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鉄壁の鎧(ガーディアン)

 ジョーイは病院で緊急手術を受けていた。ハートの攻撃により致命傷を負った彼は、意識不明のまま、病院に担ぎ込まれた。平子と隼人の二人は、手術室の前で、黒い5人掛けのソファに座り、彼の無事を祈った。

「ジョーイ、きっと大丈夫よね?」

「ああ、平気さ。僕らは帰ろう」

 隼人は言いながら、帰り支度を始めた。その姿を見て、平子の顔が強張った。彼女は隼人の肩を両手で掴んだ。

「ちょっと、仲間が危ないのに、最後までいないの?」

「僕が言いたいのは、ここに三人で固まっているのは危険だと言いたいんだ。敵はこの病院にいるかも知れないんだぞ。もしここで、敵の襲撃を受けたら、ジョーイはどうなる?」

「それは・・・・」

 隼人は平子の手を払うと、鞄を肩に掛けた。そしてそのまま病院から立ち去ってしまった。

「・・・・」

 平子は手術室をチラッと見ると、同じように病院から出ようとした。

 病院の長い廊下を歩いていると、白髪の茶色い帽子を被った初老に見える男性が、壁にもたれ掛かっていた。平子はその男性の横を通り過ぎた。


「そこのお嬢さん」

 男性は平子がすれ違うと同時に、男性は平子の右手を握った。

「え、ちょ・・・・何、痴漢?」

 平子は戸惑いながら、男の手を振り払った。

「私は、竜と申します。あなたは何やら悩んでおられるように見える」

 男は穏やかな口ぶりで、平子を包み込むように微笑みかけた。

「悩んでいますけど、何か?」

 平子は首を傾げ、男の顔を見た。どうも一度何処かで会った気がするのだ。話し方からして悪い人物には見えないが、何となく不気味だった。幽霊と会話しているような不思議な感覚だ。

「私は君の敵ではないから安心しなさい。そして君をいつでも見守っている」

「は、はあ」

 平子は眉間に皺を寄せながら、無理矢理に笑顔を作った。突然現れた奇妙な老人によって、シリアスな気分を壊されたみたいで、どうしたら良いのか分からなくなっていた。


「とにかく、私は帰ります」

 平子は男に別れを告げると、逃げるように病院から出て行った。

「はあ・・・・」

 平子は街中を歩いていた。普段ならばジョーイが何か言って、ふざけてくるのだが、彼はいない。冷静に考えれば考えるほど、空しい気分になる。

「ん・・・・?」

 平子の両足の間にトランプのカードが一枚刺さっていた。彼女は気になり、道路に刺さったカードを抜いた。カードはクラブのだった。赤いクローバーマークが六個描かれている。

