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新幹線の中の事件

ゆきの隣の人は40代くらいの、中肉中背の男だ。


「お前には人質になってもらう。運悪く、俺の席だったからだ。俺じゃなくて、神様を恨みな」


拳銃をつきつけられたゆきは、男にそう言われた。


「わ、わかりました」


ちなみにゆきは神様を何度も恨んだことがある。


「さっきの2人の男は、なんだ?」


男が言う、2人の男とは、ガキ大将と年下の男の子のことを指しているのだろう。


「ど、同級生です。偶然にあって」


「ほう。同級生2人に偶然会うことなんてあるんだな」


正確には、幼稚園の頃の後輩と小学校の先輩だ。さらに言うと、中学校の同級生と高校の教師にも会った。なんて事は、言わずにゆきは心の中でとどめた。

変に警戒されたくないからだ。


男は銃をゆきに向けてから、先程より落ち着いてきた。しかし、不安なのか多弁だ。無駄にゆきに話しかけてくる。



「俺は、同窓会なんて、全然いってねぇな。あんなのいっても、意味がねぇ。みんな、過去の話をして近況報告だ。売れ残りの女が独身の男を探す。俺なんて独身の、さらに新幹線運転士だったから、なおさらだ。餌食だ。あれは、人生初のモテ期ってやつだな。けど、タイプでもない女に言い寄られても、嬉しくはねぇ。それからというもの、同窓会を行くのを辞めた」


「そうなんですね。新幹線の運転士さんってすごいじゃないですか」


ゆきがそう言うと、男は顔をしかめる。


「チッ。つい余計な事を言っちまった」


「す、すみません」なんとなく謝るゆき。


「いや。ついそわそわして、話さないと気が済まねんだ」


「そ、そうなんですね。ちなみにお仲間は、同じ新幹線の運転士さんなんですか?」


「仲間?」


「え、えっと。今回、このようなことを一緒にするお仲間です。えっと、ただ気になっただけなんで、答えたくなければ結構です」


「ああ、これのことか」


男は、ゆきにつきつけている銃を、持っていない反対の手で撫でる。


「仲間なんていねぇよ。俺、一人だ。これは、ヤクザから大金を払って買ったんだ」


「そ、そうなんですね」


「俺は、絶対に許さねぇ。この、新幹線を、運転してる奴を知ってるか?」


「し、知りません」


「それは残念だな。俺の先輩だった奴だよ。奴は本当にサイテーな奴なんだ。もし、俺が普通の乗客で、奴が運転士って知ってたら、絶対にこの新幹線には乗らない。そんだけ、サイテーな奴だ。次は調べてから乗ったほうがいいぞ」


