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理科室


「すこし、遠いですね」


 初仕事を終えて夜道を歩く道すがら。

 リズは遠くを見るように、そう言った。


「あの本屋さんまで、どのくらい掛かるんですか?」

「まぁ、ここからだと軽く一時間くらいは掛かるかもな」


 民家の屋根に上がり、最短距離をいけばの話だが。


「でも、本屋にはいかないぞ」

「え? でも、魔術組合の支部にいくのでは?」

「行くよ。でも、入り口は一つじゃない」


 そう言って、ぴたりと足を止める。

 ちょうど、その入り口にたどり着いたからだ。


「ここからでも支部には行けるんだ」

「ここは……ふみ……ぐ……むむむ」


 喫茶店は最初の文字で躓いていたが、今回は二番目で詰まったようだ。


「文房具、だよ」

「ぶんぼうぐやさん……」


 ひどく寂れた文房具屋。

 その朽ち具合は本屋と似たり寄ったりだ。

 ほこり臭いし、かび臭い。

 ここと本屋以外にも、支部に繋がる道は幾つかある。

 営業しているのか、していないのかわからないけれど、昔からある寂れた店。

 それを見つけたら、だいたいが魔術組合に関わる建物だ。


「手早く済ませてはやく帰ろう」

「そうですね。では、行きましょう」


 薄暗い店内を横断し、その奥にいる女性に話しかける。

 簡単に用件を伝えると、本屋のときのように更に奥へと通された。

 そこから階段を下り、魔術組合の支部へと足を下ろす。


「いつ来ても人が多いな、ここは」


 忙しなく働き続ける関係者を横目に、案内されるがまま窓口に向かう。

 そこでしばらく待っていると、担当の職員が現れる。


「いやー、お待たせしたっスー」


 非常に聞き覚えのある口調が聞こえてきた。


「おや、この前の。どうもどうもっス、なにかと縁があるっスねー」


 彼女は、以前にも世話になった若い職員だ。

 じーさん、ばーさんじゃあなくて、すこしほっとしている自分がいる。


「えーっと、今回の用件は……あぁ。ベクトファルケさん、初仕事の完遂、おめでとう御座いますっス」

「あ、ありがとう御座いますっ」


 改まった場所で緊張しているのか、リズはすこし上擦った声でお礼を言った。


「その報告と……未知の怪異の発見と討伐、ですか。詳しい話をしてもらえますか?」

「もちろん。ここに来たのは、そのためでもありますから」


 懐から怪異の残骸を取り出して机上におく。

 それから怪異の詳細を話し始める。

 彼女――名札を見るに新先あらさきさんは、それを逐一書き留めていった。


「っと、こんなところです」

「なるほど……異常な再生能力に液状化、肉体変異に双頭……容姿の特徴だけを抜き取ってみるとぬえのようにも思えますが……」

「恐らく、ですが。違うと思います」

「ですよねぇ……」


 新先さんも正体に見当が付かないのか、首を傾げていた。

 古くから息づく怪異は化石のようなモノで、姿を変えることは滅多にない。

 性質上、個体ごとに姿が違うものはいるけれど。

 そのいずれにも、今回の怪異は合致しない。

 新たに産まれた怪異なのか、それとも。


「あの、双也さん。鵺とはいったい」


 服を軽く引っ張られ、リズが小声で訪ねてくる。


「鵺ってのは、複数の動物の特徴を持った怪異のことだ。幾つかの動物からパーツを取って来て、一つにまとめてくっつけた怪異って言えば伝わるか?」

「なるほど……つまりは、キメラのような怪異ということですね」

「そう、それ」


 顔は猿。胴は狸。四肢は虎で、尾は蛇。

 鳴き声は鳥のトラツグミ。

 このように複数の動物の特徴を持っている。

 その一点のみであれば、双頭の怪異と一致する。

 だが、それだけだ。

 他があまりにも違いすぎる。

 復元に近い再生や、液状化。

 これらの能力を獲得した鵺など、聞いたことがない。


「わかりました。この件は残骸と共に上に報告しておくっス。何かわかりしだい、渡世さんのところにも情報がいくと思いますので」

「よろしくお願いします」


 魔術師として成すべき義務を成し、俺たちは魔術組合支部を後にする。

 それから真っ直ぐに学生寮にまで帰り、リズの初仕事は本当の意味で終わりを迎えた。


「今日はありがとう御座いました。双也さん」

「どう致しまして。次ぎの仕事はいつだっけ?」