「このカードは・・・・?」

「それはお前にやるぜ」

 平子の目の前には、不健康なぐらいに白い肌をした、痩せ型の男が立っていた。彼はニヤニヤと笑うと、平子の持っているクラブの8を指した。

「それは俺のコードネームさ。俺の名はクラブ、あんたを殺すように言われている」


 平子はクラブを見て、悪戯っぽく笑った。

「ありがとう、来てくれて。ジョーイの仇を討ちたくてウズウズしてたところよ」

「へえ、まあ君の仲間を殺したのは僕じゃない。それよりも君は可愛いね。僕の好みのタイプだ。上からは殺すように言われているが、僕の奥さんにならない?」

「奥さん?」

 平子は思わず吹き出してしまった。クラブの口から発せられた奥さんと言う言葉が、よほど滑稽に感じたらしい。それに対してクラブは不愉快そうに舌打ちをした。

「悪いが僕を馬鹿にするのは許さない。少し痛い目を見るか」

「何が奥さんよ、ぷぷ、受けるぅ~」

「後悔させてやる。ガーディアン」


 クラブが叫ぶと、彼の体を青い光が包み込んだ。そして西洋の甲冑姿に変貌した。

「シルバークイーン」

 平子の手に、銀色の剣が出現した。彼女はそれを振り回すとクラブに向かって走った。

「死ねえええええ」

 平子はその場で跳躍すると、クラブの頭上目掛けてシルバークイーンを振り下ろした。

「くくく・・・・」

 クラブは笑った。そして構えるわけでもなく、防御するわけでもなく、ただ棒立ちになっていた。まるで平子の攻撃など意に返さないように。

「こんのおおお」

 カキンッという金属のぶつかり合う音が鳴り響いた。

「ええ・・・・?」

 平子のシルバークイーンが真っ二つに砕けた。それに対してクラブの鎧には傷一つ付いていない。彼女はそのまま後ろに倒れ、尻もち突いた。

「そんなことって・・・・」


 平子は自分のパンドラに自信があった。純粋な力の衝突では負けないという自負があったのだ。しかし彼女の剣は、彼女のシルバークイーンは鎧を破壊できないどころか、逆に自分が砕かれてしまった。そのショックは計り知れない。

「けけけ、気の強そうな顔も可愛いが、弱気な顔はもっと良いね」

「待て」

 突然、鉄糸がクラブの甲冑の腰に巻き付いた。

「隼人」

 平子は叫んだ。隼人は自身のパンドラ、ネットワークによって、クラブの甲冑を捕えた。

「このまま、空まで飛ばしてやる」

 隼人は鉄糸を両手で掴み、上に向かって引っ張った。しかしクラブの体はビクともしない。それどころか、隼人の腕から血が流れていた。

「うぐああ」

「隼人、能力を解除して、手から血が出てる・・・・」

 隼人はネットワークを消した。クラブを拘束していた鉄糸が同じように消える。


「僕のパンドラ、ガーディアンは3トンの重さだ。持ち上げられるわけがないだろう」

 クラブはニヤリと嫌らしく笑うと、地面を蹴って、一気に隼人の目の前まで跳んだ。そして拳を握りしめると、隼人の顔面を殴りつけた。

「ごは・・・・」

 隼人は錐揉み上に回転すると、そのまま道路に投げ出された。顔は異様に膨れ、瞼などは内出血を起こし、青くなっている。

「けけけ、ガーディアンを纏っているので、威力は100倍。顔面の骨は砕けているだろうぜ」


 平子は絶望したように項垂れた。間違いなく最強のパンドラだと思った。今まで闘ってきた者達は、少なくとも攻撃が通じた。しかし今回の相手は、全く傷つくことがない。まさに鉄壁の壁だった。

「あの鎧は重そうじゃのう・・・・」

 平子が震えていると、先程病院にいたはずの、平子が会った男、竜が現れた。

「あなたは・・・・?」

「ほう、さっきのお嬢さんまた会ったね」

 竜は平子を見るとニコッと笑った。

「あの鎧が見えているの?」

「ああ、もちろん」

 平子は思った。この竜という男はパンドラ能力者だ。そして只者ではないとも思った。温厚で物腰が柔らかい態度と、それとは裏腹に鋭い目で、クラブのことを見ている。

「爺、お前は何者だ?」

 クラブが怯えたように叫ぶ。この反応からして、少なくとも敵側の人間ではないらしい。そうなるとますます、謎が深まっていく。この老人は何者なのだろうか。平子の中にいくつもの疑問が浮かんだ。


