第35話「トップオブふわふわ」
すれ違いを経て付き合い始めた私たちは、誤解も解消し、ふわふわ~な気持ちで一緒に過ごせるようになった。こんなに嬉しいことはないよねっ!!
「ゆいくんあのねっ、今日ねっ、ふわふわのポメちゃんがお散歩しててねっ、本当に動くたびにふわっ、ふわってしてかわいくてねっ」
『うん』
今日の夜は、それぞれのお家から電話をしていた。私は今日あったことを話して、ゆいくんは楽しそうに相槌を打ってくれる。いつもこんな感じ。ゆいくん、聞き役が上手いんだよね。
一回、「いつも私ばっかりだし、話したいことあったら話してもいいんだよ」と言ってみたけれど、「うん、話したことがあったら話すね。でも俺は、ふわりの話を聞くのが好きだからいいんだよ」と返されてしまった。たぶんあの言い方からして、自分から話を振るのが苦手なんだろうな……。
まあ、私の話を聞くのが好きだと言ってもらえたのだから、きっとそれでいいのだろう。本当に話したいことがあったら、言ってくれるだろうしね!!
「思わず手を振っちゃったら、飼い主さんが触りますか? って聞いてくれて、ふわふわも堪能できたの!! 本当に、触り心地良かったなぁ」
『……そうなんだ、良かったね』
「あ、心配しなくても私の『トップオブふわふわ』はゆいくんだからねっ!!」
『いや、別に心配とかしてないけど……っていうか、トップオブふわふわって何』
そう言ってゆいくんが電話の向こう側で笑う。ああ……きっとすっごくふわふわな笑顔をしてるんだろうな!! う~~~~っ、見れないのが惜しいっ!!
一回テレビ電話を提案したことがあるんだけど、恥ずかしいからって断られちゃったんだよね。まあ、そういうことは無理強い出来ない。私は我慢するしかないのでした。
……でも、会えたら誰よりも近くでゆいくんのふわふわなお顔が見られるからね!! 専売特許ってやつだ。うん、違うと思う。
『……ふわり、あのさ』
「うん、どうしたの?」
なんて考えていたら、ゆいくんがそんな風に切り出す。私は意識を電話に戻し、ゆいくんの言葉を待った。
『その……別に責めたわけじゃなくて、ただ話の流れとして必要だったから話しただけなんだけど』
「うん」
『ふわりが、俺と柚葵さんの話を聞いて、俺が柚葵さんに付いて行くと早とちりして、それで、その後ちゃんと話して誤解を解いたって話をしたんだけど』
「うんうん」
『なんかそれで……お詫びって、俺とふわりに、旅行券的なのくれて……』
「……えっ?」
ぱちくり、と思わず瞬きを繰り返す。
柚葵さん。私とゆいくんが付き合ってから数日後、また旅に出てしまったとゆいくんから聞いた。ふわりによろしくだってさ、とゆいくんから言われて、お見送りとかしたかったなぁ、と私は落ち込んだ。
「ゆ、柚葵さんは何も悪くないのに!?」
『俺もそう言ったんだけど、いいから受け取りなさいって……なんでも、懇意にして貰ってる旅館の人から、券を貰ったけど、ちょっと今回の旅のルート的に寄れなそうだから、善行だと思って受け取って、って……』
「……そっか……」
そう言われてしまったら断れない。断ると、せっかくの厚意を無駄にしちゃうだろうから。
「……じゃあ、行こっか!! いつ行く? というか場所は?」
『あ、旅館の場所、送っておくね。予定は……俺はお盆明けとかだと開いてるかな。ふわりは?』
「私も……うん、結構開いてるよ。まとめて日程を取るとしたら、五日間程度かな」
『……五日間、旅行するの?』
「え、いや、まとめて取れる最長が五日間ってだけで」
私がそう返すと、しばらく無言が私たちの間を蔓延る。長いってことかな、とか考えたりして、私からは何も言い出せない。
するとゆいくんが小さく呟いた。
『……五日間、丸々、ふわりとの時間が欲しいって言ったら……迷惑ですか……』
「……」
ああ、きっと、顔を真っ赤にして勇気を振り絞って言ってくれてるんだろうな、と思った。私には見えない、かわいい顔で。
そう思うと心がきゅんきゅんして、顔が見えないもどかしさに呻きたくなって。またふわふわじゃない気持ちが込み上げてきて、でも私はそれを拒まない。
これも、ゆいくんが受け入れてくれた、ゆいくんに対する大事な気持ちの一つだ。
「いっぱい、いちゃいちゃ、したい?」
『ッ……』
ゆいくんが息を呑む声が聞こえる。あ、とか、その、とか何度か呟いた後で。
『……うん』
蚊の鳴くような小さな声で、ゆいくんはそう頷く。私は微笑んでから、私もだよ、と返して。
「旅行、楽しみだね」
私がそう言うと、そうだね、と少し不機嫌そうな声でゆいくんがそう返してきた。