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アレウス廻国記  作者: 高橋太郎
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その7

 アレウスの発言が意味するところを理解したフリントは、

「……ああ、“野人”ですか? あの方はあの方で危険と云っちゃぁ危険なんですが、自分より弱い相手は相手にすらしやせんからねぇ」

 と、首を傾げて見せた。

「彼奴も俺と同じく対人戦を想定している強者なのだがなあ」

「あの方は旦那と違って、斬れるモノならば何でも斬る派ですぁ。どちらかと云うと、魔物を斬ることに主眼を置いた本流に近いでやんしょう?」

 それを聞いたアレウスは腹を抱えて笑いだした。

 何事かと思い周りにいた者たちが一斉にアレウスを見る。

「旦那、あっしが何か面白いことでもいいやしたか?」

「ああ、済まん済まん。余りにも理解が足りなかったので、な」

 アレウスは目尻から滲む涙を拭う。「フリント、お前が云った事はある意味で正しい。だがな、彼奴の剣術は本流からはほど遠いモノだぞ? 魔物が斬れれば人も斬れるから、戦場でも役立つ。これがお前さんの云う処の本流の考え方だ」

「あー、うん。それは良くアレウスが云っているね」

 アレウスが分かり易く一から説明するのを聞いて、旅の間にちょくちょくその話を聞いていたレイは相槌を打った。

「フリントと違って、お前さんは剣士でもあるからな。俺の云いたい事は分かるだろう。俺の剣術は最初から人を斬る事を主眼としている。育ちが育ちだったからな。実家の敵は魔物よりも人間の方が多かった。家族を守る事に主眼を置けば、人殺しの技を磨いた方が役に立つからな。まあ、己の腕を売り込みに来た食客達から魔物を斬る剣術を習いもしていたから、正確に云えば俺も純粋に対人戦だけをやって来たわけではないのだが、な」

「そうだよねえ。ボクも実家で武芸を習っていた時はアンプル山脈に住んでる巨人とか魔物とかを想定したものだったもの。人間相手は思いっきり打っ手切れば死ぬみたいな乗りだったなあ」

「それでは旦那と“野人”はどう違うんで?」

 二人のやり取りを聞いて、フリントは逆に首を傾げた。レイの言い分が世の中の過半数が締めている中、アレウスと“野人”の剣理だけが同じ様に外れているのは間違いない。

 彼が知り得る限り、“野人”と呼ばれている兵法者だけがアレウスの持論を大いに褒め称えたのだ。あれほど意気投合していたのだから、二人の原点は同じものに違いないと考えるのも無理はなかった。

「俺が人間を斬る事を主眼に置いている様に、“野人”はこの世にある全てのモノを斬る事を主眼としている。一見すると魔物を斬る事に主眼を置いている連中に近い様に見えるが、見る者が見れば全然違うと分かる。俺にしろ、主流派にしろ、斬る相手が変われば多少太刀筋が変わってくるが、彼奴は相手が何であろうと太刀筋が乱れぬ。同じように斬り、同じ様に勝つ。俺の事を天才だの天下一だの持て囃す者達がいるが、全く以て何も見ておらんよ。彼奴こそ真の天才よ。まあ、天下一は又別の方のものなのだが……どうせ遭う事はないからどうでも良いか」

「一寸待って下せぇ、旦那みたいな剣客が“野人”以外にもまだいるんですか?」

 本来裏の世界の住人であるフリントは表の世界のことを詳しく知っては居ない。ある程度のあらましならば兎も角、その業界だけで有名な個人の信条など興味を持って集めない限り知り様があるはずもない。

 だからこそ、アレウスがさりげなく言い放った台詞に飛び付いたのだ。ある意味で彼らの業界にとっても重要な事柄である、対人戦に特化した剣士が自分達が把握しているより多くいるかも知れないのだ。

「まあ、世の中規格外の人などそれなりにいるものであろう?」

「それなりにいたら驚きなんだよなあ」

 レイは思わず呟く。

 世間知らずだった頃と違い、それなりに世間擦れしてしまった今となってはアレウスの言がおかしいことに気が付いてしまう。

「少なくとも、迷宮都市にいる連中はそれなりに入る様な連中ばかりだぞ?」

「人類の極北が揃っている街だから当たり前なんだよなあ」

 呆れた口調でレイは首を横に振った。

「何でここまで世間擦れしてしまったんだ。出会った当初の初々しさはどこに消えてしまったんだろうな」

「そりゃ、アレウスと付き合って動いていたんだもの。嫌でも世間慣れするよ」

 嘆くアレウスを後目に、レイは淡々と事実を告げた。

「でも、不思議といやぁ不思議なんすよねぇ。旦那って、どう考えても生まれは相当良い筈でしょう? なのに、失敗するとあっしより下々のことに詳しかったりしやすよねぇ?」

「まあ、色々と、な」

 先程の話題では一切誤魔化す気配のなかったアレウスが明らかに触れられることを嫌がる気配を見せた。

 こういう時はどんなに粘ったところで話を引き出せない、経験でそれを知っていた二人は話題を戻すこととした。

「この街にもアレウスが一目を置いている様な剣客はいるの?」

「偶に“野人”がふらっと尋ねてくる程度かな? 俺が知り得る限り、彼奴以外に大迷宮の中にいる魔物を斬る事に興味を覚えている者はいないからな」

「旦那が旅に出てからは、余り来ていませんねぇ。まあ、それでもふらっと来てはあっさりと稼いで又旅立っていやすがねぇ」

「彼奴はそうであろうさ。懐が寂しくて、何となく魔物を斬りたくなったらやって来る、そういうものだろう。そこら辺が他の者たちと違う」

 フリントの言葉に満足したかの様にアレウスは一つ二つ頷いて見せた。

 数少ない魔物も人も斬る剣理を求める同志なのだ。なんやかんや言いながらも、“野人”が自分の知るそれと変わりない事を知り嬉しかったのである。

「その他の者の誰かとボクは会った事がある?」

 レイからしてみるとアレウスが自分の同類扱いする様な相手に覚えがなかった。割と昔馴染みの傭兵を紹介されていたので、実はその中に居たのでは無いかという疑問を持ったのである。

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