意外そうな顔付きで、アレウスはリ’シンを見た。
「済まぬな。貴公相手であろうと云えぬ話でな。その上、ここに居る者でその話を聞く権利を持つ者が誰も居らぬ。流石にそれでは我も話せぬよ」
「まあ、あっしも蚊帳の外でやすからねぇ。アスティアぐらいじゃないんですかねぇ、あっしらの知り合いでその話に入り込めるの」
「会議自体には出ていたわよ? 詳しい事情を教えて貰えていないから居ただけですけど」
リ’シンに遅れること少し、フリントとアスティアも続いて部屋に入ってくる。
「揃ったか」
アレウスは全員を見渡してから静かに呟いた。
「ええ。アレウスがあと二日ぐらい早めに教えてくれていれば、リサも呼べたのですけれど」
空いている席に着きながら、アスティアは残念そうに首を横に振った。
「悪いが、それは“覇者”殿に云ってくれ。俺も今ここに戻る予定はなかったのだし、もっと前から分かっていたのならばちゃんと伝えているわ」
首を左右に振りながら、アレウスは吐き捨てた。
「そうであろうな。貴兄が行き当たりばったりの行動をしていた記憶が我には無い」
「云われてみれば、アレウスって常に計画通りに動いているよね」
リ’シンの言を聞いて、レイははたと思い当たった事を呟いた。
「どうにも無点法は嫌いでね。落ち着かないんだよ」
アレウスは大きく溜息を付く。「いざという時に臨機応変に動くのは良いのだ。相手の動きが読めない時にこちらが得意とするもので勝負を挑むのも良い。だがな、何があるか分かっている状況下で適当に動く事だけは我慢ならん。後々その事による不始末の尻拭いをするのは目に見えているし、絶対その方が最初から計画を立てて万全の準備を整えて動くのに用いた時間以上の損失を蒙る。絶対にだ!」
「……ふむ。要するに、その様な目に遭ったことがある、と?」
アレウスの力説に、場に居る誰しもが思った事を代表してリ’シンが問う。
「そんな目にしか遭わなかったのだよ。俺の兄上方は怖ろしい方だったからな」
渋い表情で身震いしながら、アレウスは思わず首を左右に振った。
「アレウスの兄上ってどんな人なんだろうねえ」
旅をしている時も良く引き合いに出ていたアレウスの兄について本気で追及するべきかレイは悩む。
「いや、この際兄上の事などどうでも良い。どうでも良いのだ。話が逸れすぎる。頭取、始めよう」
アレウスは無理矢理話を元に戻し、ダイオを促した。
「それでは、皆様。洋杯をお手に。本日は御足労有難う御座います。我がマティロ商会が今日あるのも皆々様の御陰であります。アレウス殿がこの街に戻ると聞きまして、慌ててこの様な場を用意させて頂きました。私共からの日頃の感謝と思いお納め頂ければ幸いです。乾杯」




