盗賊王の秘術(バンデッドアロー)
隼人がハートと接触したのと丁度同じ時間、平子は隼人とは反対方向の道を歩いていた。彼と平子の通学路は真反対なのだ。
平子がいつも上る坂を越え、家路を急いでいると、道路の真ん中に黒いコートに、黒い帽子を被った大柄の黒人の男がとおせんぼうするように立っていた。異様な雰囲気に警戒心を抱いた平子は、歩道の端を通り、すれちがったが、即座に強い殺気を感じ、男の方を向いた。
「あんた、何者?」
「流石は、我が標的だけのことはある。私の殺気を感じていたか」
男は突然右手を突き出した。右腕ごと青い光を発すると、5本もの矢を備えたボウガンが出現した。そして男はボウガンを平子に向けた。
「これが我がパンドラ、その名も盗賊王の秘術だ。そして私のコードネームはダイヤ。お前を始末するために待っていたぞ」
「ちっ、シルバークイーン」
平子の右手が同じく青い光を放った。彼女の右手に銀色の刃を持つ剣が現れた。
「遅いぞ」
ダイヤはボウガンの矢を放った。しかしそれは平子には当たらず、彼女の右手の影に刺さった。
「これは・・・・?」
「影縫いというものを知っているかな」
矢が刺さった右手の影が千切れた。そして平子の影が不自然に右腕だけなくなっている。
「あぐ・・・・」
平子は右腕を押さえた。見ると右腕が影のように黒ずんでいる。そして感覚がないばかりか、動かすことすらできなくなっていた。
「私のバンデットアローは、影に刺すことで、その影に対応した、体の部分を奪うことができる。だが安心しろ、私を倒せば影は戻るぞ」
「そんなこと、どうして教えてくれたのよ・・・・」
「不公平だからだ。私はお前のシルバークイーンを、事前に調べていたので知っていた。だからお前にも、私の能力を教えておいてやらねばな、私のルールに反することになる」
ダイヤは言いながら、ボウガンを再び構えた。平子は唾を飲んだ。右腕はダイヤの言うとおり動く気配はない、本当に右腕を奪われたとしか思えなかった。
「喰らえ」
ボウガンから矢が放たれる。平子は後ろに飛んで避けた。すぐさま別の矢が飛んでくるが、それをシルバークイーンを横に薙ぎ払うことで、全て折った。
「左手は闘い難いわ」
「にしては、私のボウガンを叩き落としている・・・・」
平子はシルバークイーンを一旦消すと、ダイヤから走って逃げた。
「ひとまず退散よ」
平子はしばらく走ると、ビルの谷間の路地裏に隠れようと右に曲がった。
「させぬ。バンデッドアロー」
ダイヤの右腕から矢が放たれ、平子の右足の影を突き刺した。同時に右足の影が平子の元から離れていく。ダイヤはボウガンを、自らのパンドラであるバンデッドアローを、平子に向けながら近付いた。
「これで動けまい。最早、影を奪う必要はないので、次は直接バンデッドアローを、お前の体に突き刺してやろう」
「へへ、さあ、どうかしらね」
平子は路面を這いずりながら、路地裏に入った。そして行き止まりまでゆっくりとナメクジのように進み始めた。それを見たダイヤは思わず溜息を吐いた。
「情けないぞ。そうまでして助かりたいか」
「行き止まりまで行ければ・・・・」
「行き止まりに何があるのだ」
ダイヤは子供をあやす親のように、大股でゆっくりと平子を追い詰めた。そして彼女が行き止まりまで到達したとき、ボウガンの矢を彼女に向けて放った。
「ぐうう」
矢が、平子の太ももに刺さった。矢先が彼女の鮮血で真っ赤に染まる。平子は苦痛に顔を歪ませながら、近くのゴミ箱を背に立ち上がった。
「あんたの負けね・・・・」
「時間稼ぎはやめろ。これで終わりにする」
ダイヤは平子に最後の攻撃を仕掛けた。狙いは急所、彼女の心臓だ。
「シューティングスターブレイカー」
平子のシルバークイーンから金色の斬撃の光線が放たれた。
「し、しまった・・・・」
これがダイヤの辞世の句となった。平子が路地裏に彼を誘き寄せたのには理由がある。それはこの技を確実に当てるため。彼女のシューティングスターブレイカーは、一直線にしか放つことができない。つまり途中で、カーブさせるといった工夫ができず、左右に避けられるリスクがあった。だからこそ、彼女は絶対に避けられない、狭い道幅の場所を探していた。そこがまさに路地裏だった。
ダイヤは路地裏の奥まで来てしまったために、出口に走っても、平子の攻撃よりも先に路地裏を出ることはできない。
「があああああああ」
ダイヤの体が熱を放ちながら宙を舞った。そして縦に、頭の先から股の間まで真っ二つに斬れた。
「はあ・・・・はあ・・・・」
平子の手足が元に戻る。同時に平子も倒れた。
(危なかったわ。もっとズルく闘えば、あんたの勝ちだったわね)
平子はホッと胸をなでおろした。
四方を森林に囲まれた古びた洋館、その奥の階段の下でキングは水晶を見ていた。透明なガラスの先には、平子と隼人の闘っている映像が映し出されている。
「く、くそおおお、何という愚だ。刺客が次々と倒され、ワシは神崎様に会わす顔がない」
キングが唸っていると、会談の扉が重苦しい音と共に開いた。中から青い髪の女性が現れる。
「ジョーカーか・・・・」
キングは背中まで伸ばした青髪の女性を見てそう呼んだ。
「貴様の手下がどんどん倒されているが、どうするつもりだ?」
「心配はいらん。今、クラブが九条達を始末しに向かっている。奴らの死体は必ず神崎様に献上する」
「だと言いがな」
ジョーカーはそう付け加えると、階段を上り、重苦しい扉を閉めた。
「あの女め・・・・」
キングは恨めしそうに扉をずっと睨み付けていた。




