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サンノゼ

 日本の学生寮を何となくイメージしていた日置は、まずその建物が堅牢(けんろう)で近代的なことに圧倒された。


 更に驚いたことには、男女共に同じ建物で生活することだった。

 江上も同じ場所へ案内されたことから、可能性を考えて(しか)るべきであった。一応、フロアで区切っているとはいえ、出入りを禁じられているでもなく、どの階へ行っても男女どちらの姿も見られた。


 クライドたちは、本当に迎えに来ただけで、彼らを置いてすぐ帰ってしまった。また会う約束をしていたし、入居の慌ただしいところに立ち会う意味もない。

 日本的な感覚だと、少々冷たい気もするが、合理的な判断だった。


 日置たちは、案内係の学生に従って、各自の部屋へ荷物を置き、ルームメイトに紹介され、共用部分の案内や手続きなどを済ませた。

 全員が相部屋である。シャワールームやトイレ、食堂、コインランドリーは共用だ。そう、風呂というものはない。


 これも自分の大学のイメージだが、相部屋といっても、部屋自体が思っていたより広く、ルームメイトが後ろで勉強していても、圧迫感を感じないような距離に机が配置されていた。

 日米の体格差もあるかもしれない。もっとも、日置のルームメイトはインドから来た留学生で、日置よりよほど細かった。ただし背は高く、どことなく広隆寺にある半跏思惟像(はんかしいぞう)弥勒菩薩(みろくぼさつ)を連想させた。


 あらかた片付けが終わったところで、寮の外へ出てみる。住宅街でもなく、大学でもないように感じた。

 バス停まで見える。公園の中に住む感覚である。しかし間違いなく大学の構内なのだ。


 貰った地図を眺めると、美術館まであった。2週間の間に暇があれば、ぜひ観に行きたい。

 図書館は、朝から夜中まで開いているそうである。


 普通に入学した学生がそれほどまでに勉強しなければいけないのならば、たまたま外国から来合わせた日置などは、もっと励まなくては、追いつかない気がした。


 「おお、おった。日置、探したで」


 日本語が聞こえて振り向くと、宇梶と江上が建物から出てくるところだった。既に、日置の耳は英語に慣れてしまっている。

 少し前まで自分でも口にしていた言語が、随分と異邦の物に感じられた。


 「ちょっと、大学の方まで行ってみんか。ここも大学やけどな」


 ”ああ”


 英語で返事をしてしまったが、宇梶は気に留めなかった。



 講義開始は週明けからである。そういえば、身分証の発行など、大学事務局でする手続きもあったのを忘れていた。寮生も、よくも身分も定かでない日置たちを案内したものである。


 ちょうどやってきたバスに乗り、大学本部棟まで行き、手続きや案内を受けた。

 事前に、講義前に読んでおくべき書籍や論文について案内を受けていたにもかかわらず、ここで追加が発生したのには(あせ)った。よくあることらしい。


 ”構内にある書店で購入できます。運が良ければ、図書館にもあります”


 事務員が親切に教えてくれた。懐が痛むが、図書館を当てにするより、買った方が良さそうだった。


 そこからまたバスに乗って書店まで行き、目当ての本を購入した。

 店には、Tシャツやキャップやタオルといった、大学のネーム入りグッズが豊富に取り揃えてあり、どう見ても学生ではなさそうな人たちが買い求めていた。観光客らしい。


 大学の敷地内には、学生や教職員だけでなく、一般の人々も、かなりの割合で混じっているようだった。


 ちなみに、大学のマスコットキャラクターは、木、だそうである。目鼻をつけ擬人化したキャラクターではなく、シンプルに、木。その木をあしらったマグカップなども、売っていた。


 その後、本の厚みに(おのの)きつつ、現実逃避で大学観光に走った。どのみち夕食は、自力で済ませないといけないのだ。寮の食事が食べられるのは、明日の朝食からである。


 第31代大統領が設立したという、フーヴァータワーにも上った。

 大統領が大学に塔を建築するなど、日本の国立大学では、ちょっと考えられないことである。

 タワーの展望台からは、広い大学の敷地が360度見渡せて、改めてアメリカの大きさを感じることになった。

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