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キーボードの音が小さく響く。やっぱり、一人でいる時はネットサーフィンに限るわけで。
だけど、一つ気掛かりな事があった。霊は二体。しかし、母親の霊など今まで一度も見た事がない。一体どんな霊なのだろう。
気になった優太は、検索を続ける。『二○一号室 霊 動画』と検索しても出てこない。うぬぬ。これは詳しい住所まで入れないと出てこないタイプだろう。何せ、懸賞金が五千万円の霊だ。有名だろうし、どこかに動画をアップしている人が残っているはず。初めて出会ったあの時、りっくんの口から聞いた。『また肝試しかよ』と。
今、この時も全世界の霊保隊員があの部屋に突撃しているかもしれない。金額が金額だし。だがしかし、こればっかりは晶に譲ってもらいたいところだ。親父さんが殺され、りっくんまで失ってしまったところなのだから。何とか、力になってやりたい。
詳しい住所を入力したが、ダメだった。絶対に動画としてアップされてあるはず。
そういえば昔、晶にメモを渡された。サイフを取り出し、深層ウェブへのアクセス方法を取り出す。いつか、きっと何かの役に立つ。しかし、絶対に自前のPCやスマホでアクセスしないように、と言われてずっと持っていたものだ。
書いてある通りにインターネットを繋げる。深層ウェブ。これは、一体……?
これはまるでインターネットの裏社会のようだ。いや、違う。正確に言うと裏社会そのもの。軍や霊保の機密情報を目的とした掲示板、ハッキング、殺人依頼は当たり前のように横行しており、薬物、銃刀、盗難クレジットカードや違法ポルノ、流出した個人情報も堂々と何の躊躇いもなく載っている。晶は、こういうサイトに平然と立ち入ってるのか? 相変わらず、我が親友ながら恐ろしい女だ。息が詰まる。
目的を思い出して、『二○一号室 霊 動画』と検索すると……あった。住所も間違いない。
これは、一体いつの動画だろう。色彩もハッキリしているので、ずいぶん昔の動画……というのは無理がある。
アパート。埃の山かと思うくらいのオーブの数々。あの場所で亡くなった方だろうか。それとも二体の霊なのだろうか。リフォームされたのだろうか、住所は全く同じでも。内装は似ても似つかない。床なんて抜けそうだ。
カメラの主は一旦その場で微妙に立ち止まり、何かに導かれるかのように振り返った。そこには、クローゼット。黒いモヤが見える。霊保の隊員とは相性が最悪な、一般人にしか見えないモヤ、生霊。と、そんな時、逃げ出したくなったのか、突然玄関へと足を向けた。
『えっ』
……玄関が開いている。小走りで外の様子を左右と確認するも、誰もいない。振り返った刹那
『「ぎゃぁぁぁ!」』
同じタイミングで、カメラの主の女性と優太が叫んでいた。即座に、優太はボリュームを下げる。そこには、首を吊ってユラユラと揺れている女性らしきシルエットがあった。




