ひと夏の出会い
夏休みもそろそろ終盤!! いや〜、おうちでまったりしたりいっぱい遊びに行ったり勉強したり!! 本当に充実した夏休みだったな!!
というわけで私は大学まで来ていた。絶賛学内のカフェで涼み中。アイスコーヒー美味しい〜……快適〜……勉強も捗る〜……。
私はアイスコーヒーを飲むがてらカフェの外を見つめる。外には沢山の人たちが歩いていた。大体が制服を着ていて……そっか、今日はオープンキャンパスだもんね。貴重な夏休みに、皆まじめだな〜。
……あ、ちなみにうちの大学も夏休みは終わってないよ! 授業期間中にやっちゃうと、人がいすぎてオープンキャンパスなんて落ち着いて出来るわけがないからね。じゃあ私はなんで大学に来てるかというと……。
「ふわり、お待たせ」
名前を呼ばれ、私は顔を上げる。そこにあった見慣れた大好きなふわふわなお顔に、私は思わず口元を綻ばせる。
「ゆいくん! サークルお疲れ様っ!」
「ありがとう。まあ、作品提出してきただけなんだけどね」
私の言葉に、ゆいくんは少し照れたように頬を赤く染めながら笑う。ん〜〜〜〜っ本当に可愛い! 相変わらずふわふわ〜なゆいくんに抱きつきたいけど、ここは大学だし夏だから暑いし我慢我慢。
「もっとゆっくりしてきても良かったんだよ?」
「いや……これからサークル見学の時間が始まるらしくて、『西園寺がいるとイケメン目当ての入部が増えて困るから帰れ』って言われて……」
「そっかぁ」
確かにゆいくんは、すっごいイケメンさんだもんね! 人が集まっちゃう、っていうのも分かるかも。うんうんと頷いてから。
「じゃあこの後は予定通り、ちょっと勉強してからお家に行く、って感じでいいかな?」
「うん、それで大丈夫」
「分かった!! ……それじゃあ私、ちょっとお手洗い行ってきてもいいかな?」
「もちろん。荷物見てるね」
「ありがとう! 行ってくるね」
私はゆいくんに断ると、足早にカフェから出る。いや~、さっき行こうと思ったんだけど、カフェの中のトイレはちょっと故障中だったらしくて使えなかったんだよね。流石にカフェから出ると荷物が心配だったから……ゆいくんが予想より早く帰って来てくれて良かった。
というわけでカフェ内の次に近い、講堂のトイレに向かう。さっきまでオープンキャンパス──主にこの大学の説明をやっていたみたいだけど、これからサークル見学が始まるっていうくらいだし……もう人はいないよね?
そんな私の予想通り、講堂はもう人が居なくて閑散としていた。というわけでありがたくトイレを使わせてもらう。きちんと手を洗い、ついでに髪を整えて、ゆいくんの元に戻ろうと思い……。
──人を、見つけた。
どうしようこれ、と俺は1人、いたたまれない気持ちになっていた。
「ご、ごべんなさいっ、わたっ、ぐすっ、私っ、月ちゃんがっ、月ちゃんとっ……」
「……大丈夫だよ。大丈夫だから、ゆっくりお水飲んで?」
「はいぃ……」
目の前で大泣きしているのは、どうやらこの大学にオープンキャンパスに来たらしい女子高生だった。そして俺はその女の子に、紙コップに入れた無料の水をひたすら汲んではあげて、汲んではあげて……を繰り返している。
というのも、この席からは外の景色が良く見えるのだが……1人でキョロキョロ辺りを見回して、大泣きしている子がいたから。そして誰も声を掛けない、というか避けている様子だったから……放っておけなくて。
少し前までは、俺も避ける立場だっただろうけど……あんまり恩とか着せたくないし。だからなんか今更、善人ぶってるみたいで嫌だけど。
それでも俺も、ふわりに相応しい人間でありたいから。
……けど。
「ぐすっ、うぐっ、ぇぐっ……」
なんかここまで泣かれると、俺が泣かしてるみたいだな……。
ずっと泣いているから、名前すら聞けていない。出てくる単語は「るなちゃん」ばかりだし……泣いている理由も把握できない。本当にどうするべきか。
ふわり、早く帰ってきて……。届かない願いを、俺は心の中で唱えるのだった。
「ん……」
「あ、起きた? 大丈夫?」
横から声が聞こえて、私は声を掛ける。起き上がった黒髪の女の子は、明らかに警戒をしたような目線をこちらに向けて来ていた。
「何……なんですか、貴方」
「私は不破ふわり!! ふわふわなものが大好きで……じゃなくて、この大学の者です。はい学生証」
警戒を解くため、私はICカードと一緒に入れていた学生証を取り出し、その女の子に見せる。彼女は不機嫌そうにそれを受け取ると、ふぅん、と短く呟いた。
「……あたしに何か用ですか」
「用っていうか……うーん、こんなに人気のないところで女の子が1人で寝てるのも危ないなーって思ったから、見張りみたいな?」
「……そうですか。お気遣いどうも」
女の子は私に学生証を返しつつ、どこかトゲトゲした態度でそう言うと、ベンチから立ち上がる。私も慌てて立ち上がった。
「もう立って大丈夫なの?」
「寝てただけなので」
「熱中症とかじゃ」
「寝ちゃう病気なんです」
女の子は短くそう言うと、スマホを弄って何かメッセージを打ち始める。寝ちゃう病気……。
「ナルコレプシー?」
「……よく知ってますね」
私が聞くと、女の子はスマホにかまける手を止める。驚いたようにそう言うので、私は首を傾げた。
「一般的な知識の範囲だと思うけど」
「……あたしの周りは、知らない人が多かったので」
「そうなんだ、じゃあ私がたまたま知ってただけか~」
覚えはないけど、たぶん本とかで読んだんだと思う。それで知らないうちに記憶してたのかな?