「そ、そうなんですか。私も、知ってたら、乗りたくなかった、です」


そうしたら、こんなことには巻きこまれなかったのに。

そして、生きてる状態で、また新幹線に乗ることは出来るのか、とゆきは心配になった。


「おっと。こんな話をしてたら、東京に着いちまう。お嬢ちゃん、ちょっと付き合ってもらうぜ」


男はそう言って、ゆきを立たせて2人で移動する。


男に言われるままに、ゆきが先頭を、その後に男が銃を突きつけながら、一緒に歩く。


ちなみに、銃と銃を持っている男の手には、ハンカチをかけて周りにわからないようにしている。



ゆきは焦っていた。


焦っている理由は、拳銃をつきつけられているということ、それだけじゃない。


1車両の方へ向かって歩いている事に、危機感を感じたのだ。








ゆきがいた新幹線の車両は2車両目の一番後ろの席だ。

2車両目と3車両目にあるデッキ(連結しているところ)にトイレがある。


1車両目と2車両目の前席の人でトイレに向かう場合、みんな必ず、ゆきのいた席の隣の廊下を歩かないといけなくなる。


3、4、5、6車両目の人は、トイレに向かう時は、2車両目の廊下を通ることがないだろう。



と、いうことは。


必然的に。


ゆきが偶然にも、出会った男4人は、1車両目か、2車両目の前席にいることになる。


その方に向かっているのだ。



2車両目を通過した際には何も起きなかった。

つまり、1車両目に、あの男達が集中しているのだ。



お願いだから、男を刺激しないで。


心でそう思いながら、ゆき達は、1車両目に足を踏み入れた。











ゆきは1車両目の廊下を歩く。

横目で席をチラチラみながら。


1車両目の一番後ろの席に、年下の男の子がいた。男の子は何を考えているのかわからない表情で、ゆきを見つめていた。


ゆき達は歩く。


真ん中の左側の席に教師、そしてその右斜め前にスポーツ少年が座っていた。

二人はゆきを見て、驚く表情を見せる。


ゆき達は歩く。


前方の席に、ガキ大将が座っていた。ガキ大将はゆきの姿を見て、動こうとするが、座り直し、ゆきの後ろにいる男をにらんだ。


ゆき達は歩く。



そして、乗務員室へ入った。

ゆきはひとまず安心した。

あの4人が変な接触をして来なかったからだ。


普通、一般客が乗務員室に入るのは異常なことだろうが、ゆきが横目で見る限り、乗車客で気付いている人はいなかった。あの4人を覗いてだが。


あの4人はゆきの異常を感じとっていただろう。

乗務員室に入るまで、強い視線を背中に感じた。




乗務員室には一人の女性がいた。

おそらく車内販売の店員だろう。


彼女が、なんですか?とゆきに尋ねきた。


ゆきの後ろにいた男が、逃げれないように、ゆきの首に手を回して、拘束する。

そして、車内販売の女性に銃を向ける。


「騒ぐな。打つぞ」


男の拳銃をみて、ヒッと悲鳴をあげかけた女性だが、手で口を塞いで震えた。


「これで縛れ」


男はゆきを解放して、女性に向けていた銃口をゆきに向ける。そう言って、どこから取り出したのか、縄をゆきに渡した。

ゆきが縄で女性を縛らないといけないらしい。


ゆきはしぶしぶと女性の手首と足首を縛った。


さらにその奥にいた、1人の車掌にも同じことをする。





ゆき達は運転室に入った。






「よう、先輩。久しぶりだな」


運転士は横目でゆき達を見た。

ゆきは男に拘束されて、こめかみに銃口を当てられてた。



「おっと、勝手にどこかに連絡したら、このお嬢ちゃんの頭が弾け飛ぶぜ」男は言う。



「な、なにが目的だ?」

運転士が緊張を隠せない声色と、身体を震わせて言った。




「先輩には、お礼を言いたくてよ。可愛がってくれて、本当にありがとな。あと、奥さんは元気か?子供も出来たんだってなぁ。あいつとの夜の生活はそりゃあ、いいだろう?昼は淑女、夜は娼婦っていうのはまさにあいつのことだよな。なぁ、先輩。いや、アナ兄弟とも言うのか?先輩に可愛がられて、辞めさせられた挙句に、彼女まで取られてたなんてナァ。けど、こうやって、先輩が幸せそうで安心したよ」



フッと笑いながら言う男。

運転士は震え、冷や汗をかいている。


「ゆ、ゆるしてくれ。お前には本当に悪いと思ってるんだ・・・」


「へぇ?その割りには謝罪に一度も来なかったなぁ」


「そ、それは・・・」








「ああ、もうすぐ東京駅だな。お前の死ぬ時間だ。さあ、死んでくれ」


男は銃口を運転士に向けた。




パァン、と銃声が響く。




運転士は、カクンと俯く。

ポタリポタリと運転士の膝に血が流れていた。頭から垂れているのだろう。


ゆきは呆然と立ち尽くした。


うわっ、と男の叫ぶ声が聞こえて、ゆきは振り向く。


いつの間にか、存在していた年下の男の子が銃を持ってた男の手をひねり上げたのだ。


そして銃が床に落ちた。


ゆきは誰かに引き寄せられた。

そして、その人物の背中に身を隠すような形になった。

ゆきを引き寄せたのはスポーツ少年だった。



男を殴り、押し倒してうつ伏せにさせ、後ろに男の手首をまとめて掴み、馬乗りで拘束しているのがガキ大将。



床に落ちた銃を拾う年下の男の子。


そして、運転室に車掌を引き連れてきた教師。

教師は、電話をしていた。

おそらく、警察に、だ。




車掌は、運転士を兼用している者だった。


死んでいる運転士を席から移動させて、血に濡れた席に、その車掌は震えながら座った。


当たり前だ。横で同僚が死んでいるのだ。










震えてるゆきに気付いたスポーツ少年がゆきの髪を撫でる。


「やっぱり、俺がそばにいなくちゃね」とスポーツ少年。


電話を終えた教師が、スポーツ少年からゆきを奪い、震えてるゆきの顔を両手で包む。


「私が来たから大丈夫だよ」と教師。


年下の男の子は銃を床に放り投げて、教師からゆきを奪い、ゆきの頬にキスをする。


「僕が守ったんだよ。王子様だからね」と年下の男の子。



それを見て、青筋立てたガキ大将が起き上がって、年下の男の子からゆきを奪って、力強く抱きしめた。


「うさぎみたいに震えやがって。ゆきは俺のだよな」とガキ大将。



ちょっと待て、とゆきは思った。


ガキ大将は、男を拘束していた。

年下の男の子は、床に銃を捨てた。




拘束が解かれた男は、手を伸ばして、銃を拾う。



「あ」と年下の男の子が言った。

「やべ」ガキ大将がつぶやいた。





パァァァァン



銃声が響き渡った。




















ゆきは、警察に事情聴取を受けていた。


そして、長かったそれに、解放されたゆきは、警察署の前で待っているだろう、父の元へ向かおうとしていた。


なんて長かった一日だ、とゆきは思った。


あの後に、何が起きたのかと言うと。


拘束が解かれた男は銃を拾い、自害した。

こめかみに銃を当てて。



2人の死者を出した新幹線は、車掌のおかげで東京駅に着く。


そして、ゆきは事情聴取のために警察に同行したのだ。



男と運転士の死体を思い出して、ゆきは、つい、ぼうっとしていた。



「ゆき」教師の涼やかな声だ。


「ゆき」スポーツ少年の爽やかな声だ。


「ゆき」ガキ大将の低い声だ。


「ゆきちゃん」年下の男の子の優しい声だ。


ハッと意識を現実に戻して、声の方を振り向かずに、全力で逃げる。





そんなゆきを幸せに出来る男はいるのか。


それはゆきしか知らない。


そして、4人に再会してから、不幸に(さい)なまれる間隔が短くなっていることに、後でゆきは気づくこととなる。



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