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鳥に乗る魔女

 朝起きると、テーブルの上の木の実をライリが一生懸命食べていた。

 食べたいものが近くにあるときは勝手に食べに出てくる。

 雑食だから何をあげてもかまわない。


 リアナはエンリッツへ立つ前に、丈夫な装備を手に入れたかった。

 デルホーンに装備を買う許可をもらったので、制作するのではなくすぐに着用できる魔法装備を扱う店がないか、ステファノにたずねた。


「出来合いの魔法装備ですか、そうですね。

 城下町に市場がございまして、そこにはさまざまな装備品の店が軒を連ねております。

 防具店だけでもかなりの数があり、その中で魔法装備を扱っている店で……おお!」


 ステファノが、ポンッ!っと手をたたいた。

「マーシャル魔防具店へ行ってみてください。

 機能重視の魔法具を扱っている店で、既製品の装備も充実しているとの評判です。

 オーダー品は受けず、店の体裁もあまりよろしくないので、貴族の魔法士は足を運ばないようですが、軍の魔法士は利用者が多いようです。

 性能はお墨付きと言うことでしょう。今地図をかきますね」


 リアナはさっそくその店へ向かった。

 店はこの辺りでは一番地味な色味で、とても下手な文字で手書きされた看板が打ち付けられていた。

(ここよね……。確かに貴族が足を運ばないのが理解できるわ)


 店のドアをそっとあけると、中にはローブを中心にたくさんの魔法装備がぶら下がっていた。

(もうちょっと整理すればいいのに。これを見た瞬間に店を後にする人がきっといるわね)


「いらっしゃーい。 まだ開店まえだけど」

「あっ……ごめんなさい」

「いいのよ、どうぞー。 ここで生活してるから店だけど家なの。

 あ、私が店主ね。フフフ」

 店のカウンター越しにそう声をかけた大柄なその人は、仕草がとても女性らしい男の人だった。

(マーシャル魔防具店の店主と言うことはマーシャルさん?なのかな……)


「ありがとうございます。

 あの、肌が見えない黒い魔法装備が欲しいのですが」


「ふーん。 黒い魔法装備ねぇ、あなた何属性なの?

 属性によって相性の良い装備が違うから、まずそれを教えて」


「私は……」

(私に属性はないんだけど……んー)


 店のなかを見回すと、カウンターの上には水の入ったコップ、テーブルには木の実が置かれていた。

 リアナはその木の実を1つ取った。

 少し離れたカウンターの上のコップに向けて、右手を払うような仕草をして中の水を浮かせると、手を握るような仕草をして、瞬時に氷にした。

 氷は空中に浮遊したままクルクルまわっている。

 次に親指と中指に挟んだ木の木のみをはじくと、木の実は瞬時に火の玉になり浮遊した。

 両手をクロスさせると氷と火の玉がぶつか小さな花火のように火が散ると、床にはポトンっと焦げた木のみが転がった。


「こういう感じの……」

 それを見た店主は座っていた椅子ごと後ろに倒れてしまい、リアナはあわてて起こしに行った。

「ご、ごめんなさい。店のなかで突然魔法を使って」


「ごめんなさいじゃないわよ! あなた! 私と、私とお友達になって!」

(え……?)

