大切な思い出ができたから~リアナ覚醒
顔に水を浴びせられたような衝撃を受けた。
親しい間柄でもないラミのことで、なぜ自分が衝撃を受けるのかもよくわからなかった。
ラミの態度が自分にだけ特別であったわけではないのに、期待をしてしまう卑しい自分に腹が立った。
抱き合う2人の姿を目にしたおかげで、迷っていた心は簡単にもとの道へ戻れた。
見てしまえば、知ってしまえば案外納得がいって答えが出るものなんだとリアナは思った。
(心は複雑なようでとても単純なのかもしれない。私は、夢を見ていただけ)
翌日、訓練場へ来るよう指示を受けた。
訓練場は土が向き出しの場所に、訓練用の器具や人型の木の人形が立てられている。
すぐそばは崖で柵はなく、その向こうは海だった。
(半月後には作戦が動き出す、それまでにできるだけたくさんのことを覚えなきゃ)
ふっきれたリアナには、修練の邪魔になる感情がなくなっていた。
訓練場にラミと共に獣人のシェラがやってきた。
リアナはまともに魔法学校に通ったことがなく、古代魔法を教えてくれる人もいなかったため今まで適当に魔法を使っていた。
(教えてくれるってことは、ラミ様も古代魔法士なのよね……)
「まず古代魔法の体形は3つ。
物の形を変化させる、属性をまとわせる、移動させる。
それに加えて念導という念波を相手に伝える攻撃がある。
なにかできる魔法を使ってみて」
(変化させる、まとわせる、移動させる……今までやってきたことね。これならできる)
近くにあるものは草や小石しかない。
複数の小石を空中に浮かしそれに炎をまとわせ、手を握るようにして大きな塊にして遠くへ飛ばした。
「悪くない。体形3つ全て入っているね。
あとは速度と組み合わせ。
1つの組み合わせを2回連続でだすと2回目の威力は倍になる。
3回目は3倍。魔力の消費もひどいからその案分は体でおぼえること。
次に念導。シェラに撃ってみて」
「ええ……」
「大丈夫だよ、獣人族はダメージの回避や減少をさせるスキル能力が高いんだ。
それにこの子はこんなにかわいいけど百戦錬磨だ」
「そうなのです! 遠慮なくどうぞリアナ様!」
シェラが力こぶをたたいて見せた。
「リアナ、声に出さないで念を送るんだ」
この島で初日に城で暴れたとき、偶然発動された攻撃があった。
あっちに行って! と叫んだら数名の兵士が後ろに跳ねるようにころがった。
たぶんあれが念導というものなのだろう。
『飛べ!』
シェラ目がけて念を送ると、シェラのおなかに空気の塊のようなものが飛んだ気がした。
「おぅふ。 んー結構いい感じですね。
これなら攻撃してくる相手をダウンさせられます」
そう言いながらシェラは顔をゆがめてお腹を押さえている。
「ご、ごめんなさい!」
「いえいえ、なんのこれしき!」
「基本は大丈夫そうだね。
この念導も重ね掛けができるんだ。
2回目以降は倍以上の効果がでる。
3回くらいの重ね掛けで舵板くらい簡単に穴をあけられるよ。
便利だから連続でできるように練習してね」
「はい」
その日から、ほとんど毎日シェラとの訓練になり、ラミは時々のぞきに来る程度だった。
訓練開始から8日目。
「いい感じに仕上がってきたね。今日は訓練の仕上げをしよう」
「仕上げ……ですか。はい、ラミ様」
「ラミって呼んでよ、2人でいるときは」
「あ、はい……ラミ」
動揺を隠しながらなるべく普通に答えた。
「うん、いい子だ」
(こんな恥ずかしいやりとりを、簡単に仕掛けてくるラミはやっぱり大人だ……)
「最後はアエロを意識せずに動かすための訓練だ。
一度その感覚を覚えたら、その後はいつでもそういう状態になる。
先に進むためには必ず会得しなきゃいけない。
アエロは道具じゃない、同士だ。その気持ちを忘れないように。
もしかしたら魔力不足で気を失ってしまうかもしれないが……まあいい、やってみよう」
「おーい! リアナ!」
マーシャルとチャドが走ってきた。
「邪魔が入ったね」
ラミがほほえんだ。 そのほほえみに素直に笑顔で返せないリアナだった。
「あ、ラミ艦長、聞いて下さい。
今、ガタルンド側の本部から使いが来て、あちらの準備がほぼ整ったみたいで、打ち合わせに誰かよこしてほしいとのことです」
息をきらせながらマーシャルがそう言った。
「そう、少しだけ予定が早まったわけだ。
わかった。アーミルに3日後の深夜に艦隊がザッカス島に到着するように手配させて。