「えーっと、三日後になっています」

「三日後か」


 それだけ期間が空けば、残骸を調べた結果もわかるだろう。


「それではお休みなさいませ。双也さん」

「あぁ、おやすみ。リズ」


 女子寮へと帰っていくリズを見送り、俺も男子寮へと舵を切る。

 色々と思うところはあるが、今日のところはひとっ風呂浴びて、寝るとしよう。

 考えるのは明日移行の自分に丸投げだ。



「――ふーむ」


 双頭の怪異の報告を魔術組合にしてから、三日目の今日。

 放課後になっても、来るはずの情報は来なかった。

 なにぶん未知の怪異だ。解析に手間取っているのかも知れない。

 しかし、それでも何かしら判明したことはあるはず。

 その情報すら流れてこないのは、どこか可笑しいような気がしてならない。


「どうしたもんか」


 実際、どうにもならないけれど。

 大人しく魔術組合から情報が降りてくるのを待つしかない。

 歯がゆい限りだが。


「……ん?」


 何気なく手を突っ込んだポケットに、硬い感触を発見する。

 取り出してみると、魔術組合に届けたはずの残骸が出てきた。

 どうやら一つ、届け忘れていたみたいだ。


「んー……これ、どうするかな」


 今更これ一つを届けに魔術組合にいくのは、流石に面倒だ。

 すでに十分な量の残骸を渡している。

 これを一つを加えたところで、解析が進むとも思えない

 かと言って、持ち続けるのもな。

 捨てるのは論外として、どうしたものか。


「……そう言えば」


 解析、調べるで思い出したけれど。

 一人、そう言ったことが得意そうな人物を知っている。


「行ってみる価値はありそうだな」


 玄関口へと向かっていた足は、踵を返して校舎の奥へと爪先を向ける。

 しばらく廊下を歩き、階段を上り、更に歩いた先に目的地はあり、その扉に手をかける。

 理科室へと、足を踏み入れた。


「んんっ? だれー? ここはいま私が使ってるから、用事があるなら後にしてほしいなー」

「安心しろ。用事があるのは理科室じゃあなくて、お前自身だよ。糸括」

「にゃ? あはー! 誰かと思えば怪異殺しくんじゃん!」


 糸括理緒いとくくりりお

 以前に、魔力を調べさせてくれと言ってきた女子生徒。

 魔力を調べて解析できるのであれば、怪異の分析と解明もできるはず。

 魔術組合から情報が降りてこない以上、自分から動くしかない。

 たとえ無駄に終わろうとも、どうせ行き場のない残骸のあまりだ。

 惜しくはない。


「渡世双也だ。怪異殺しって名前じゃない」

「うん? あぁ、そんな感じのことあの時も言ってたっけ? 細かいなー。まぁ、嫌なら怪異殺しと呼ぶのは止めておいてあげよー」

「助かる。双也でいい」

「なら、私も理緒でいいよー。それでー? 双也くんのご用件は? もしかしてっ、調べさせてもらえるのかなー? キミの魔力」

「残念ながら、用件は別だ。こいつを調べてみて欲しいんだ」


 そう言いつつ、懐から怪異の残骸を取り出す。


「なに? これ」

「怪異の骨」

「骨? ふーん。ちなみに、これの本体は?」

「すでに死んでる」

「なるほど、なるほど」


 理緒は、受け取ったそれの包みを開けて、じっくりと観察する。


「ほほーう。これは俄然、興味が湧いてきますなー。本体が死んでるのに、現世に残存し続ける肉体の一部なんて。とーっても珍しいし、面白そー!」


 怪異の残骸を目にして、理緒が造った表情。

 それは新しいオモチャを手にした子供のようだった。


「いいよ、わかった。ちょーっと調べてみるねー」

「あぁ、頼む。どれくらい掛かりそうだ?」

「そうだなー……一日あれば足りるかなー?」

「一日? たったそれだけか?」

「うん、そうだけど。どうしたのー? そんなに驚いて」

「……実は」


 俺は理緒に事の経緯を説明した。

 未知の怪異の出現。残骸の回収。魔術組合への提出。そして、それからすでに三日ほど経っていること。それらを順を追って説明した。


「ふーむ、それは可笑しいね。未知の怪異の解析なんて、最優先されるべきだし」

「やっぱり、そう思うか?」

「私が一日で出来ることを、魔術組合が三日かけて出来ないなんてことはないと思うの。たぶん、だけど」


 理緒は、真っ直ぐに俺と視線を合わせる。


「もみ消されてるかも」

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