女の子はまたスマホを弄り始める。またすぐに手を止めると。
「……あの、この大学の人って言ってましたよね」
「うん!!」
「じゃあ、カフェってどこか分かりますか」
そう聞かれ、大きく頷く。どこも何も、すぐ目の前なんだけど。
「私もカフェで人を待たせてるから、案内するね!!」
私がそう言うと、助かります、と女の子は……ようやくふわっと、笑ってくれたのだった。
そしてカフェに着くや否や。
「ッ……日葵!!」
「あっ、る、月ちゃん……っ!!」
女の子はすぐに駆け出し、おさげの女の子を抱きしめる。その子はぽろぽろと大粒の涙を零していた。
感動の再会……!! と思っていると、黒髪の女の子はおさげの女の子の隣に居た──ゆいくんを睨みつけて。
「あんた、日葵に何したの。こんなに怯えて、泣いて」
「えっ、いや、その」
「るっ、月ちゃん……!? ち、ちがうの、その人は……!!」
「──えっと、るなちゃん? ちょっと待ってほしいんだ」
私も慌てて駆け寄ると、間に割って入る。ふわり、と後ろから安堵をしたようなふわふわなゆいくんの声が聞こえ、なんですか、と前からトゲトゲした黒髪の女の子──るなちゃんの声が響いた。
「この人は私の恋人なの。だからこそ分かるけど、絶対に悪意を以って人を泣かせるような人じゃないよ。だからね、お話を聞いてほしいんだ」
「……恋人からの意見なんて、私情が入ってそうで参考になりませんけど」
「る、月ちゃん、その人、やさしい人だよ……っ」
私からの申し出はどうやら響かなかったみたいだけど、おさげの女の子が後ろからるなちゃんの裾を引くと、涙交じりの声でそう援護してくれる。そこでるなちゃんは、ようやく言葉を詰まらせた。
私とゆいくんを交互に見つめ、熟考した後……。
「……すみませんでした」
「い、いや……誤解が解けたなら良かったよ……」
るなちゃんはゆいくんに謝罪をし、深々と頭を下げる。ゆいくんは苦笑いを浮かべながら、それを肯定するのでした。
大神月ちゃんと、兎沢日葵ちゃん。どうやら2人は、この大学にオープンキャンパスに来たらしい。
だけど説明会が終わった段階で、人混みにもまれて2人ははぐれてしまった。ひまりちゃんは外に追い出されて、るなちゃんは講堂の中にいたまま。
もちろんすぐに合流しようと思ったけど、るなちゃんは眠る予兆を感じて講堂の移動スペースに置かれたベンチで横になった。案の定眠ってしまい、たまたま講堂のトイレを使用した私はそこに合流。
そしてひまりちゃんは、るなちゃんがどこかで眠ってしまったのではないか、それで変な人に捕まっていたらどうしようとパニックになってしまい、そこをゆいくんが発見。カフェの中に入れてあげて、落ち着くまで傍にいたみたいだ。
それで私たちは、てっきり2人はお友達同士だと思っていたのだけれど……。
「ああ、いえ。友達じゃなくて……恋人なんです、あたしたち」
「る、月ちゃんっ」
「別に、隠すようなことでもないでしょ? 誤解されたままも嫌だし」
「もう……。あ、えっと、2人で一緒の大学に通いたいなって、一緒に見学に来たんです」
るなちゃんは堂々と、ひまりちゃんは少し恥ずかしそうにしながら、そう教えてくれた。
「そうなんだ!! すっごくふわふわな仲良しさんだもんね、一緒の大学に行けるよう、応援してる……!!」
「ふわふわ……は、よく分かんないですけど、まあ、お2人のお陰で大学の雰囲気はよく分かりました。ありがとうございます」
るなちゃんの言葉に、私とゆいくんは思わず顔を見合わせる。何か教えたっけ?
すると私たちの様子に、るなちゃんは小さく笑って。
「こんな優しい先輩たちがいるなら、どこで寝ても一安心、ってことです」
「も、もう月ちゃんっ、流石に大学の単位を落とすのは、すっごくマズいと思うよ!?」
「えー、日葵が起こして?」
「私は釣られちゃうからだめーーーーっ」
「……やっぱり2人とも、すっごくふわふわだね!」
「……そうだね、すごく仲良しだ」
私の言葉に、ゆいくんも笑って頷いてくれる。それを聞いてるなちゃんとひまりちゃんの2人も、やさしく笑い返してくれるのでした。
ふふっ、2人がこの大学に来てくれたら嬉しいな!!
現時点ではカクヨムのみで公開している、「月は太陽にご執心!?」とのセルフクロスオーバー小説でした。この2作品、たぶん同じ世界だろうな……という何気ない思い付きからの短編です。
いつかなろうでも公開するつもりなので、気長にお待ちくだされば幸いです!




