85
「今日は、相坂さんはいないのかな?」
どうやらここに来ると、ちなっちゃんに会えると思い、来たらしい。
「……」
「なるほど。黙秘ですか。では、ちょっと署までご同行願いたい」
「これは日霊保の問題だ。身柄はこちらで預かる」
東京支部の隊員たちが眩い光と共に白銀の弓やら、全長三メートルもありそうな操り人形などの様々な個性溢れる武器を即時装備していた。それに応じて、警察官たちも拳銃を抜いている。穏やかではない。普段、こういった感じで身柄の奪い合いが始まるのだろうか。いかに、ちなっちゃんが冷静に対処していたかが分かる。
「以前、私の大ファンだった特級クラスにそう言われて、この青年の身柄をそちらに預けた。しかし、その結果がこれだっ……!」
親指で二○一号室を指して、きつく睨んでいる。
「ぐっ……」
「今度は、こちらで預からせてもらうよ。深夜一時五分、逮捕」
霊保の隊員が何も言い返せなくなっている。特級クラスが死んだのも、美香という一般人が巻き添えになったのも、このアパートを見ると一目瞭然だった。
18
「君には黙秘権があり、供述は法廷において不利な証拠として用いられる可能性がある。君は尋問の際、弁護士の立会を求める権利がある。もし弁護士を依頼する経済的余裕がない場合、公選弁護人をつけてもらう権利がある」
取り調べは一日八時間、二十三日間にも及んだ。留置施設の牢の中央にあるラジオからは、連日二○一号室の話題で持ちきりだった。犯人は五人もの男女を殺した凶悪かつ猟奇的な犯行を平気でやってのける者だとして放送された。犯人はそれぞれの遺体を頭、腕、足をそれぞれバラバラにし、そして二人の焼死者を出したとして、優太にとって不利な方向へと話が進んでいく。
身柄を検察側に移されても、もちろん、優太は「やってない」と言い張った。
「もう証拠は上がってるんだ」
「何の証拠だよ……!」
「これだ」
検察官が映像を流した。それは、優太が録画していた、十三階段を昇ってくる足音の主を撮ろうとした時の映像だった。ちなっちゃんがお茶を用意し、美香が来て。
しかし早送りして終盤になると、それは、優太が二人の身体に火を点けている映像になっていた。
「やってないんだよ! 俺はやってない! だいたい、何で俺がお世話になった人たちにこんな事をしなきゃいけないんだよ! 何の得があるんだ!」
運悪く、というべきなのか。この角度からでは、たしかに優太が二人に火をつけたように見えてしまう。
「君、深層ウェブへアクセスしてたらしいじゃないか。ネットカフェの店員から通報があって、実は警察は以前から君をマークしていたらしいぞ。……この動画をアップしようとしてたんじゃないのか? どうなんだ!」




