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身分の違い

 翌朝。

 クーバスから授与される際の所作などを教えられ、緊張が高まったデイビッドは不安そうな表情だった。

「デイビッド、大丈夫、私がついている」

 クーバスがデイビッドの肩に両手をおくと、デイビッドはコクリとうなずいた。

 衣装も全て準備されていて、メイドに身支度を整えてもらうと、お互いの正装した姿を見たリアナとデイビッドは顔を見合わせてほほえんだ。

 父と同じ栗色のくせ毛で、青い瞳を向けるデイビッドは、まるで若いダスカルが立っているようで、リアナは思わず涙ぐみそうになる。


 そして爵位と領主としての承認を国から得るため3人で城へむかった。

 デイビッドは国土を管理する大臣から証明書と楯を授与された。

 手続きをすませ承認の書類を受け取り、外へ向かう大階段を下りていると、突然声をかけられた。


「リアナ!」

 振り向くと見覚えのある顔がそこにあった。

「ヘンリー……さん?」

「当たった!やっぱり君だったか。間違ったらどうしようかと思ったよ。

 やあ、久しぶりだね。 どうしてここに?」

「あ……えと……」


 ヘンリーがクーバスに一礼し、クーバスもそれに答えた。

「リアナ、私たちは先に帰っておくね。

 夕食までにはまだ間があるから、ゆっくり帰ってくればいい」

「あ、はい。 夕食までには戻ります。デイビッドごめんね」

「はい、お姉さま」


 2人が去ると首をかしげながらヘンリーが言った。

「君はほんとうに不思議な人だな。ガタルンドから来たんじゃないのかい?

 以前会った時はたしか……」


「ヘンリー!」

 そこにまた懐かしい顔が。ユベールが現れた。

「君は……。リアナ……リアナだね!」

 ユベールが階段を駆け下りてくる。


「あらら、見つかってしまったね。

 君は突っ込みどころが満載だからいろいろ聞きたかったけど、ユベールに怒られるから退散するか。

 そうだ君、きれいになったね!」

 ヘンリーはウィンクをした。

 面と向かってそんなお世辞を言われたことがなかったリアナは、顔が紅潮しているのが自分でもわかった。


「ユベール、今日は遅刻しないように!

 俺が怒られるんだからな!」

 そう言ってヘンリーは階段を下りていった。


「ああ、わかっている!

 やあ、リアナ、久しぶりだね。覚えてる?」

 ユベールはうれしそうに息を弾ませている。


「はい、あのときは……ごめんなさい」

「よかった。覚えていてくれて。

 気にしなくていい。もう謝らないで。

 今日は……城に用があったの?

 まあ、そんなことはいいや。ちょっとつきあって」

 そう言うとリアナに手を差し出した。

 戸惑いつつもリアナが手を重ねると、その手を握ってにっこりとほほ笑んだ。


(この人の5年前と3年前の姿も知っている。

 今日のこの人はとてもりりしく大人びて見えて……まぶしすぎる)


「今から夜宴があるんだよ。

 私も出席しなくてはならない。良かったら君も参加しないか?」

 令嬢と呼ばれなくなってから久しいリアナは、夜宴の作法も貴族の所作にも自信がなかった。

 あれほどレッスンをうけたダンスも、もう踊れない。

 昔の自分は消えてしまって、これからも貴族に戻ることはないかもしれないと思っていた。


(断らなくちゃ……。気にならなかった窮屈な衣装に、今は耐えられそうもないから)

「いえ、わたくしは……」


「ユベール!」

 大きな力強い女性の声がリアナの声を遮り、建物の中に入ろうとしていたユベールとリアナは足をとめた。

 見るとそこには護衛を連れたガタルンドの王女、アンジェリカが立っていた。

(どうして王女様がエンリッツへ……)


「アンジェリカ様!」

 ユベールはリアナの手を放してアンジェリカのもとに駆けつけその手にキスをした。

「ようこそ! 今日は来てくださらないかと思いました」

「ああ、来るつもりはなかったのだが状況がかわってな」

 リアナは終始片膝をついたままこうべをたれて黙っていた。

(できるなら見つかりたくなかった……!)


「おお、リアナではないか!」

「アンジェリカ様、ご機嫌うるわしゅう」

「おいおい、そういうのはよそう。ちょうどよかった、頼みたいことがある」

 驚いた表情でリアナとアンジェリカのやり取りをみていたユベールが口を開いた。

「リアナ、なぜ君はひざまづいている。

 どういうことですかアンジェリカ様。お知り合いなのですか?」


「あ、ああ……というか、そなたたちこそ知り合いなのか?」

「ええ、知り合いと言っていいのか……」

 ユベールはそう言ってリアナの方を見た。

「ふむ、手を握っていたではないか」

 アンジェリカがサラリとそう言った。

(見られていたんだ! もう、逃げ出したい!)

 リアナは下を向いたまま何も答えず、ユベールは「ハハハ」と苦笑いをした。


「まあ、いい。リアナは、我が国の軍の人間だ。私の直属の部隊にいる。まだ新人だがな」

「そういうことか……。じゃあアンジェリカ様の従者として来たんだね。

 だったら夜宴に出ればいいのに」

「いや、私とは別に用事があったのだろう。王子の誘いだ、断れないなリアナ」


「王子?!」

 思わず声をだしてしまった。

「は? ユベールが王子だと知らなかったのか?」

「は、はい……」

 リアナは慌ててユベールの前で片膝をつき頭を下げた。

「数々の非礼をどうかお許し下さい」


「プッ……アハハハ!」

 アンジェリカが大笑いしている。

 リアナは頭を下げたまま動揺するばかりだった。


「いやあ、知らずに手を握らせていたのかと思うと笑えてな」

(穴があったら入りたい……)


「そんなことはしないで。立ってリアナ」

 王子が手を差し伸べたがリアナはそれには触れず、一歩下がって姿勢を正すと下を向いた。

 身の置き所がないのと、今の自分がみじめに思えて、ユベールの顏をみることができなかった。

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