「平子ちゃん。良いことを教えてあげよう。どんなに頑丈な物にも綻びはある」

「えっ?」

 竜はそれだけ告げると、ホッホッホと笑いながら、横断歩道を渡って、何処かに行ってしまった。

「今の奴は何だ。まあ関係ないか」

 クラブは龍を遠目で見送ると、すぐに平子の方に視線を戻した。しかし既に彼女はそこにはいなかった。道路に吹き飛ばしたはずの隼人もいない。

「な、逃げられただと・・・・」


「おい、九条さん。何処に向かっているんだ?」

「東京湾よ」

 平子は隼人に肩を貸しながら、ゆっくりと歩いた。そして東京湾に着くと、船着き場に隼人を座らせた。

「何故、海に来たんだ?」

「大丈夫よ。私に任せて」

 平子は明暗を思い浮かんだのか、瞳をキラキラと輝かせていた。それは先程までの絶望に打ちひしがれていた彼女とは、全くの別物だった。

「おい、逃げやがったな」

 遅れてクラブも東京湾に現れた。鎧のせいか、息が荒く暑そうだ。

「ねえ、クラブ、取引しない?」

 平子はクラブの元に近付きながら言った。


「取引だぁ?」

「ええ、私は負けを認める。だから隼人は殺さないで」

 平子の発言に隼人の顔が歪んだ。彼女の明暗とは降参することなのか、彼はさっきの平子以上に絶望した顔で、二人の様子を見ていた。

「けけけ、じゃあ死ぬのはお前だけだな」

「それも嫌よ。だってさっき、あなた、私を奥さんにするって言ったじゃない?」

 平子は顔を赤らめると、モジモジと内股で、さらに上目遣いでクラブを見た。

「さっき、僕の奥さんにはならないって・・・・?」

 平子は誤魔化すように咳払いした。

「気が変わったのよ。女心は秋の空よ」

「へえ、そういうもんか」

 クラブがどれほど理解したのかは疑問である。しかし少なくとも、兜の中での彼の表情は、もう平子と結婚することしか考えていない、幸せの絶頂とでも言うべき、満面の笑みであった。


「何だ、僕に惚れているのか?」

「やめて、恥ずかしい」

「へへへ、来いよ」

 クラブは平子を強引に引き寄せると、彼女の顎に手を添えて、クイッと持ち上げた。

(この茶番はいつまで続くのだ・・・・)

 隼人はもう限界だった。平子のことは信用しているつもりだが、彼女の行動の真意が掴めなかった。

「じゃあ、こっち来て」

 平子は船着き場の先端まで、クラブを誘導すると、自分から甲冑姿のクラブに抱き付いた。

「ねえ、キスしようか」

 平子は、とても彼女のセリフとは思えないような言葉を吐いた。

「も、もちろんよ」

「でも、甲冑姿じゃキスできない」

 平子は残念そうに俯いた。隼人はここで彼女の真意を理解した。彼女はクラブにパンドラを解除させ、そのスキに攻撃をするつもりなのだと。しかしそんな安い手に敵が引っかかってくれるかは、甚だ疑問が残るが。


「おお、分かった」

(引っかかりやがったぞ)

 隼人は心の中でガッツポーズした。クラブはまんまとガーディアンを解除し、元の姿に戻った。そして平子を抱きしめた。

「さあ、キスしよう」

「ええ」

 平子は暗い笑みを浮かべた。そしてクラブの腰を掴むと、そのままプロレス技のブレーンバスターをお見舞いした。クラブの体は宙を舞い、東京の海に真っ逆さまに転落した。

「うげああああ」

 クラブは海の中でバタバタと両手を動かし苦しんでいた。その姿を横目に、平子は隼人の元へ駆け寄った。

「さ、流石九条さんだ」

「へへ、どうよ見直したでしょ?」

 平子は舌を出して笑った。背後ではクラブが恨めしそうに、彼女の背中を睨み付けている。


「馬鹿が、安心するのは早いぜ。もう一度ガーディアンを発動する」

 クラブは再びガーディアンの甲冑を纏った。しかしそれこそが彼の失敗だった。そして平子が真に狙っていた策だった。

「な、何だ」?」

 先程の竜の言葉、どんな物にも綻びがある。その答えは海に合った。竜の言った重そうな鎧は、海に入ることで、より重みを増して行く、クラブはガーディアンを解除しない限り、鎧の重さで、海の底へとどんどん沈んで行ってしまうのだ。それに気付かない彼は、甲冑のまま、海の底へと沈んで行った。


「まずい、そうか甲冑の重みが、だがここでパンドラを解除したら」

 クラブの選択肢は二つあった。一つはパンドラを解除すること、パンドラを解除すれば、鎧の重みから解放される。しかし今度は窒息死の危険が生じる。逆に甲冑を解除しないという方法もある。少なくとも、鎧は頑丈であり、ガーディアンは例え、核爆弾を撃たれてもビクともしない強度を誇っている。だがそのままでは、海の底の、真っ暗な深海まで、永遠に落ち続け、死ぬこともできずに、安全で退屈な世界の中、餓死を待つこととなる。どちらを選択しても地獄、彼は後者を選んだ。深海の奥でひっそりと死を待つ選択をしたのだ。

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