82
美香は観念したかのように、呪文が書かれた首輪を付けられている。四足の妖怪などを捕縛するものらしく、臨時用のものは首輪しかないようだ。
「よく、我慢出来たわね、優太くん」
「……俺、情けないよ。美香の魂が入れ替わってた事にも気付かないなんて」
「仕方ないわよ。霊保の事件は、一般人が分からないのは当然よ」
「そういうもんなのか……?」
「えぇ。だから、警察は納得がいかないんでしょうね。全てを結論付けようとするから、いい意味で手を抜かない。早い話が、優秀なのよ、日本の警察は。優太くんはもう使えてるみたいだから、答え、教えてあげようかしら。究極大魔法の本当の意味」
「えっ」
近寄られて、顔を見上げてくる。ニッコリと笑って、白い歯を見せてきた。その途端、突然、ゴトンと音が響いてくる。
「も、物音が?」
「違うわよ! え、何? 何なの?」
クローゼットの中から、物音が聞こえてきた。そういえば、何か忘れていたような気がする。胸がざわめいていく。
固唾を飲んだ直後動悸が激しくなる。魂の色が違う美香の横を通り過ぎて、優太は部屋を戻っていった。
そこには細い足があった。膝から上が輪切り状になった穴あきジーンズ。それは、単車に乗る際、スカートは危険だという点から晶が履いていたジーンズにそっくりだった。靴は衝撃でどこかに飛んでいってしまったのだろうか。
「あ……晶……?」
まさか、晶が。あの走り慣れた晶が……? 『青焼け……。中性洗剤で洗わなきゃですね。油で滑ってしまいます』と言った言葉を思い出した。まさか、洗ってなかったのか?
まだ温もりがある。ただ、血は出ていない。
「おい、ウソだろ? なぁ、やめてくれよ! おい! やめろよ三島ァ!」
彼は、ただただ、怒りと哀しみの感情を乗せ、叫んでいた。突如、優太の背後から消したはずのテレビが流れ始める。
『――です。では、次のニュースです。速報が入ってきました。えー首都高湾岸線にて、一台のバイクが転倒。単独事故を起こしましたが、運転手の行方が現在分からなくなっているとの情報が入っております』
ちなっちゃんがスマホで画面を見ている。スマホの電波をテレビの規格に合わせ、テレビで大きな画面で確認出来るよう操作しているようだ。
「本当は、これは部外秘なんだけど、そう言ってる場合でもないわね」
手慣れた手付きで操作し、東京支部から福岡支部へとチャンネルを切り替えている。そして、隊員の名前を入力すると、出てきた。福岡支部で、女性の晶という人物は一人しか存在しないらしい。
その日の健康状態が記されている。特殊な機材で常に脈拍を測られているのだ。その健康状態の欄は、◎○△×などで示されているので、一般人にはその記号が一体何なのか知る由もない。