 店主の意外な申し出にリアナは困惑した。


「あ、あの……」

 興奮した店主は、とまどうリアナの反応などお構いなしに裏返ったような声で言った。

「私、会ったのよ! 昔、今のあなたのような人に会ったの!」


 椅子を立てて座り直した店主は、フーと息を吐いたあと、リアナの魔法を見てなぜそんなに驚いたのかを話し始めた。


「私はバンデルク国出身なんだけど……。

 あ、ごめんなさい、名乗っていなかったわ。

 私はマーシャル、あなたお名前は?」


「リアナと申します」


「そう、よろしくリアナ。

 そうねぇもう18年くらい前になるかしら。

 ある人に命を助けてもらったの。

 その人はあなたのように道具も詠唱もなしに魔法を使っていて、古代魔法だと教えてもらったわ。

 なんとかお礼をしたかったんだけど、それきり見つけられなくて……。

 あなたのそれも古代魔法でしょ?」


「は、はい」

「ほらーやっぱり。その方のご家族とか……そんなことあるはずないわね。

 今はどこでどうしていらっしゃるのかしら。

 こんな所でまた古代魔法を見ることができるなんて本当に感激だわ。

 そうだ、ちょっと待ってて」

 マーシャルは奥の部屋に入って行った。

「もうね、とっておきをあげちゃう!」

 そう声を上げながら、ガザゴゾ、ドスンっと音を立てながら部屋の奥で何かをしている。


 この店の経営者であるマーシャルは、魔法士だが趣味でこの店をやっている。

 装備は恋人が作っていると言う話だった。

 奥の部屋から持ってきた装備は、黒いぼろきれを重ねたようなローブだった。

 下に着る装備も革ではなく布製で、剣で刺されたときの防御が大丈夫なのかリアナは少し不安に思った。


 試着してみると、姿は思った通りまるで黒い亡霊。

 フードをかぶると目以外はすべて隠れる。

 しかもフードを前に深くかぶれば顔はまったく見えなくなる。

 手甲は指先の部分だけ隠れていなかったが、あとは首までまったく肌は見えない。

 しかもこの生地は光を反射しない。

 まさにリアナが望んでいた装備だった。

 そして着ているうちにどんどんサイズが変わり、体にぴったりの大きさになった。


「す、すごい。装備が生きてるみたい……」

「でしょうー。 それね魔力を帯びたツタの繊維を糸にして織ったものなのよ。

 その糸で織った装備は、体温と外気温の差も調整してくれて、防御力もそこいらの甲冑よりずっと高いんだから。

 私の彼、裁縫士なんだけど同化のスキルっていうのがあってね。

 できた魔法装備にそのスキルで同化の刻印っていうのを施すと体にあわせて自動で大きさを調整してくれる装備になるのよ。

 それと……」


 マーシャルがいきなり上のローブを脱がせた

 裏返しにすると、裏は革の質感の茶色いローブだった。


「普段はこっちを着て歩かないと怪しすぎるでしょ?

 革のほうは暗闇でも少し光があれば反射するわ。

 黒い方はそうねぇ……スパイだったら大喜びよね! アハハ」


「アハハ……」

 リアナは笑うしかなかった。


「これ、あなたにプレゼントしちゃうわ!」

「ええ、でもこんなすごい装備……。いいんでしょうか?」

「いいの、お友達になってくれれば!

 私を助けてくれたあの人にまた会えたような気分だわ。もう感激!

 あなたには何かしてあげたくなっちゃうわね。

 私があの人に助けてもらったように……。

 困ったことがあったら何でも相談して!

 でも約束、いい、絶対遊びに来るのよ!」


 リアナはマーシャルを助けた人に感謝した。

 その人の親切がマーシャルから自分に渡ってきたのだから。

「はい! ありがとうございました!」


 こうして思いがけず優秀な装備を手に入れることができたリアナはひさびさに心が躍った。

 そして母に止められていたアエロの能力を全解放したくなった。


(誰に見られても噂になってもそれで危険な目にあっても構わない。

 私はこれから全力で大人になる)


 茶色のローブを身にまとい大きな広場に来た。

 そこには巨大な彫像から水が流れ出る美しい噴水があり、広場には大勢の人々がいた。


『アエロ、姿を見せて』

 透明な姿でリアナのそばについていたアエロは、羽を広げ天に向けて首を真っ直ぐに伸ばした。

 一瞬で、誰にでも見える姿で現れたアエロは、馬よりもひと回り大きな水色の美しい鳥だった

 胸の羽は金色で足は太く鋭い爪をたずさえている。

 広場にいた人たちはアエロの姿を見て一斉に騒ぎ出した。

 驚き駆け出すものや、子供たちは興味津々で近寄ってきた。

 リアナはアエロに飛び乗り、その背中に立った。

 するとポケットの中にいたライリが飛び出しリアナの肩に乗った。

「ライリ、落ちないでね!」


 乗った瞬間、リアナとアエロの意識は一体化する。

 行きたい場所を思うだけでアエロはそこに行ってくれる。

 アエロが乱暴に飛んでもリアナが振り落とされることはない。


『飛べ!』

「クウィィー」とひと鳴きすると、アエロは一度羽ばたいただけで、噴水の彫像を飛び越すほどの高さまであがった。


「すげぇー!」

「青い鳥だ!」

 子供たちが叫んでいる。


「かっこいい!」

「追いかけろー!」

 広場を一度旋回すると、今までにない解放感があった。

 隠さずにアエロに乗れたからだけじゃない。

 大きな悲しみに押さえつけられていた心が、先に進むために解き放たれた気がした。


(追い詰められた私にはこの道しかなかったけど最良の選択だったといつか思えるように全力で挑む!)


「鳥に乗る魔女だ! みんな追いかけろ!」


 杖にのって追いかけてくる人や走ったり馬で追いかけてくる人など、大勢の人がついてきた。

 そこでやっと、しでかしたことの大きさに気が付いた。


(ど……どうしよう。 そうよね、こうなるわよね。

 私って、もう!

