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「いいな、三分間待ってやる。それまでに、探して書き出せ」
膨大な量の物が目の前にひっくり返された。すぐ彼の目に飛び込んできたのは、縁結びのお守り、縁むすびの糸、縁結び鈴蘭守り。あの時をの事を鮮明に思い出す。優太は、それらを抱いて、ただひたすら心のままに泣いていた。こんなはずじゃなかった。死ぬために生まれてきたんじゃない。
当時のジーンズのポケットを漁っていると、見つけた。それほど酸素にも触れていないようで、まだまだ白い。一粒の大粒の涙が、白紙に落ちたその瞬間、普段は一般人が見ないような文字がびっしりと埋め尽くされる。
「時間だ。書き遺せなくて残念だったな――」
彼は、その声が、遠く聞こえた。
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思わず飛び起きた。尋常じゃないほどの汗をかいている。呼吸は荒く、布団はバケツをひっくり返したかのように濡れていた。
「あ、あれ……?」
「あっ、優太さん! 大丈夫ですか? ずいぶんうなされてたみたいですけど」
どうしたんだろう。一体、何が起こったんだろう。今の今まで、死刑直前だったはずなのに。……何だか、ものすごく懐かしい笑い声が聞こえる。
「晶……」
薄暗い部屋の中で、目の前には現代風の日本人形がいた。思わず抱きつき、死刑の恐怖から解放された事で涙が止まらなくなる。
「いや、だからこれ絶対編集動画だって! こんなにハッキリとカメラに映るわけないだろう?」
「だーけど、怖いわよ、こんなのが急に飛び出してきたら」
「もー! 押さないでよ! せ、狭い……。せんせー、答えは?」
そしてテレビに目を向けている金髪のウニ兄貴、ウェーブの大人ヴァージョンちなっちゃん、元彼女の他称妹二号が何かを言っている。討論会のようにも見える。
「答えを言う前に、ようやく優太くんが起きたみたいだから彼にも意見を聞いてみよう」
「おぉー、やっと起きたのか、優太くん!」
「もお、待ちくたびれたわよ。具合はどう? 急に倒れたから、びっくりしたわ」
「優太、おはよー! ねーねー、これどっちだと思う? 本物? 偽物?」
テレビの横には、晶の親父さんの姿があった。
「これは……思念の書を使ってるので、本物のはずです」
涙声でそう言うと、美香以外の全員が目を丸くした。
「正解だ! これは、福岡支部の司令官の十八番、その時欲しい物を呼び寄せるために開発された『思念の書』を使い、呼びだした幽霊だったんだよ。まぁ、学園祭には、ちょっと不向きだったかもしれないけどね」
「くっそ! 思念の書か! 盲点だったぜ!」
「あンれぇ? 編集動画って、何なの? 私、分かんないわ」




