宿場町に着いたよ
「やっと宿場町についたわね」
「歩き詰めだったから、疲れたでしょ。今日は宿屋で休めるかな」
「宿屋があるといいけど」
「小さい村だもんね。この村は、カミユ村っていうみたい」
マルク村を出発して六日。
のんびりした旅路だったせいで予定よりも時間がかかったけれど、私たちは無事に街道沿いの村まで到着した。
期待してた商隊にも会えなくて、ずっと徒歩だったら余計に時間がかかったんだ。
「おやあ、あんたたち、山沿いの街道から来たのかい? 珍しいこともあるもんだ」
「こんにちは、おじさん。私たちはマルク村から来たんだよ」
「あんな山の中から来たんかい。そりゃ疲れてるだろう。でもこの村には宿屋はないぞ」
通りがかった村のおじさんは、私たちの姿をしげしげと眺めながら話しかけてきた。
肩にクワを担いでいるから、農作業の帰りなのかな。
「娘っ子だけできたんか? あぶねえなあ」
「街道に出たら商隊とかと合流できるかと思ったんだけど」
「西側の湖沿いに新街道が出来てからは、帝都からの商隊はみんなそっちにいっちまうからなあ」
「新しい街道ができたの?」
「知らねえのか? 随分前のことだけどなあ」
「マルク村は田舎だからね、情報も入ってこないんだよ」
「そうかあ。村長さんちなら広いから泊めてくれるかもしれね。聞いてみい」
そういうと、おじさんは歩いて行ってしまった。
「村長さんの家は、あの大きな建物かな?」
「そうね、行ってみましょう」
「ん、ごはんか?」
「違うよ~」
「む。ごはんになったら起こすがよい」
そういうと、シュバルツはもそもそと私の胸元に潜り込んだ。
最近のシュバルツのお気に入りの場所だ。
シュバルツが入っていると、やたら巨乳に見えて恥ずかしいからやめてほしいんだけどね。
やれやれと思いながら、私とアイシャは村長さんの家らしき建物にむかっていった。
どこの村もだいたい、真ん中にある大きな建物が村長さんの家だから、恐らく間違ってはいないだろう。
「この村には、お店とかはなさそうね」
「うん。冒険者ギルドもないかなあ」
「冒険者ギルドって、大きな町にしかないんでしょう?」
「そういうわけでもないけど……」
冒険者ギルドは、魔物の発生が多く、依頼が多く見込まれる地域に作られる。
小さな町や村でも、出張ギルドや簡易ギルドが作られたりもするのだ。
申し訳程度の柵の外には畑がひろがり、ぽつりぽつりと村人たちが畑仕事に精を出している。
魔物の襲撃はほとんどないんだろう。
なんともなじみ深い風景の、マルク村と大して変わらないような田舎の村だ。
ほぼ自給自足だろうし、商店なんかはないだろう。
「魔物の襲撃や依頼とかはあんまりない、平和な村なんだと思うよ」
「平和か。平和なのはいいことよね。つまらないけど」
「まあまあ」
のんびりした村の空気に、のどかな気分になりながら歩いていると、あっという間に村長の家に到着した。
アイシャが木製の扉をたたき、声をかける。
「たのもーう」
「道場破りか。すみませーん。誰かいますかー」
声をかけてしばらく。
どたどたと慌てるような足音が聞こえ、扉が勢いよく開かれた。
「ばあさん、待ってたよ……! って、誰だ?」
「へ?」
扉を開けて顔を出したのは、二十代くらいのの男性だった。
しかしレティたちを見ると、喜色を浮かべていた顔がみるみる曇り、がっかりと肩を落とした。
そんな男性の様子に、レティとアイシャは顔を見合わせた。
「誰か待ち人がいたの?」
「ああ、まあな」
「えっと、村長さんですか?
「村長は俺のおやじだ。親父になんか用か?」
「私たちは旅の者で、今夜の宿をお願いできないかとお尋ねしました。それよりどうかしたんですか? なにかお困りのご様子ですが」
「宿か……それこそ親父に聞かないとわからねえなあ。泊めてやりたいのはやまやまなんだが実は、親父が今寝込んでいてな。薬師のばあさんを待ってるんだけど」
「ご病気ですか?」
「ああ、それがよくわからねえんだ。急に具合が悪くなってな……ああ、ばあさん、待ってたよ!」
男性が声をかけた方に顔を向けると、杖をついたおばあさんが歩いてきた。
「そうせかすんじゃないよ。デニスの様子はどうなんだい」
「ああ、それが、今朝急に倒れてから、意識ももうろうとしてるかんじでな。手足が赤黒く変色してきてるんだよ。親父、なんか変な病気かなあ」
「変色だって⁉ まさか……早くデニスのところに案内しな!」
「お、おう!」
そういうと、二人は家の中に入っていってしまった。
「村長さん、病気かな」
「わからないけど、旅人を泊めるどころじゃなさそうなのは確かね」
取り残された私たちは、顔を見合わせて肩をすくめた。
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