お見合い
平野 静子とは僕の母親だ。
連絡を寄越すとは珍しい。
発信ボタンをタップしてソファーに座る。
すぐに母さんが出る。
「もしもし?」
「あ、もしもし。僕だけど」
「あら、かずちゃん?」
母さんからはかずちゃんと呼ばれている。
「うん。そうだよ。電話くれてたみたいだけどどうした?」
「そう。伝えたいことがあってね」
「ん?なに?」
「とおるちゃんがね。今日、彼女を連れてきたの。」
「……え?」
「だからね。とおるちゃんが彼女さんを連れてきたのよ。さっき」
とおるちゃんとは僕の弟のことだ。
とおるが…彼女を…?
「もしもし?聞いてるの?」
はっと我に返り応答する。
「あ、ああ。うん。聞いてるよ」
母さんは深呼吸をしてこう言った。
「とおるちゃん。その子と来月、結婚するんだって」
結婚っ!? 彼女を両親に紹介して結婚!?
僕よりも先に!?
何よりも先にその言葉が頭をよぎる。
と言うのも母さんは、古い考えの持ち主で長男は次男よりさきに結婚するべきだと考えているからだ。
「ちょっとかずちゃん?」
「え?ああ、母さん。そうかとおるももう結婚するのか。そりゃめでたいじゃないか」
精一杯、大丈夫なふりをしたが最後の方が皮肉になってしまったのは言うまでもない。
「ええ。めでたいことよね。彼女さんもとってもいい育ちの人だわ」
「へえ。そうなんだ。じゃあ良かったじゃん」
「そうね。で、かずちゃんの方はどうなの?紗子さんとは」
紗子とは僕の彼女… いや彼女だった人だ。
「別れたよ…」
電話越しに母さんがため息をついているのが聞こえる。
「あなたは平野家の長男なのよ!次男に先を越されてどうするの?!」
お決まりの文句から始まる。
「ああ。… うん…そうだね…うん」
と適当に相槌を打つ。
「だからねぇ。母さん考えたの。」
「ああ」
「お見合いしてみない?」
「ああ… え?」
「お見合いよ。お見合い。んで、とおるちゃんよりも早く結婚するの!どう?」
「いや。でも…」
「だってほらお見合いの方がいい家柄のお嬢さんとか選べるのよぉー」
僕はだんだん腹がたってきた。
「母さん」
「ん?なあに?」
「母さんは僕をなんだと思ってるの?」
「え? 平野家の長男の…」
「違うだろ。 平野家の長男である前に一人の人間だろ」
「え?ええ… 」
「僕は人間としての幸せを勝ち取っちゃいけないのかよ」
「そんなことは言ってないわ。ただ…」
僕は大げさにため息をついてみせると
「僕はお見合いになんか行くつもりはないから」
と言い、一方的に電話を切った。




