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「至急、対策本部を設置しないとマズいわね。東京支部の司令官には、私から――」
「待って! 私たちにやらせて下さい。必ず、何とかしてみせます」
「晶ちゃん……。分かったわ」
晶の心の中にある何かを察知したようだ。承諾している。
「進捗状況はどうなの?」
「それが……見えないんです、私には。男の子の霊なら見ましたが、もう一人の霊は、見えないんです」
「見えない……?」
司令官は身を乗り出して話を聞き始める。どうやら、見えないという事は日霊保の隊員にとっては異常らしい。
「今のところ報告が来ているのは父の霊と母の霊の二体よ。本当にその霊は、『男の子』だったの? 周りに何かなかった? よくある事例として、人形などがあるけれど」
違うのか!? 今までずっと男の子の霊と、母親の霊だとばかり思っていた。
「あっ、ありました! 男の子の人形……」
「今、どこにあるの?」
えっ、と二人して顔を見合わせる。優太も知らない、晶も知らない。ただ、知っている事といえば美香が大事そうに抱えていた事くらいだろうか。
「分からないです。二○一号室を探せば、あると思います」
とは答えたものの、あんな綿がいっぱい出てきている人形、気味が悪すぎて探す気にはなれない。
「人形に宿った魂が霊体として具現化されたのなら、本体は人形のはずよ。もしくは生霊の可能性もあるかしら」
と、いう事は……実は三体いたという計算になるのか? それとも、人形は人形で独立して魂を持ったという事になるので、結局は二体という事になるのか?
どういう事だ、よく分からない。
あの時の事を思い出してみる。美香が包丁を突き立て、無表情でクローゼットをこじ開けていた時の話だ。たしかに、あれは男の子だった。
人形の魂が霊体として具現化されたのだったら、りっくんが『浄化出来ていない』と言った理由も頷ける。男の子の霊が人形の中に戻っただけなのだから。
「……何か、話がややこしくなってきたわね。話をまとめないと。千菜津に電話かけてみるわ」
司令官がスマホを操作している間、晶は小さなショルダーバッグから何かを取り出していた。どうやら、先日晶が二○一号室から持ってきた父の日記らしい。初日からじっくりと見ているという事は、どうやら彼女も初見のようだ。
「どうしたの、その口調。何か嫌な事でもあったの?」
電話するなり、司令官が言葉を失っていた。ちなっちゃんらしき声は聞こえてくる。しかし、漏れてくる音声からは口調も、心なしか性格までも変わっているように聞こえる。とても女性の口調だとは思えない。




