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アレウス廻国記  作者: 高橋太郎
再会
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その5

「私はアレウスより先に入っていましたけれど、その頃には既にマティロ商会の世話になっていましたわ」

「あっしはまあ、死んだラティオに拾われた口ですからねぇ。リサ姐さんの人脈なのか、ラティオの人脈なのかまでは聞きづらい話でして……」

「ラティオの奴、変な処で嫉妬深かったからなあ」

 フリントの答えを聞いて、アレウスは何とも言えない顔付きで懐かしそうに呟いた。

「まあ、旦那と違って、あっしらは地下の生まれですぁ。そらあ、金持ちに対する嫉妬やら何やらで心中ぐだぐだに煮詰まってますぁ」

 この迷宮都市に一攫千金を夢見て集まってくるものの大半は様々な理由で食いっぱぐれた者たちである。

 仕官の目がない貧乏貴族の次男坊や三男坊、家を継げない農家の矢張り次男以下、何らかの理由で地元に居られなくなった訳ありの者、借金で身動きが取れなくなって逃げ出してきた者など生き抜くことすら難しい者たちの吹き溜まりである。

 極稀に自称腕試しなり暇つぶしなりに迷宮に挑みに来る貴族の道楽息子がいたりもするが、直ぐに淘汰される。ここでしか生きることができない者の覚悟と他にも生きる術があるものの覚悟では真剣さが大いに違う。その上、相手は名うての大迷宮、挑む者によって手心を加えるなどと言った優しさとは無縁の存在である。大抵は最初の探索で死体となってそのまま終わる。良くて、生き延びた後に街から逃げ出すのが関の山だ。極稀に何故か適応してしまって、そのまま大迷宮にどっぷり嵌まる者もいるが、本当に例外中の例外である。

 そして、アレウスのその例外中の例外ですらないもっと別な何かであった。

 明らかに金持ちで他の生き様があるというのに誰よりも大迷宮の探索に適応していた。

 食い詰め者の探索者の中で本来ならば浮くはずの出自と育ちなのに、何故か他の探索者たちと意気投合していた。

 そして何よりも、誰もが羨むほどの大成功を大迷宮で成し遂げていた。

 フリントはそこら辺割り切れる口であったし、その恩恵を最も間近で受けていた一人であったから心酔していたと言って良い。

 だが、彼を徒党に引き入れたラティオは違った。

 己より優れたものを認めたがらず、誰よりも上に立ちたがり、己が欲しいと思ったものは如何なる手段を用いてでも必ず手に入れようとする典型的な成り上がり者の見本みたいな男であった。

 実際、ラティオは大迷宮の探索者として必要な性質全てを兼ね備えた男でもあったため、その(ねじ)くれた性格は意外な事に良い方に廻っていた。アレウスに対して強い対抗心を抱いていたが、それは敵愾心などではなかった。認めるべきところは認めていたし、本人もアレウスも背中を任せるに足る人物として最初にお互いの名を挙げる位であった。

 何かあったとしても、吐き出せる時に吐き出して殴り合い、次の日には水に流して尾を引かない分別もあった。互いに自分が持っていないところを尊重し、己の足りないところを補い合う良い関係でもあった。

 アレウスを見てラティオは己が望んでいた成り上がるために足りないものを学び、朧気な夢をくっきりとした目標に昇華した時に悲劇の種が萌芽していたのだろう。

 フリントは今となって漸くあの時執拗にラティオがアレウスに反発したのかに考えが至っていた。

 大なり小なり、崩れようがない風に見える徒党が崩壊する原因は自覚しているしていないの違いはあれど男女の痴情の(もつ)れである。

 ラティオにしろアレウスにしろ持てることは持てる。ただし、来る者拒まずのラティオに対し、己の腕を上げることを優先するアレウスとでは周りの反応も違う。その上、ラティオは同じ様な出自の者たちから絶大な支持を受ける男であったが、上流階層からは受けの悪い男でもあった。逆にアレウスはそのどちらからも受けが良かった。

 そして、それが悲劇の元であった。ラティオにとっての本命はアスティアであり、アスティア自身はラティオを相手にしていなかった。上昇志向が強いラティオにとってアスティアほど何もかも都合の良い相手はいなかった。だからこそ、本気の本気で恋い焦がれたのだ。

(問題は、アスティアの姐さん、本人は気が付いていなかった様でやんすがアレウスの旦那に惹かれていたみたいなんすよねえ。本気だったからこそ、ラティオの奴も気が付いちまったんでしょうなあ)

 アスティアがあそこで折れなければラティオも折れたであろう。アスティアこそが彼にとっての全てであったから。故に、あの時アスティアが折れたことで箍が外れてしまったのだ。初めてアレウスに勝てる機を得てしまったのだから。

 その結果は、無残なものであった。

 ラティオを信じて付いてきていた野伏を失い、アスティアを守るために己も死に、結局二人とも蘇れなかった。

 逃げる途中でフリントも死んで、アスティアは昏倒するまで奇跡を使って何とか自分と生き残った二人の傷を癒した。

 三人分の死体を担いだ上でアスティアを庇いながら、他の徒党の支援を受けられる第五層までアレウスとリサが逃げ切ったのはそれこそ奇跡みたいなものであった。

 第四層まで知り合いの徒党に守られながら退却し、そこで手空きの徒党に死体の運搬を頼み、地上に帰り着いた時には流石のアレウスも数日間寝込んだ。

 目立った外傷もなく無事に帰還した様に見えても、動けぬ仲間を庇いながらの逃避行はアレウスの精神を非常に摩耗させていたのだ。

 その姿を見て、何か悟るところがあったのか、アスティアは教団の指示に素直に従い、蘇ったフリントは死への根源的恐怖を迷宮深層で再生される様になった。

 アレウスが起き上がった後、生き残った者を集めて徒党の解散を宣言した。

(リサの姐さんの心が折れていなければ、旦那は解散を決断しなかったでしょうがねぇ。旦那が立ち去った後のこの街は随分とつまらなくなっちまったもんですぁ。これからはまぁた面白くなるんでしょうなぁ)

 心中でその様なことを考えながら、思わずフリントはにやりと笑った。

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