 こうなったら、仕方がないわね……。

 とりあえず王宮内の学校へ……って、撃ち落とされるかも!)


 そう思ったときにはすでに王宮の壁の上まできていて、警備兵がこちらを指さしているのが見えた。

 もうこの状況を回避する手立てが思い浮かばなかった。


(逃げるしかない! 高く、高く、もっと高く!)

 塀の上の兵士の矢が当たらない高さまで急上昇したが、すでに王宮の敷地に入ってしまっていた。


 壁の警備兵や続々と集まってくる兵士たちが、火を纏った矢や氷塊の魔法など、あらゆる攻撃を講じてきたがリアナとアエロには届かなかった。

 しばらくすると、空を飛ぶ馬の部隊が下からすごい勢いで追いかけてくる!


「こ、ごめんなさーい!」

 大声で叫んだがおそらく空を飛ぶ馬の兵士たちには届いていない。


 全ての追っ手を振り切り、学校の校庭に降りるとすぐにアエロを消して、何食わぬ顔で校舎に入ろうとした……が、時すでに遅し。

 羽の生えた馬10頭ほどに囲まれ、その上でにらみながら槍や弓を構える兵士たちの鼻息と憤りが伝わって来た。


「すみませんでした! こ、ここの生徒です!」


 その兵士たちの後ろに、杖にのったデルホーンが飛んでくるのが見えた。

 普段でも鋭い眼光なのに、それに輪をかけ顔全体で怒りを表現している。

 恐ろしい形相で杖から飛び降りるとリアナの首根っこをつかんだ。


「バカ者が!」


 そのあとさんざん怒られ、誰か知らないが同じ部屋にいる男女2人に笑われ、初めてお目にかかる校長まで来て、自分のしでかしたことの大きさを痛感した。

 終始涙目でおろおろとしながら、早くこの時間が終わって気が付いたら明日になっていないかと真剣に願った。

 ひとしきり怒られたあと、校長が部屋から出て行ってホッとしたのもつかの間。

 腕を組んで黙っていたデルホーンが机をひとたたきした。


「どんなに大人びたことを言おうが、君は所詮12歳の子供なんだ!

 まだ活躍はできなくもいい、そんなことは期待していない!

 だが人に迷惑はかけるな!

 はあ……疲れる。故郷に帰る前にここに呼んだのは正解だった。

 心配でとても野放しにはできない!」

 デルホーンは額に指を当てて小さく首を横に振る。


「先生、心配で……なんて言うと、なーんか聞こえがいいですが、ちょっと違いませんか?」

「グッ……ゴホンゴホン」

 部屋にいた女性がそう言うとデルホーンは少し動揺したように咳払いをした。

 もう1人の男性は笑いをこらえている。


「さて……」

(あ、いつもの冷静な顔に戻った……)


「リアナ、この2人は君の先輩だ。 キーシャとモニカ」

(先輩ってことは、本物の諜報員?)


 キーシャは背が高く細身で、リアナと同じ赤毛だった。

 デルホーンに負けぬほど目つきは鋭いが、笑うととても幼く見えた。

 モニカは小柄な女性で美しい黒髪を結い上げ、すいこまれそうな黒い大きな瞳で見つめてくる。


「自己紹介はあとで自分たちでやりなさい。

 この2人が受けた重要度B危険度Eのエンリッツ国の諜報任務がある。

 行き先は君と同じエリトバ領だ。

 君は同行して2人の活動を見学しなさい。

 そして2人にはリアナのおもりを頼む。

 計画や詳細をリアナに説明してやってくれ」


(いきなり任務を見学って……。

 心配でとても野放しにはできない、なんて先生は言ったけど、最初からこのことは予定されていた?

 ひどい……。

 1人で行きたかったのにそれも許されないの?)


「これから渡す身分証は、年齢や名前はそのままだ。

 出身地と職業などは偽の情報になっているから覚えるように。

 それからリアナ、ステッキを杖に変えて乗れることはできるだろう?」

「はい、でも今ステッキは持っていません」


「そうか。人目が多い所では鳥ではなく杖に乗りなさい。

 キーシャ、ステッキを準備してやってくれ。

 手に入れた情報はいつも通り、ホメロスに渡すように。 以上だ」


「了解! 行ってきますボス!」

 そういうとキーシャはリアナの手をつかんで部屋を飛び出した。


「ちょっ……あの!」

「ステッキを取りに行こう!」



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