それと今夜から中型の船で艦隊以外の人員を島に送るように。
打ち合わせは私が出るよ」
「はい! 俺、アーミル様に連絡へ行ってくるね兄貴!」
「おう、頼んだぞチャド!」
「さてとリアナ、アエロを出さずにあそこの崖から飛び降りて」
「え?」
「お……おい、何の訓練やってんだよ」
「マーシャル、君は観客じゃない、石だ。そこで黙っていなさい」
ラミの言葉にマーシャルは口をパクパクさせた。
「い……石って!」
「飛び降りてから呼ぶんじゃなくて自分の手足のように無意識でアエロを出して動かすんだ。
心配しないで、私がいる」
ラミがリアナの目をみつめて言った。
その一言は呪文のように、全てを信じさせる力を持っている。
「はい」
マーシャルは少し後ろへ下がり言われた通り石のように座り込んだ。
(ラミ様を信じる……)
リアナは駆け出した。
徐々に速度を上げてためらわずに崖から飛び降りた。
もう止められない、流れるように岸壁の岩肌が通り過ぎる。
そのとき「クウィィー」とアエロが鳴いた。
そしてリアナはアエロの上に立っていた。
前よりも速度が速くそして一体感があった。
気が付くと同じ速度で飛ぶラミが横にいた。
「上出来だ。これからは君が必要と感じた瞬間、アエロは求められた姿で出てきて行動する。
さあここからが本番だ。私に追いついてみてね」
ラミの白いアエロはどんどん上昇していく、早すぎて追いつけないが必死に追いかける。
追いつこうと思うだけで、リアナのアエロはどんどん加速する。
今まで体感したことのない風を感じ、もう目は開けていられないはずなのに、何かで覆われているように体への抵抗は少ない。
それでも早すぎて、息が苦しくなってきた。
(まって……ラミ。 私ではついていけ……ない……)
このまま意識を失うんじゃないかと思った瞬間、バフッっと別の空間に入ったような感覚があった。
輝く光に包まれ、風や重力の全ての抵抗がなくなり、周りの音までも静かになった。
(心と……体も、解き放たれた感じ。アエロと一体化している?
体は別のはずだけど……私は今、アエロだ)
その状態に入ってからは更に加速し、どんどんラミに近づいていく。
しばらくするとリアナとアエロを包んでいた輝く光が徐々に小さくなった。
多少の風の抵抗はあるがまったく気にならない。
すぐ横にラミが来た。
「おめでとう。1回で覚醒に成功したね。魔力も足りていたようだ」
「覚醒……これが。私、覚醒できたんですね! ありがとうラミ!」
「その髪もステキだ」
「え?」
(髪? なんのことを言っているんだろう……)
地べたに座り込み、その様子をみていたマーシャルは、立ち上がり両手で頭をかかえた。
「なんてこった……。あの人だ……あの人だ!」
そう叫ぶマーシャルの目に映ったリアナは、赤毛だった髪が母と同じ金色にかわっていた。
「俺を助けてくれたあの人に……そっくりだ!」
◇
「さあ、マーシャルから見えない場所まで飛ぶよ」
「え、いいんですか?!」
「ついてきて」
マーシャルを置き去りにしてラミとリアナは2羽の鳥がじゃれ合うように、離れたり近寄ったりして笑いながら空を飛んだ。
(本当にたのしくて……。たのしくて仕方がない)
そして天に昇る丘を低空で飛んだ。
本当にマルベスの丘を走っているようだった。
(最初にこの丘に来た時のような心の痛みを今は感じない。
それはきっと、ラミといることが楽しいから。
これ以上は望まないし、望んでも手に入らない。
これが好きという感情なのかわからないけれど、初めての心の高鳴りをこの人から教わった。
それで充分。大切な思い出ができたから)
リアナたちは丘の端に立ち並ぶ5本の大きな木の下に降りた。
降りた途端、ラミがリアナを抱きしめた。
リアナは抵抗する気がまったくおきず、むしろラミの背中に手を回したかった。
(ラミにとって私は遊び道具みたいなものかもしれない。
わかっているから……それでもいいから、少しくらい甘えていいかな……神様)
パッとリアナから手を放したラミは、くるりとリアナに背中を向け、少しため息をつくとアエロに飛び乗った。
「君をそこへ置き去りにする。私をこまらせた罰だ」
そういって笑顔で去ってしまった。
その場にへたり込んだリアナは、ラミの姿が見えなくなるまでそうしていた。
◇
「リアナ、私はどうやら君に魅せられてしまったらしい。
この気持ちをいつまで抑えておけるか……」
◇




