第36話『……遂に明日だね』
日程を決め、当日のギリギリまで旅行のプランを二人で練った。といっても、お互いガチガチ~に予定を入れるのはあんまり好きじゃないということで、とりあえず行きたいところをピックアップして後は適当、行けない場所があったらドンマイ! ということで落ち着くんだけどね。
「お土産ってどういうのがあるのかなぁ」
『有名どころだと……やっぱり和菓子とかが人気みたいだよ。あんまり日持ちしなさそうなのが難点だけど……』
「そうだよね~。やっぱり最終日はどこかを見るじゃなくて、お土産を見る日にして……ってした方がいいよね」
そうしたら消費期限があるものでも人に送れる可能性が高くなる。私の言葉に、そうだね、とゆいくんは頷いた。
……遂に明日から旅行か~。本当に楽しみっ♪
そもそも家族以外とそういう……旅行とか行くの初めてだし、その相手がゆいくんっていうのも嬉しくて、本当に本当にほんと~~~~……にっ、楽しみ!!!!
『……遂に明日だね』
するとゆいくんが同じことを考えていたらしく、私に向けてそう告げる。その声色はどこか楽しそうで、私はも~っと嬉しくなってしまった。
「うんっ!! 楽しみだね~。待ち合わせ、遅れないでねっ」
『……ふわりもね。今日は早く寝るんだよ』
「大丈夫!! 私、この前の動物園しかり、次の日が楽しみな時は早く寝ちゃうんだ~。それで、待ち合わせより早く行っちゃうの!!」
『……確かに、集合時間より早く来てたもんね』
「それを言ったらゆいくんだって」
『俺は……もし電車が遅延したらとか考えて……念には念を入れて、集合時間の一時間前くらいに着くようにしちゃうタイプで……』
「えぇ!? すっごい心配性だね!?」
『……遅れて迷惑掛けたくないからね』
「……でも、もしその日電車が遅延してたとしても……私も電車だから私も遅刻してただろうし、そんなに気にしなくてもいいんじゃないかな?」
『……や、それでもやっぱ、遅刻したくなかったから……』
「ゆいくんは優しいねぇ」
と言うと、別に優しいとかでは、と返されたので、それより! と遮って話を戻す。
「今日はお互い早く寝て、明日に備えようね~っ」
『……うん、そうだね』
「大変だろうし、早く来すぎないでいいからね?」
『……いや、それは心配だから……』
「でないと私がもっと早起きしてゆいくんのお家まで迎えに行っちゃいます」
『ごめんなさい、常識の範囲内で行くのでそれは勘弁してください』
「よろしいっ♪」
ゆいくんはやっぱり自分のお家があまり好きでないからなのか、私のこともお家に近づけさせてくれないんだ。一回お家に行ってみたいってそれとなく言ってみたんだけど、やっぱり断られちゃったし。
……でも、好きな人の住んでるお家、一回くらいお邪魔してみたいんだけどな~。逆にゆいくんは頻繁に私のお家に来てるし……あ、それが嫌なわけじゃないからね!! もちろん!!
『……じゃあ、今日はもう寝ようか。おやすみ』
「うん!! おやすみなさい~!!」
そう夜の挨拶をして、私たちは電話を切る。思わずスマホを抱きしめ、私はベッドに倒れ込んだ。
ふっふふ~ん♪ 明日は楽しみだなぁ~♪
荷物の準備はした、明日着るお洋服ももう出してある!! 後は寝るだけ!! 明日の今頃は、もう向こうに着いてて……。
「……」
ベッドに寝転ぶと……心なしか、ゆいくんの香りがする気がする。よくここで、一緒に寝たりしてるからかな。
「……早く会いたいなぁ、ゆいくん……」
きゅ、と布団を掴み、私は目を閉じる。明日が楽しみだなぁ、と心の中で呟くのと、意識が夢の中に落ちるのは、同時だった。
「ゆいくん、おはようっ!!」
「……あ、ふわり。おはよう」
今日は駅の中で集合だった。沢山の人の間をスーツケース片手に頑張って通り抜け、私は柱のすぐ傍に立っていたゆいくんに駆け寄る。
ゆいくんは……なんだか少し、ぼーっとしていたみたいだけれど……私が声を掛けると、すぐに顔を上げてくれた。
でもなんだか少し元気がないような気がして、私は首を傾げる。しかし、スーツケース持つよ、と言われ、私はハッとなった。そして大丈夫だよ、と言う間もなくスーツケースを取られてしまう。
「行こうか」
そう、彼が綺麗な笑みを浮かべるから。
「……うん」
私は小さく、そう返事をするしかなかった。
無事にチケットを改札に通し、ホームに出ると同時に私たちが乗る予定の新幹線が滑り込んでくる。わぁ、と瞳を輝かせ、私はそれを写真に収めた。
「どう? 上手く撮れた?」
「うんっ!! 撮れたと思う!! 後で共有するね」
「うん、ありがとう」
……やっぱり、元気がない気がする。彼の顔を見ながら、私はそう思っていた。
聞こうと口を開く前に、新幹線の扉が開き、行こうか、とゆいくんが優しく私の手を取る。そのまま手を引かれ、私はそれに付いて行くしかなかった。
そこでふと、視界の端に別車両に列をなす人たちが写る。彼らは制服を着ていて、中学生か高校生だろうということがすぐに分かった。修学旅行かな? でも今は時期的に夏休みだと思うんだけど……。
……というかあの制服、どこかで見たことがあるような……?
そう思いながら、私は新幹線の中に入る。するとあの学生たちのことなどすぐに忘れてしまって、私は瞳を輝かせた。
「すごい!! 結構広いね~!!」
「最近は本当に車内で快適に過ごせるから、いいよね。……えっと、席はこっちだから……」
そのまま手を引かれ、私たちは購入した席を確認し、そこに座る。ゆいくんは私のスーツケースを上にあげてくれた。私、身長が低いし重いものが持ち上げられないから……すごく助かるな。もし一人で乗ってたら、すぐ傍に置くしかないし。
ゆいくんは通路側に座り、膝の上にリュックサックを置いた。それは荷台に置かなくていいのかな……。
「ゆいくんは荷物、それだけ?」
「え? ……ああ、うん。何日分かの服と、パソコンくらいかな。足りなければ現地で買い足せばいいし」
「へぇ……すごい!! スマート!!」
「すごい……のかな。ありがとう」
どんな形であれ、私から褒められたのが嬉しかったのか、ゆいくんはちょっと嬉しそうに笑う。うんうん、その顔だよっ!!
「……ゆいくん、今日、ちょっと元気がないように見えるけど……どうしたの?」
「えっ……」
私が尋ねると、ゆいくんは驚いたように大きく目を見開いて。そして……少し困ったように、眉を八の字にしてしまった。
「ごめん……そう見えた?」
「うん。こう……いつもはふわふわっ!! って感じなのに、今日はちょっと……ぴしっとしすぎた笑顔っていうか、うーん、少し無理してるように見えるところがあるっていうか」
「……そっか……ごめんね、せっかくの旅行なのに」
「ううん、違うの、謝ってほしいんじゃないんだ。……どうかしたの?」
そう謝ってくるということは、きっと元気がないことに心当たりがあるってことだよね。私がその顔を覗き込むと、ゆいくんはさっと目を反らしてしまう。しかしすぐに私を見て、また逸らして。
「……実は……」
私がいつまでも目を反らさないことで諦めたのか、ゆいくんは私を見ないまま口を開く。
内容を聞いて、私が大きく目を見開いた。




